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第ニ節 変色

自分の髪が朝白い髪になり、夜黒い髪になる事を知り、彩ねーを苛める。

 夜になる前に、私はいつも眠らされていた。

 その理由は、今夜、暴かれた。

 目覚めてからもう5日間。

 会いに来る人はいつも看病してくれる彩ねーちゃん意外、偶にしか来ない白い服の男性だけ。いい加減飽きてきた。

 あの男性の方はちょっと怖い。

 初めて会う日に、彩ねーちゃんと一緒に慌てて来て、私の目を思い切り指で開けて覗き込んだり、冷たいものをいきなり胸に当てるとか、殺されるかと思った。

 一緒にいる彩ねーちゃんは助けないどころか、あの男を手伝って、私を抑えていたし、そもそもあの男を呼んできたのも彩ねーちゃんだし。

 まだ目覚めたばかりの頃なのに酷いよ!

 このことだけはまだ「彩音さん」をちょっと許せない。

 そんな「彩音さん」を驚かす為に、私は今夜起きる事にした。

 そして、起きた私はたまたま自分の髪を目にしたら、その髪が真っ黒になっていた。


 なんで?

 私の髪は白髪じゃなかったのか。何で黒髪になっていた?

 いや、そもそも私は何で白髪だったのだ?

 なんで?

 どうして?


 私は混乱しかけたが、すぐ冷静になった。自分でも驚いたくらい早く...

 私は元々白い髪だったが、今は黒い髪になっていた。そこに何が理由がある筈だが、知っていそうな人たちに聞くのが一番手っ取り早いだろう。

 そう思って、私は「鈴」を鳴らした。


 少し待っていたら、すぐドアが開けられた。

 ドアを開けた人は幸いにも彩ねーちゃんだった。

 「どしたの、ナナちゃん?」

 まだ少し寝ぼけていた彩ねーちゃんは眠そうな顔をしているが、しっかりとナース服に着替えていた。

 何故か枕を抱えているが...

 「彩ねーちゃん、私の髪が、黒いです。」

 深刻な声で私は言った。

 だが、

 「そうだね。黒いんだね」と彩ねーちゃんは相槌を打った。

 私の真剣さ、あんまり伝わらなかったようだ。

 「違うって!髪が!黒くなったよ!」

 もう一度、もっと力強く言った。

 「うん、黒くなったね。」

 彩ねーちゃんはやはり相槌を打つだけだった。


 だめた、寝ぼけた彩ねーちゃんは役に立たない!

 私は仕方なく最終奥義を使う事に決めた。

 「彩ねーちゃん、こっち来て」と言って、私はベッドの横を叩いた。

 私に招かれて、彩ねーちゃんは私の傍に来た。私はそのまま、両手で彩ねーちゃんの顔に手を添えて、その頬にキスをした。

 ネームブレードには「坂上 樹」と書いていた。誰だ?

 それはともかく...私にキスした彩ねーちゃんは一気に目覚めた。「えっ、テレだ!ナナちゃんがテレだ!」と意味不明なことをいいながらしばらくはしゃいでた。

 そして最後は、「ナナちゃん!」と叫びながら私を抱きしめようとしたが、その顔を両手で押さえて、何とかその動きを止めた。

 「どうしたの、ナナちゃん?抱かせて!」

 しかし、先まで寝ぼけていたせいだか、少し理性が飛んでいるようで、しつこく私を抱こうとしている。その力が強く、とても14歳の私が留め続けられそうにない。

 さすがの私も少々焦った。焦って、つい「専属から降ろしますよ」と言ってしまった。

 だか、この言葉は異常なほどに効果覿面であったからが、彩ねーちゃんは一瞬に冷静さを取り戻した。

 「ごめんね、ナナちゃん、ちょっと調子乗りすぎちゃった。許して...」

 ご主人に許しを求めている子犬のように、彩ねーは深く頭を下げて立っていた。


 彩ねー...

 うん、悪くない。

 いい加減、子供っぽいのも嫌だし、今後彩ねーと呼ぼう。


 「彩ねー、私の髪が黒くなっていた。どうして?」

 彩ねーは私の声に一瞬「ビク」とした。「黒?それがどうしたの?」と私に聞こえないように小声で呟いた。

 最近気づいた私のもう一つの特徴は、耳がとってもいい。とても小さな声でもよく聞こえる。

 何を答えればいいのがわからない彼女を今すぐ許したい気分だが、私の質問そのものに疑問感じた彼女の姿に、私はありえない可能性を思いついた。


 ――私の髪が黒くなるのは当たり前のこと――


 まさかな...いや、まさか...

 髪の色が変わるなんで、ありえない。

 「一夜にして、真っ黒な髪が真っ白になった」なら聞いた事がある。

 どこから聞いたのがわからないが、何にもないのに、しかも白髪が黒髪になるなんで...


 落ち着こう...

 落ち着こう!

 落ち着こう。

 いったん整理しよう。

 私の髪が黒くなった。理由を彩ねーに尋ねたら、逆に何故聞かれるのがわからないみたい。つまり、髪が黒くなるのはおかしくない。おかしいのは、それがわからない私のほうだ。その前提で、私が彩ねーから最も早く答えを聞ける質問は...

 「彩ねー、ちょっと覚えてないけど、私はどうして黒髪になったの?」

 そんな私の質問を聞いた彩ねーは何故かホッとした表情を見せた。

 「黒髪になったのは夜になったからだ。夜になると、あなたの髪が黒曜石のように輝くの。」

 彩ねーが陶酔しきった顔を見せた。

 ちょっと気持ち悪い。

 「どして?ゆりねー。」何故か「百合」と言うワードを使いたくなった。

 「ゆりっ!」

 何故か「百合」と言うワードを使いたくなったし、まさか彩ねーがそのワードに反応した。何か特殊な意味があるのだろうか。

 ただ、彩ねーが「違うのよ!ユリじゃないよ!」と、「百合」にばかり反応するから、私はもう一度質問をした。


 「ねぇ、どうして夜になると『こくよう石』になるの?私の髪は石なの?」

 もう歩けるくらい回復したので、私はベッドから降りて、「てとてと」と彩ねーの傍に寄った。

 こうして立って比べてみると、彩ねーは背が高いね。爪先で立っていても、頭は彩ねーの胸あたりにしか届かない。

 いきなり近づいた私に驚かれて、「ひっ」と小さく悲鳴を上げた彩ねーは、何故か凄く緊張してしまっていた。汗が流れているように見えた。

 「い、石じゃない!カメレオンです!」と、支離滅裂な事を言い出した。


 カメレオン?カメレオンなのか、私は。そうなのか。

 ん?

 カメレオンはなんだ?


 「ごめん!カメレオンは禁句でした!別にナナちゃんはカメレオンのように不細工じゃなくて、ただその髪は環境によって色が変わるので、カメレオンと同じく変色するから...いや!それはカメレオンと同じと言う意味ではなくて、ただその特性から『カメレオン』と言われていて、別に侮辱しているわけではなくて...侮辱しているとしても、私はそんな事を思っていないので、私は違うから、ナナちゃんのことが大好きだから...って、私は何を言っているんだ?」

 まっすぐに立って色んなことを口走っている彩ねーの言葉を一文字も聞き漏らさず、私は自分の髪が環境に合わせて変化する事を理解した。「カメレオン」と言うものに類似し、侮辱の意味に繋がりがある。そして、無駄な情報だが、彩ねーは私のことが大好きらしい。


 へへ...


 もっと詳しく聞きたいが、テンパっている彩ねーからこれ以上何も聞きだせそうにない。むしろ彩ねーが心配だ!何でここまで慌ててしまっているの?

 「彩ねー、大丈夫?もう何も聞かないから。」

 彩ねーの服を掴んで、その体を揺らしたが、何故か今度「私は用済み」などを言い始めた。

 「用済みじゃないの!もう何も聞かないだけだもん!」

 さらに激しく揺らされた彩ねーは「私の声をもう聞きたくない」とか言い出した。


 なんだか面倒くさいなぁ...

 面倒くさいが、大好きな彩ねーだから、何とか正気に戻してやりたい。

 私は勇気を出して、右手に力を入れて、思い切りにその頬を叩いた。

 ぱっ!

 意外に小さな音を出した事から、己の力なさを再確認してしまったが、幸い彩ねーからの反応があった。

 私は両手で彩ねーの頬に当てて、呆然と私を見る彼女の目を自分に向かせた。

 何故かはわからないが、私の言葉を伝えるにはこうするのが一番効果的だ。

 「彩ねー、落ち着いて、私のことがわかる?」

 こうしてまっすぐに彩ねーの目を見つめて、初めて気付いた。彩ねーが泣いている事に...

 彩ねーは怖がっている、恐れている、悲しんでいる...

 何で彩ねーがこんな状態になっているのもわからないし、何でそこまで彩ねーの心がわかるのもわからない。

 ただ、彩ねーがいきなりこうなったのは私のせいだ。

 彩ねーが不安に感じる事を全て取り除き、その言葉を否定していく。そうすれば、きっと彩ねーを元に戻せるはずだ。

 「彩ねー、私の髪が黒くなるのは当たり前だ、黒曜石のように綺麗で、カメレオンと同じく臆病に。それは『侮辱』ではなく、『褒め』だ。私を褒める彩ねーが好きだ、大好きだ。私のことを嫌ってください、それでも私の傍に残っててください。用済みになることもないし、その声を聞き飽きる事もない。」

 自分でも言葉が矛盾している事が判る。それでも最後まで言った。彩ねーに語りかけた。

 まるで催眠術を掛けているように...

 そんな私の「言葉」に惑わせた彩ねーは、目の中から光をなくしていく。私はその彩ねーのおでこに自分のおでこを当てて、本当に言いたい事を「言い」出した。


 「冴塚彩音は私―守澄奈苗が好きだ。私の世話をし、私の姉である。私のお願いに逆らえない、私の命令に従わない。私のことが好きなのに、私のことが苦手な優しい女の子。」


 私は彩ねーを放して、二歩ほど下がった。

 暫くして、彩ねーは正気に戻り、慌てて回りを見渡す。

 「彩ねーちゃん。」

 試しに彩ねーを呼んでみたら、彩ねーが全身ビクっと震えて、私の姿を見ると安心した顔で座り込んだ。

 私は彩ねーに近寄り、「大好き」と言って甘えてみると、彩ねーは困った顔で、私の頬を指先で摘んだ。

 「ダメじゃない、こんな夜遅くまで起きているなんで。」

 頬を摘むことは彩ねーなりの愛情表現だとわかっているが、摘まれた私はあんまり好きじゃない。

 何とかその指から開放されて、私は「は~い、ごめんなさい」と言って、ベッドに戻った。

 「ナナちゃん、おやすみなさい」と彩ねーが言って、私も「おやすみなさい」と返した。その後、彩ねーは電気を消して、部屋から去った。


 彩ねーはまるで先のことを忘れたように振舞っていた、それが本当かどうかはわからない。

 ただ、もし彩ねーが本当に先程のやり取りを忘れたのなら、そうさせたのは私になるだろうか?

 私は何なのだろう?

 何故こんな事が出来た?

 私自身に記憶がないことと関係あるのか?

 彩ねーのさっきの過剰の反応とも関係あるのだろうか?


 結局、私は髪が黒くなる理由がわからないまま、さらに多くの疑問を増やしただけだった。楽しようとしたのが間違いだった。

 私は、

  なんだ?

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