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期限切れの言葉

作者: 瀬川潮

 いつもの喫茶店は、いつもと同じ。

 目の前に座る恋人未満の彼女は、人差し指で前に流れる髪を耳に掛けてからあん、と口を開けた。ベイビピンクの唇に光沢が踊る。まさか。

 そのまま彼女は、お辞儀するようにあむっと先っぽを口に入れた。しばらくもごもごと舌を使っていたようだが、やがて背高細身のパフェグラスを中心に顔を捻り顔を上げた。上の部分は姿を消している。一方の彼女。細めた目尻が満足そうに垂れる。唇が白く汚れていたが、ぺろりと舌がうごめききれいに——いや、余韻を堪能した。

 そしてまた、あん。

 ねっとりと赤く色づく舌をパフェグラスの奥の奥へと押し入れる。うねる純白の生クリーム。時折、赤い舌がグラスに張り付きその姿を見せる。ぐにり、ぐなり。何という長さか。

 僕は砂糖もミルクも入れないくせに、コーヒーをスプーンでかき混ぜている。

 ウエイトレスは、不手際に気付かない。

 遅きに失したよな、と匙を皿に戻す。

 顔を上げた彼女はねっとりと笑むだけだ。

 恋人未満で、何年過ぎただろう。



   おしまい

 ふらっと、瀨川です。


 他サイトのタイトル競作に出展した旧作品です。2009年作品。


 チョコレートを食べる前にかけるタイプのパフェを頼んだとき。

 自分でごまをすってソースをかけるタイプのトンカツ屋に行ったとき。

 店員が生チョコとかごますりが食べ始めてから気付いて持ってきて小さく「あっ……」とか言ってそのまま下がったという経験が。うんまあ気付かなかったこっちも悪いのですが。

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