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第六節 ヒロイン①

初登校?タマと金髪兄妹との出会い。

 「お、おお、お着替えを手伝い、ます。」

 オドオドして私の着替えを手伝おうとしている私の新しい専属メイド、名前は「猫屋敷(ねこやしき) 玉藻(たまも)」と言い、ドジっ子メイドである。

 当初、その特徴的な名前に惹かれて、おふざけ半分でこの子を選んだが、今はちょっと後悔している。

 ビリーッ。

 服の破ける音がした。

 「あれ?...ご、ごめんなさい!お嬢様!」

 私にとって初めて着る制服、一瞬にして「ぼろ雑巾」になった。

 少し前に早苗さんに言われた忠告が頭に蘇る。

 ※「確かに護衛面に置いて彼女より優れた人材は居りません。しかし、未だに最低限の仕事もこなせていない彼女では、お嬢様の世話役が勤まりません。」

 あの時は「大丈夫だろう」と気楽に考えて早苗さんの忠告をあしらったが...

 「すぐ、新しい制服を、ギャッ...」

 彼女は自分が置いた椅子にぶつけて、派手に転んだ。

 はぁーっ、何をやっているのだろう、この子は...

 よく考えれば私が一番傍にいさせたい「メイド」は早苗さんだったのだが、昨日「お話がしたい」と言った私が先に寝てしまったし、今朝早苗さんからも昨日の事を何も言ってくれなかったせいで、その事もすっかりお流れになっちゃった。それで、色々な事がうやむやになって、私もつい他のメイドから一人を選んで専属にすることに同意した。

 とは言え、早苗さんが紹介したメイド達もぱっとしない。別に不細工と言うわけじゃないが、むしろ見目麗しい人達だし。単純に「一緒に居たい」気分にならないから、心がけちをつけている。

 それでさっき、早苗さんが口にした「猫屋敷」さんを無理にして専属メイドに指名したのだった。

 紹介されたメイド達の中にすら入っていない「猫屋敷」さんは早苗さんほど長身ではないが、それでもかなり高い方だと思う。見た感じは160cmから170cmの間くらいだろう。

 それと比べて、私はやっと彼女の胸あたりを越えるくらいの身長しかない。他のメイドも全員私より高いし...そもそも、私より低い人はまだ会っていないし...

 ちょっと凹む...

 身長の特徴以外、彼女はもう一つ目立つ特徴がある。

 猫耳。

 最初はお洒落なカチューシャだと思っていたが、その同時に自分の「常識」のなさを考量し、すぐに触って確かめた。結果、彼女の「猫耳」は本物だし、それ以外の耳はない。

 彼女の見た目は後大きな瞳と、茶髪と、丸い顔くらいでしょうか。

 「お嬢様!服、服!」

 慌しく新しい服を持ってくる彼女に、「敬語が下手」という特徴を付け加えよう。

 猫屋敷さんは新しい制服を私に着せようとしていたが、人に服の着せ方がわからないみたいんだったので、私の寝巻きを脱がずそのまま着せようとした。

 このドジっ子にこれ以上付き合えないと思い、彼女から服を奪い、その彼女を部屋の隅に立たせてもらった。

 彼女の見た目からしておそらく26、7歳でしょう。早苗さんの話によると、彼女はまだメイド初めて5年目だそうだ。何で「まだ」という単語を使ったのを聞いたら、殆どのメイドは生まれた時からうちで働いていたから、他と比べて彼女はまだ新人といえる。

 ただ、5年も働いたら、流石にここまでドジじゃない筈だが...

 「くっ...」

 不意に彼女のほうから音が聞こえた。隅にいる彼女に目を向くと、声を押して泣いている彼女が見えた。

 私は彼女のドジさに苛立ち、彼女に強く当たっていたが、それと同時に、彼女は自分よりよほど年下の人に叱られた事になる。

 それは、どんな気持ちだろう。

 きっと、凄く嫌な気持ちだろう。

 生憎、私はそれを理解できない。知らないものはわからない。

 だが、辛くしている彼女の姿を見たくない。悲しんでいる女の子を見たくない。

 ――見ないほうがいい――

 着替えた私は彼女の傍に行った。しかし彼女が私を見えた瞬間、私から逃げるようにすごい勢いで反対側へ回った。

 「ごめんなさい!お嬢様、ごめんなさい!」

 彼女は両膝を床に付き、祈るように両手を合わせて私に謝っている。そこまでの事をしなくてもいいと思うが、彼女にとってそうじゃないらしい。

 「いいよ、猫屋敷さん。もう気にしていないから...」

 実は先ほど、彼女は私にいろんな「失礼」を犯している。服を破ける事と転んだ隙に椅子を壊した事以外、髪を梳く時に私の髪の毛を痛めたり、朝ごはんが来たときに余計な手伝いをして一回目のご飯を床にぶちまけたり、その床に掃除するためうっかり私の下着を使ったり...

 ...

 私、結構懐深いかも...

 だが、それでも土下座する事はないと思う。

 土下座?

 土下座は何でしょう?

 私は猫屋敷さんの腕を掴んで、彼女を立たせた。彼女は泣きながら嬉しそうに私を見つめるが、その泣き顔を見た途端、私は少し彼女に意地悪したくなった。

 私はわざと眉を顰めて、彼女から顔を逸らす。

 「あ、やっぱ駄目だ。なんか罰を与えないと...」

 「罰!」

 「そう。何かいいかな...」

 私は少し考えるフリをした。その間、緊張して目を泳いでいる彼女を観察した。

 何をされるかがわからない彼女は体全身が震えていて、額に少し冷や汗をかいている。両足はまっすぐに揃えて、両手も綺麗にその両側に当てている。まるで軍人のような綺麗なフォームをしている。

 軍人?

 「ねぇ、何かいいと思う?」私は徐に彼女に質問した。

 「え、何でしょう。」

 「ばーつっ。」

 「な、なんでもかまいません!なんでも、受け入れます!」

 軽々しく「なんでも」と言う言葉使わないほうがいいと思うか。

 なんとなく...

 「ふーん。じゃ、今後お前の事を『タマ』と呼ぶよ。」

 「え?」

 不思議そうに私を見つめる「タマ」ちゃん。まさか自分がペットのような名前を付けられるとは思っていないでしょう。

 彼女にとってこの罰、軽いのか重いのか、どっちでしょう。

 「なに?いやなの?」

 「いえ!そんなことない、です。」

 「ならいい。」

 彼女の短い朝で犯したミスに罰を与えることもあるが、何より「猫屋敷」という名前が長くて笑えるから、毎回「猫屋敷さん」と呼ぶのも疲れそうだから、名前の「玉藻」の中から「タマ」を取って呼ぶことにしたい。それで今回適当な理由を付けて――適当でもないが――彼女の呼び方を「タマ」にした。

 見た目的にも「猫」っぽいし...

 「タマ」という名前を気に入ったかどうか、彼女は恐々に私に聞く。

 「それだけ?」

 「言葉仕えなってないねぇ。」

 「し、失礼しました!」

 ふふん。

 私も別に敬語とかわからないが、タマは少なくても丁寧語も使えていない。

 彼女の5年間は何を学んだんだろう。

 「えっと、『それだけ、ですか』?『でございますか』?どう言えばいいでしょう。」

 ――面白い――

 「いいよ、タマ、今回それで許してあげる。」

 「本当ですか!」

 「うん。」

 「でも、私は、うぅ、か、数々の無礼をしていて...」

 「うん、いい、大丈夫。」

 「あ、ありがとうございます。お優しいお嬢様。」

 どうせこれからもいっぱい「失礼」をしてくるでしょうから、その時にまた...ふふん。

 「タマ。」

 私は手を伸ばして、タマの頬に手を当てて、まっすぐに両目を合わせた。

 「私はタマを信じている。タマはきっと良き従者になれると思う。」

 ――嘘だけど――

 「タマを専属に指名したのも、タマならできると思っているから。」

 ――変な名前だからなんだけど――

 「だからタマ。私の期待に応えて。」

 ――わるい、大して期待していない――

 私の言葉を聞いて、タマは両目を潤して私を見つめた。そして私に深く頭を下げた。

 「ありがとうございます!タマ、必ず期待に応えます!」

 早速自分の呼び名になれてくれて嬉しいよ。

 私に誠意を込めて頭を下げたのはきっと彼女の最大な礼儀でしょうが、生憎彼女は私より高く、私に頬を触れている状態、必ず私が彼女の真下にいることになる。その結果、「深く頭を下げた」彼女は、そのお凸を使って、私に思い切り頭突きをした。

 「ぐぅー。」

 ぶつけられた瞬間、私は痛みよりも先に眩暈がした。危うく気絶しそうなところ何とか意識を保つ事ができた。しかし、その後に襲ってきた痛みは恐ろしいものだった。私は自分のお凸を押さえてしゃがみ、暫く立てなくなっていた。

 耳がタマが「ごめんなさい」を連呼する音を拾えた。それを聞き、理性が私に「今ならでも遅くない!他のに代えろ」と忠告するが、頭のどこから「ドジっ娘こメイドは可愛いものだよ」と囁いている。

 私は結局タマを他のに代えず、そのまま共にする事を許した。

 バカなんだろうか、私は...


 学園への道は徒歩だ。そんなに距離もないとは言え、やはり馬車の送り向かいがくると予想していたが、大外れだった。

 それもそっか。

 よく考えれば、他の学生も「屋敷」に寄宿しているから、登下校するだけで馬車を使わないでしょう。

 最早「学生寮」となっている屋敷は何でまだ「屋敷」と呼ばれているのだろうか。

 「学生寮」なら「寮母」一人で回せるし、朝ごはんも「食堂」的な場所で取るだろうが、「屋敷(ここ)」は部屋がちょっと豪華――ちょっとしか――な上に、朝食は自室で取ることになっている。

 だから「屋敷」なのだろう。

 他の生徒も私と同じ徒歩で登校している。挨拶する人もいれば、避けていく人も居る。その一人一人を名前・出身地などのことをタマが無理やり教えてくる。

 別に聞いていないから、タマを止めていないけど、ちょっとうざい。

 「あ、見て、お嬢様!あれ、あれ!」

 タマが私の肩を叩いて、ある場所に指差した。

 先まで私に怯えているタマが今友達感覚で私に話しかけてくる。そんな無礼をするタマを「仕方ないヤツ」と思うし、ちょっと嬉しいと思った。

 私はタマが指した場所に目を向くと、タマが楽しそうな声で彼女が指した人を紹介した。

 「あそこの金髪でかっこいい男性は『千条院(せんじょういん) (のぞみ)』様、名前は『希望』の後の方の文字で『のぞみ』と呼ぶので、その若さで『千条院』家の当主となった男だよ。」

 センジョウイン...

 名前のほうはなんとなく想像がつくから、教えるのなら苗字のほうを教えて欲しいんだが。

 音から聞くと結構お金持ちのイメージがするな。うちの「守澄(もりすみ)」という苗字よりもよほどそれっぽい。

 その人はタマの言った通りにかなりのイケメンである。

 少し赤みを含む肌色な皮膚、すらっと伸びた手足、身長は約170cm、金色でアップバングの髪と緑の瞳。

 あれは金髪碧眼(きんぱつへきがん)と呼ぶものでしょうか。

 彼はよく挨拶される、その度に笑顔で返事する、爽やかな人だ。

 こういう人はモテるでしょうねぇ。

 私は意外と彼に興味ないみたい。

 一応彼の体の隅々まで観察した。服の下のところまではわからないが、まるで御伽噺の中の王子様みたいな外見の彼は、変と思えるところはなかった。

 「お嬢様!あの方に興味あります?」タマは興奮気味に私に聞いてきた。

 興味はあるが、素直に言ったら変な捉え方されそうなので、はっきり「ない!」と答えた。

 「興味ない」ことをアピールする為に顔を逆方向へ向いたのだが、却って逆効果を招いたみたい。

 「嘘だね。」タマがドヤ顔をして言い切った。

 本当に少しうざいやつだな、タマは。

 「お嬢様、嘘はよくないよ。自分の気持ちに素直になって、本当のことを教えてください。」タマは調子に乗って私の顔を突いてしつこく聞いてきた。

 寛大な私はタマの「失礼」に腹が立たないが、弄られるのは嫌だ。

 ああ、嫌だ。多分私の中で3番目くらい嫌なことだろう。

 だから、私を弄ろうとするタマを無視した。


 「あれ?ななえちゃん。」

 不意に呼ばれた気がした。

 澄み切った綺麗な声で、まるで天使に呼ばれたような感じがした。

 私は声のほうへ顔を向くと、一人の「金髪」が走って寄ってきた。

 チッ

 「天使」の声の人はさっきの「望」というイケメンの声だった。

 自分でもおかしいと思う。何故自分は「イケメンに呼ばれた」ことへの反応が「ラッキー」ではなく、「チッ」という舌打ちなのだろう。

 私は「ブサ専」や「デブ専」なんだろうか。

 ――ブサ専?デブ専?どういう意味だ?――

 「お、お嬢様!呼ばれてますよ!」

 タマは己の「興奮」を抑えられず、私の肩を強く叩いた。

 うざいなぁ、タマ。知っているよ。

 と口に出す前に、金髪イケメンが先に声をかけてきた。

 「今日から登校するのか、もう大丈夫?退院したとは聞いてなかったよ。いつ退院したの?」

 いきなりの質問の嵐に私はうまく返事を出来なかった。

 挨拶だけで済ませないあたり、彼とは親しい間柄だとわかった。

 その事に少し困った。

 「どしたの、ななえちゃん?まだ気分が悪いのか。」

 黙っている私に気づき、彼は心配してきた。

 彼は私のことを知っているが、私は彼のことを知らない。その為、何を話せばいいのかが判らない。

 横目でタマの反応見ると、タマの目がキラキラしてこっちを見るけど、何かをしようとはしていない。

 この子、私が記憶喪失した事を忘れてない?メイド全員に伝わっているはずだが...

 とは言え、何かしようとしていたら、逆にドジ踏まないかという心配も沸いてくるから、やっぱり何もしないで欲しい。

 「あの...『センジョウイン』さん。」私は勇気を出して彼に返事をした。

 彼が一瞬動きを止めたように見えた。私が初めて彩ねーに言葉をかけた時の彩ねーと同じ反応をした。

 「すみません!私はあなたのことを覚えていません。いつもあなたをどう呼んでいるのかがわかりません。」私は慌ててフォローをした。

 彼はキョトンとした顔を見せた。バカっぽい顔になっているが、私は笑えなかった。

 彼にそんな顔をさせたくないので、私はさらに言葉を続けた。

 「あの、実は私、記憶喪失なの。昔の事を覚えていないの。」

 彼はようやく私の話を理解してくれた。

 「それは、失礼しました。私のことはもちろん覚えていない、よね。」

 「申し訳ありません。」

 「そうですか。」彼は少し落胆な声をあげた。

 なんだか、「知り合い」に会う度にこういう状況に落ちる。こっちは別に記憶をなくしたくて「記憶喪失」になっている訳じゃないのに...

 「あの...」

 とりあえず、まず自分から話をしないと思ったが、声をかけた途端に彼も慌てて声を上げた。

 「いいえ、大した事はない。偶然に今日妹がそちらのクラスに転入するから、妹を仲良く接して欲しいと挨拶に来ただけなんだ。」

 彼の言葉の声が段々と沈んでいく。よほどショックな出来事なのでしょう。

 そして、彼は私に喋らせないように言葉を続けた。

 「本当、それだけなんだ。だからもう先に行くよ。あんまり気にしないで。」

 そう言って去ろうとした彼を私は呼び止めた。

 「待って!」

 なんで呼び止めたのだろう。話すことまったくないのに...

 でも、このまま彼に去られたくないという気持ちはあった。

 私は暫く喋らないままだったが、彼はちゃんと私が話すまで待っててくれた。そして、私もようやく言葉を見つけた。

 「せめて、せめて昔の私は、あなた様をどうお呼びしていたのかを、教えていただけませんでしょうか。」

 とても自然に敬語が出てきた。自分がこんなにも敬語が出来るとは思っていなかった。

 「昔の貴女もとても礼儀正しくて、あんまり砕けた言い方をしなかった。私のことをいつも『望様(のぞみさま)』と呼んでいた。」

 彼はとても丁寧に返事をしてくれた。優しい彼にとても申し訳なかった。

 「では、私もまだ準備がありますので、お先に失礼を致します。」

 私は今回彼が去るのを止めなかった。彼のことをまったく覚えていないので、かける言葉はもう何にも見つからないからだ。

 そして今頃、タマはようやく私に寄ってきた。横目で見つめると、タマは耳を垂らし、申し訳なさそうな表情を見せた。

 その姿を見て、私は怒るよりも、逆にタマが可愛く思った。

 おかしいよね...

 まあいい、今回は許そう。

 私は手招きしたら、タマがようやく最後まで近づいてきた。そしてすぐに先のような調子に乗ったタマに戻り、あれやこれやの人達を紹介し始めた。


私 「そういえばタマ、さっきの金髪もお金持ちなのか。」

タマ 「お金持ち?あー、旦那様とはもちろん比べられないし...強いて言えば『貴族』?」

私 「へー、『貴族』なんだ...それはすごいの?」

タマ 「それはすごいですよ!しかも彼の一族は貴族の中でも、最も神に近い一族と呼ばれてますよ!」

私 「すごいのか。」

タマ 「すごいよ、すごい。本当マジすごいから。」

私 「ふーん。」


 学園は広い。意味もなく広い。

 ...と思った。

 試しにタマに総面積を聞いてみたら、「よく知らない」と「多分1平方キロメートルぐらいじゃないか」と適当な返事が来た。

 この使えなさから愛嬌があるのか。そうなのか。

 中学校と高校同時にこの中にあるのが、距離はあまり遠くない。

 中学校にはかなり広いグランドがある。屋内体育館みたいなのが二つある、小さめの方は「練武場」という名前がある。特別教室を除けば、全部の教室の約三分の一しか使われていないし、五分の一の教室が机も椅子もない、何に使うのだろう。

 変な学校。

 私は中学3年生だそうなので、教室は一番上の階にある。

 今日の授業は午前4限に午後2限。午前は「魔法史」・「魔理」・「練武」・「呪文」、午後は「種族」・「体強」、朝授業前に各クラスに朝礼(HR)があり、午後終わった後に学活(LHR)がある。その後自由時間、クラブ活動の時間。

 なんか見覚えがあるようなないような時間表だが、「掃除」がないね。

 記憶喪失した後、私はどのくらいの知識を覚えているのでしょう。

 ちなみに授業に参加しないが、タマは私の席の隣に立っている。他の人に「そういうの」ないらしい。


 「皆さん、いきなりですか。今日一人、うちのクラスに転校生が入る事になった」

 突然教室に入ってきた横幅の広い女性の言葉に生徒の間がどよめいた。その女性は先生だと思う。皮膚は少し黒く髪は栗毛、口が広く足が短い。

 彼女を見ると「ボール」というものを思い出す。狭いドアを通らせてみたい。

 体格がこんなにも「広い」から、きっと心も広いでしょう。だから私は、彼女の事を「広い女性」と称することにした、心の中で。

 広い女性の「入ってきなさい」という言葉の後、一人の女子生徒が教室に入ってきた。

 少し巻きのあるロングの金髪、色が薄く厚さも薄い唇、大きいなブルーの瞳、そして小さな鼻が顔全体のバランスを好くしている。

 身長は170センチ?まで流石にいってないが、それなりに高い...いや、おそらくクラスの中でとびきりに高いでしょう。

 うちのタマを軽く超えているが、タマ大丈夫?年下に負けているよ。

 そして冬服だからか、彼女は黒のストッキングを履いている。すらりとした足がよく見るとかなり筋肉を付けている。

 入ってきた彼女は自分の名前を黒板に書き込んでいる。チョークを握る彼女の指は誰から見ても「綺麗だ」と言ってしまうほどの細長い。立ち姿もきちんとしていてスレンダーな人、モデルのような体型だ。

 こんな美人が隣にいたら、大抵な女子が見劣れてしまうのに、今隣にいる人が広い女性であった為、ますます彼女が美しく見える。

 いいなあ...

 自然にそう思えた。

 彼女の美しさは女性の私でも惚れるほどのものだ。たった一つの不足と言えば、彼女の肌が少し乾燥している。

 あ!いや。もう一つあった。

 彼女の胸は私より小さい。

 そこだけは勝っている。


 「千条院(せんじょういん) (ひかり)だ。よろしく。」

 完璧に近い彼女の声もとっても綺麗だった。その綺麗な声での自己紹介後、クラスが一気に歓声が上がった。

 「ひかり様?全国大会優勝のひかり様!」「嘘だろ!こっちの高校に入学すると聞いているけど!なんで?」「きゃー、ひかり様!全国優勝おめでとう!」「サイン!お願い、俺、ファンなんだ!サインをください!」「踏んで!」

 様々な声が混ざり合って...

 混ざり合って...

 とてもうるさい...

 私、言語が苦手らしい。

 このうるさい状況をとりあえず先生が治めた。

 先生が「静かに!静かに!」と連呼し、途中で堪忍袋が切れたのか、机を強く叩き、「自己紹介の途中」と大声で言って、ようやく教室が静まりに返った。そして、短い彼女の自己紹介を先生が続けてくれた。

 「まだ一ヶ月前のことながら、皆さんはきっと覚えているのでしょう。あの全国練武大会で、まだ15歳の彼女が多くの大人を圧倒し、傷一つ負わずに優勝した。あの時の彼女の姿、先生未だに忘れられない。そんな彼女は、我が校の『一つでも人より優れたところがあれば、入学可能』の条件に満たし、その成績からはじめての学校側からの勧誘によって入学する奨学生となった。本来、高校入学時に我が校に入学する予定だが、彼女の熱い願いによって、特例として今日から我が校の生徒になった。後半年しかないが、皆さん仲良くしてください。」

 教室中はまたもや歓声で満ちていた。彼女は大変な人気者らしい。

 私はここでようやく思い出した。彼女の苗字である「千条院」はさっきの金髪イケメンと同じ読み方、おそらく彼女が「妹」さんだろう。

 こんな「後半年しかない」時期に転入する生徒は二人もいないでしょう。

 「れんぶたいかい」ってなんだろう?何かの大会だろうが聞いたことがない。

 記憶がないからしょうがない。

 とにかく、「金髪妹」さんはその大会の優勝者で、しかもかなりすごい優勝の仕方をしたのだろう。

 ちょっと無愛想なところがあるみたい。お兄さんが心配しているのはそこか。

 だが、実際の彼女は無愛想じゃないみたい。

 先生が指差した席に何も言わずに座ったが、すぐ隣の女子に声をかけられた。

 流石に遠い過ぎて具体的なことを聞き取れないが、楽しそうに喋っている女子に対して金髪妹は冷たくあしらっているように見えた。

 アレじゃ友達つくれないじゃないかって心配していたら、不意と二人の言葉が耳に入ってきた。


モブ女子 「あの時のひかり様は本当に凄かったよ!ファンになっちゃった。是非お近づきになりたいと思った。」

金髪妹 「ありがとう。」

モブ女子 「学校でわからないことがあったら教えるから、お願い、あたしとお友達になってください。」

金髪妹 「助かる。」

モブ女子 「え、なってくれるの?ありがとう!でも後半年で卒業かぁ、もっと一緒にいたいのに...ねぇ、高校生になっても一緒のクラスに入ろう。」

金髪妹 「(わたくし)もそうあってほしいのだが、生憎それを決めるのは(わたくし)ではないので、約束は出来ません。」

モブ女子 「いやだよ、もーう、そんなに本気にしちゃって。一緒のクラスに入ればいいな、と思っているだけよ。」

金髪妹 「……」


 返事はちょっと無愛想だが、本人はそういうつもりはないらしい。友達作りも問題ないだろうから、無理して彼女と仲良くしなくていいみたい。

 何で私は彼女と仲良くしようとしたのだろう。「金髪兄」の言葉のせい?彼女が美人だから?

 「静かに。では、次の伝達事項。最近、魔物による死亡事件が殆どないとは言え、まだ油断してはなりません。月夜にしか現れないと言われているが、夜はきちんと窓を閉め、朝になるまで決して開けないこと。皆さんもそれをしっかり守るようにしてください。以上。」

 この言葉を最後に、広い女性は教室から出て行った。

 その後、教室内すぐさっきの騒がしい状態に戻った。誰もが先生の言葉に違和感を感じないが、私は何故か「変」と思った。

 具体的に説明できないが、よく耳にするけど、現実的じゃない言葉...

 駄目だ!わからない!

 記憶がないだけで、こうも苛立たしくなるとは思えなかった。

 そして、もう一つおかしいと思った事がある。

 広い女性が時々出てきた変な言葉、あれはなんだろう、聞き覚えがあるようだが、意味がまったく分からない。

 まったく何かなんだか...

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