プロローグ
仕事終わりの煙草は最高だ。
ようやく溜めに溜めた仕事を全部終わらせ、足早に会社から外にでた。
仕事中ずっと我慢していた煙草を一本、咥える。
口の中にその細長い形があるだけでこんなに落ち着くものなのか。
まだ火をつけていないが、筒の中からはほんのりと中毒にさせるような危険な香りが伝わる。
そういえば、必死にパソコンと闘っている途中手紙が届いた。
手紙の内容によると、どうやら俺には触れたものに爆発物をつけ、爆発させられる力が宿ったようだ。
こんなおっさんにこんな可愛いイタズラをよこしたのは誰なのだろうか。
近所に住む田所のおぼっちゃんかもしれない、と呆れていた。
何より、この年でこんな子供じみたものを真に受ける自分にも呆れていた。
「吉永くん、火。」
隣にいる部下の吉永 秀にライターで火をつけるよう求めた。
「自分でつけてください。」
…可愛くない部下だ。
胸ポケットに入ってる愛用のライターを取り出しカチッ、カチッと二、三回スイッチを押した。
ボッと音をたてて赤く透き通った、輝かしい炎が小さな入り口から顔をだした。
咥えた煙草の先にライターの炎をあて、火をつける。
深呼吸をするように息を深く、ゆっくり吸った。
生暖かい煙で肺が満たされて行く。
「…最高だ。」
そう言いながら肺にたまった煙を吐き出した。
口から白く濁った気体がでてくる。
長らくこの幸せを味わっていなかったせいか、いつもより最高に幸せに美味しく感じ「一時間くらいしか経ってませんよ。」
「うるさい。」
本当に可愛くない部下だ。
嫌味しか言えないのだろうか。
「ところで吉永くん、さっきの、信じる?」
さっきの、とはさっきフラッと話した手紙の事だ。
そんなのよりも煙草の方が大切だが、何せ吉永にもその手紙は来たのである。
近所の田所くんは流石に吉永の事は知らないはずだ。
知っていたとしたら田所くんは将来計画性のある大人になるだろう。
「信じるも何も、俺の手どろっどろに溶けれますよ。」
吉永には酸を操る能力が与えられた。
おかげで手からでる酸は壁に穴を開けれた。
ここまで話してまだ近所の田所くんの仕業だとしたら、近所の田所くんはきっと人を超えた何かなのだろう。
「だよねぇ〜」
煙草をもう二本口に咥えたところで、ある、やろうと思っていた事を思い出した。
「物は試し、ってね。」
親指と人差し指をこすり合わせて、パチンッと音を鳴らす。
その瞬間さっきまでいた会社の方から豪快な爆発音が聞こえた。
「派手にやりましたね。」
吉永が呆れたような顔でこちらを見る。
俺はそれに対して煙草に火をつけながらニヤリと笑ってみせた。
「どうせならビッグにやらないとなぁ。」
そして俺も今日、人を超えた。




