Special ???
とある失敗者の夢
昔、俺は「主人公」になりたかった。
「ヒロイン」達を必ず救える「主人公」達はとても輝いて見えた。
今の俺は毎日ギャルゲーやネトゲーで時間を無意味に費やしている。
誰に必要とされることもなく、両親の金を無駄にするだけのダメ人間だった。
自分はいつか大きなことをなせる人間になれると、少し前までは思っていたが...
今は自分が「ニート」という人種に入っていることを受け入れている。
俺は、「主人公」に憧れていた。
俺のように「天才」と呼ばれたこともなく、「ごく普通」である彼らだが、必ず不幸な「ヒロイン」達を救える無敵のヒーローになれる。
優れた才能もないのに、大きなことをなせる彼らはとても羨ましかった。
だから俺は、ギャルゲーの「主人公」のような人になりたいと思った。
なって、不幸な「ヒロイン」達を救ってやりたいと思った。
しかし、それはゲームの中の話であったから、主人公はヒロインと幸せになれるのだと、とある日にふと思った。
必ず「ヒロイン」を救える「主人公」は、必ず複数の「ヒロイン」が傍にいる。
そして、「ハッピーエンド」は必ず「主人公」が一人の「ヒロイン」とだけ、一緒にいる。
他の「ヒロイン」達はどうなるのかを教えてくれない。
きっと都合よく幸せになっているのだろう。
ゲームの中なら、不幸な人はきっといない。
だが、それはあくまでゲームの中の話、現実の世界は残酷であり、都合よく全員が幸せになることはない。
俺のような才能がある人でも、人に必要とされなければ、ニートになってしまう。
「主人公」に必要とされない「ヒロイン」達は、不幸になってしまう。
だったら、全ての「ヒロイン」を救うには、何になればいいのだろう。
そこで現れたのは、「救世主」というものだ。
「救世主」は一度に多くの人を救える、とても優れた存在である。「救世主」になれば、複数の「ヒロイン」を救えることもできるだろう。
そう思って、世の「救世主」達を調べてみたが、一つ、「救世主」の悪いところを見つけた。
「救世主」は多くの人が不幸に陥っていなければ現れない。多くの人を救えているが、その人たちが不幸にならないと救わない。
俺は人を不幸にしてまで、人を救いたいと思わない。
そもそも、俺は救いたいのは、幸せの世界の中で、不幸に陥った「ヒロイン」だけ、赤の他人まで救いたいと思わない。
だから、「救世主」も駄目だ。
なら、一体どういう存在なら、不幸になる「ヒロイン」達を救えるのだ?
俺は考えて考えて、時間のある限り考えた。
「ニート」だから、時間だけは無駄にある...
「主人公」に選ばれた「ヒロイン」も、選ばれなかった「ヒロイン」達も幸せにさせる存在。
「ヒロイン」を救えるように弱い「主人公」を強くさせる、「ヒロイン」を救う時に都合よく「主人公」の力になれる、救われない「ヒロイン」達も、その都合のいい力で助けてやれる、そんな「都合のいい」存在。
そっか。
俺がなりたいのは「主人公」でもなく、「救世主」でもない。
俺がなりたいのは、「主人公」と「ヒロイン」達にとって都合のいい人間。
「主人公」が都合のいいタイミングで現れて「ヒロイン」を助けるなら、その「主人公」に都合よく現れるようにする人間...
「主人公」が「ヒロイン」を助ける為に、巨大な悪と戦う時、その悪に必ず勝てる力を「主人公」に与える人間...
結局、俺はそんな人間になりたいんだ。
俺は、「都合のいい人間」になりたい。




