第4話 メビウス・リング(Ⅱ)
部屋の上空で翼を羽ばたかせ、視線を逸らす事無く睨み合う両者。その下で心配そうに見上げるハル達。
「私の事を大切な存在って言ってくれた……」
「エルマ、ちょっと待って。それ違う」
「カイルってば、やっとボクに乗り換える気になったんだね」
「リサ、それも違うから」
どうやら、カイルの言葉を曲解しているようだ。そこへクリスが割って入る。
「アンタ達ねぇ、そんなんじゃカイルに愛想つかされちゃうわよ? それに……カイルがハルを選んだ理由、ホントは2人ともわかってるんでしょ? 4人の想い、ちゃんと繋いであげて?」
この場はクリスに丸投げして、アタシはガン無視を決め込んだ。
「カイル……お前は甘い。甘過ぎる。この世界の変革を望むには、そんな甘さは通用しない。神器の支配者となったお前も気付いているだろう。俺とお前が血の繋がった兄弟であると言う事を」
え? 従兄弟じゃなかったのか。衝撃のカミングアウトに一同は騒然としたが、カイルだけは平然としていた。
「神器の力なんだろうな、フェイ……いや、兄貴。だが、それでも俺はお前がやろうとしている事は許せない」
「秩序と進化を保つ事が、この宇宙で人間が生きていく上で最も重要な事だ! 我々の理念に賛同出来んと言うならば……たとえ弟であろうと邪魔だてさせん」
両者が同時に繰り出す精霊の力はほぼ互角、いや、僅かにカイルが勝っていた。
「うおおおぁぁぁっ! フェェェイィィ!」
「ぬうぅぅっ! カイルゥゥゥ!」
炎を纏った風の刃がフェイを捉え、そのままフロアへと叩きつけられたフェイだが、素早く反撃の態勢を取る。
「この程度で勝ったと思うなっ! カイルッ!」
仰向けのまま彼の直線上に位置するカイルに向けて風の刃を乱発すると、まだ神器の力である翼を上手く扱えないカイルは避け切れず、その風の刃は右肩と左足を掠める。
「お前も死ねばいい」
蹲るカイルを見下ろすフェイが、止めを刺しにかかろうとするが……
「させないわっ!」
3人娘がカイルを救出すべく一斉に飛び掛かるも、素早くトンボを返して宙を舞う。
「精霊の力を持たない君達に用は無い。潔くこの場を去るか、この世界から去るか……選ばせてあげるよ? こう見えて俺はフェミニストだからね」
アタシにはそんな言い方しなかったじゃないのよさっ! 何かムカついてきた! そもそも、主人公はアタシなんだからねっ!? アタシが目立たなくてどーすんのよ!
もう居ても立ってもいられない。
「アスト……少しの間だけ我慢しててね?」
アストを壁にもたらせ、アタシはフェイの前へと一目散に飛び出す。
「フェイ、アンタにも聞きたい事があるわ。アンタはJ・D・Uのメンバーなの? それともオールトの雲のメンバーなの?」
振り上げた右腕を静かに下ろし、アタシの問い掛けにフェイが答える。
「俺はJ・D・Uを監視する立場にある」
つまりオールトの雲のメンバー……そして監視する立場と言う事は犯罪シンジゲートの幹部、と見てよさそうだ。
「アンタはアンタの目的があってこの惑星を、カイル達を裏切って、オールトの雲のメンバーになったのね。ま、アンタの目的には今んトコ興味は無いわ。でもね、アンタがやった事……皆を裏切った事、アタシのパートナーを傷付けた事、それは絶対に許せない。罪を償え、とまでは言わないけれど、ケジメくらいはつけて欲しいわね」
犯罪シンジゲートだろうが秘密結社だろうが知ったこっちゃない。
自分がやった事に対しての責任は持って貰いたいし、取って貰いたい。人として最低限のルールは守って貰わなきゃね。アタシが言えた口では無いのかも知れないけど、この際それはどーでもいい。
クリス達の冷たい視線が背中にざっしゅざっしゅとぶっ刺さっているのが分かるけど、それも今はどーでもいい。
「ケジメ……か。フッ……ならば俺はここで舞台を降りよう。後の事は奴に任せる」
「逃げるつもり?」
「何とでも言うがいい。我々の目的を果たすまでは死ねんのでな。それに…お前が何者なのか、どこまでやれるのか……見せて貰うよ」
まただ。
DOOMといいフェイといい、何故アタシの事を何者かと言うのだ。
「あのさぁ……アタシはアタシだって何度も言ってんでしょ? どこまでやれるのかって聞かれたら、そうね……アンタ達を表舞台に引きずり出してあげるわ。必ずね」
「楽しみにしているよ、特異点」
そう言い残し、部屋を去ろうとするフェイを呼び止める、ドス黒くくぐもった声。
DOOMだ。
いつの間に呼び出したのか、数十体のホムンクルスやクローンを従わせ、お役所チーム達を蹴散らしていた。
「フェイよ……貴様……このオレを……このオレを愚弄するかぁっ!」




