第4話 白い竜と呪いの指輪(Ⅱ)
僕の生まれ故郷から遠く離れた惑星で、本物のドラゴンに出会うとはちょっと感動的かも知れない。だがしかし。
目の前にいるのはどう見ても白いフェレットだ。いや、その毛並みとフサフサな尻尾、そして、大きさを見る限りでは、やっぱりどう見てもフェレットだ。でも、しっかりと牙はあるし、よ~く見ると小さな翼もある。何より喋るし。
「うん、お前、やっぱりバカだな。お前に指輪を高く売り付けたのはオイラだよ」
そう言って少女の肩へと飛び移る。
「やっぱりぼったくってたのかっ!」
「それに、ドラゴン族は人間よりも遥か昔からいるんだよ。お前なんかよりもオイラの方がずっと強いし賢いんだぞっ!」
何だろう、この屈辱感。てゆーか、口悪っ!
「こらっ、パイ! そんな事を言ってはダメでしょう?申し訳ありませんでした、この子が失礼な事を言ってしまって。それで、指輪の事なのですが……」
あ、そうだった。このフェレットの様なドラゴンのせいで危うく忘れるトコだった。
「そういう理由でしたら仕方ありませんね。お返しします。でも、僕もこの指輪が凄く懐かしいというか、何故か知っているような気がするんですよね」
そう言って指輪を外そうと力を込めるが。
「あ、あれ?」
指輪が外れない? サイズが合ってなかった?いや、んな訳ないか。
「何やってんのよ、アスト」
「い、いや、それが、は、外れ、なくて」
思いっ切り力を入れて引っ張ってみるものの、指輪は外れない。というよりも、まるで『外すな』と言わんばかりに頑なに拒否されているようだ。
そんな僕の四苦八苦ぶりを正確に読み取ってくれたのは意外にもパイだった。
「う~ん、まさかお前が指輪の適合者だったとはなぁ。オイラはアイツが適合者だと思ってたんだけどなぁ」
て、てき、ごうしゃ? 一体何の事だ?きっと今の僕の頭の上には、でっかいクエスチョンマークが浮かび上がっている事だろう。
「お? 適合者って何だ? って顔をしてるな。お前は指輪に選ばれたんだ。実はあの時、オイラ、店の品物を、テキトーに積んだんだよね。でも、まさかあの山の中にルードの指輪が紛れ込んでいたなんてねぇ」
「あの時って? それじゃ、お前が彼女を操っていたって事か?」
原理は分からないけど、ホワイトドラゴンならそれくらい造作もない芸当なのかも知れない。
「操るって言うのとは少し違うけど、まぁ似たようなもんかな?」
何だか、この惑星に来てから随分と非科学的な出来事に遭遇しているせいか、感覚がマヒしてきているのか、大抵の事では驚かなくなっているなぁ。それが当たり前だと思えるようにまでなってきた。そもそもパイの存在が非科学的なのだが。
「アンタ、随分と冷静ね」
「何か……慣れてきましたよ、色々と」
「んで、その指輪、どうすんの? 外れないなんて非常識極まりないわよ? つーか、ホントに外せないの?」
そう言われて僕はもう一度指輪を外そうとするが、結果は同じだった。
「無駄だよ。適合者に選ばれたんだから、諦めて運命を受け入れるしかないね」
運命を受け入れる。
そう言われた途端、今まで僕は、どこか軽い気持ちでいたのだと気が付いた。これはヤバい事になっているのではないだろうか?
「ところでパイ。さっき言った指輪の適合者はアイツだと思った、って言ってたけど、そのアイツってもしかして……?」
少女が不安そうにパイに話し掛ける。それは僕も気になっていた。僕以外の適合者とは……?
「うん、お前の兄ちゃんだよ。オイラはそう思ってたんだけどなぁ」
「やっぱり。でも、適合者は一人だけなんでしょう?」
「いや、そうとは限らない。適合者であって、指輪の支配者じゃないからね」
「それじゃあ、あくまで候補者って事?」
「う~ん、そう言ってもいいかもね」
二人の会話に耐えきれなくなってのか、慌ててレイアさんが飛び込んでいく。
「ちょちょちょ! ちょい待ち! アタシを差し置いて勝手に盛り上がらないでよね! つーか、よくよく考えてみたら、ちゃんと自己紹介もしてないじゃない? とりあえず貴女のお名前から聞いておこうかしら? あ、アタシはレイア、レイア・ルシールよ。んで、こっちの冴えないのがアスト・モリサキ。二人ともロイス・ジャーナルのジャーナリストよ」
ジャーナリスト証明書を見せつつ、そんなに捲し立てなくてもいいのに。てゆーか、冴えないのって酷くないっすか?
「えっと、レイア・ルシールさんと、アスト・サエナイさんですね?私は……」
「ちょーっと待てェェ! サエナイさんって何だ! モリサキ! アスト・モリサキです! どーぞよろしくっ!」
有り得ない間違いに思わず大声で突っ込んでしまった。
「何を無駄にアツくなってんのよ、アンタ。引くわ~……」
え、何で?
「えっと、よろしいでしょうか? 私はミリュー・シギュン・パーラと申します。そして、もう既にご存知かと思われますが、この子はホワイト・ドラゴンの……」
「パイだよ。よろしく~♪」
ミリューさんの肩の上でやおら立ち上がり、手を降る。カワイイもの好きなレイアさんは完全にKO状態だ。
「よろしくね~、パイちゃ~ん♪ それで、ミリューさん。改めてお伺いしたい事がいくつかあるんだけど、いいかしら?」
「あ、はい。どうぞ」
どうやらレイアさんはジャーナリストモードに入るようだ。僕は大人しく助手に徹する事にした。