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第4話 メビウス・リング(Ⅰ)

 静まり返る空間、松明とアンティーク・ランプの輝きだけが煌々と仄明るい。

 重傷のアストは、今だけは特別にアタシが膝枕している。時折、悶絶を繰り返しながらも何とか一命は取り留めているのだが。


「バカアスト……」


 復活したらカフェオレとマカロン、山程オゴらせてやるんだからね……


「レイア、後はワタシ達に任せて……アストっちの事、お願いね」

「アスト君はボクにとっても大切な友人であり、弟みたいなものだ。彼を……頼んだよ」


 そう言い残した二人はそれぞれ、フェイとDOOMの元へと向かって行く。




 フェイはカイルを睨み付けていた。その冷たい眼差しは、怨恨や憎悪、と言うよりは羨望や羨慕、嫉妬と言う方が正しい気がした。


「カイル、お前と俺の違いは何だ? 俺の方がお前よりも力も才能もある。なのに何故だ? 何故お前が ……お前が『シャーマン・ロード』なのだ? お前も神器に選ばれたのか!?」


 フェイの言葉にカイルは、ただただ困惑するばかり。


「神器? 俺が? それにシャーマン・ロードだって? フェイ……何を言ってるんだ? 俺には何の事だか……」

「まだそんなぬるい事を言っているのか! お前は俺が欲して止まない力を得ているというのに! お前の周りに居る3人がその証だと言うのだ!」


 嫉妬に狂ったかの様に、フェイはあらん限りの風の刃を繰り出す。


「カイルッ!」

「分かってる! 風の盾っ!」

「じゃ、こっちも! 大地の盾っ!」

「水の弾丸っ!」


 ハルの言葉を皮切りに三人は順次精霊の力で応戦する。あ、わかった。このチームのリーダーってハルだ。ハルが手綱を握ってんだ。


「カイルぅぅぅぅぅっ!」


 フェイのターゲットはあくまでもカイルただ一人。見事にフレイアの予見通りなのが空恐ろしい。

 咆哮と共に突進してくるフェイに対し避けようともせず直立不動のまま、かっと目を見開いたカイルが何事かを呟く。


「風と炎と大地と水と光と闇よ……あまねく全ての力を我に与えよ……今こそ我は願う……我こそは『シャーマン・ロード』我こそは『ウイング・オブ・ゼファー』を従えし者なりっ!」


 瞬間、ハル達の身体からそれぞれの精霊の姿を模したエネルギー体のような何かがカイルの身体へと消えてゆく。それだけでは無く、松明やランプの灯りが消えたにも拘らず、辺りの闇も消え去った。

 灯りも無いのにしっかりと周りを見渡せるなんて有り得ない。


「何故だぁぁぁ!? 何故お前如きがシャーマン・ロードなのだぁぁぁっ!」


 発狂。人の物とは思えぬ叫喚を上げ、カイルへ向け風の刃を乱れ撃つが、ことごとくソレはカイルの眼前で跡形も無く消えていく。


「カイル……貴方……一体……?」


 口元を両手で覆い左右に首を振るハル。そして、ハルだけでなくリサとエルマも目を見開き、同じ動きを繰り返していた。


「ハル、リサ、エルマ……俺はどうやら神器の支配者だったらしい。そして……シャーマン・ロードだそうだ……」


 神器が彼に伝えたのだろうか、カイルは全てを悟ったかの様に答える。


「カイルゥゥゥゥゥ! その力、俺が貰い受けるぅぅぅぅぅっ!」


 再びカイルへと突進して行くフェイ。だが、その体は何かに弾き飛ばされたかの様に宙を舞う。

 ……が。


「な、何よそれっ!?」


 クリスが驚くのも無理は無い。正直アタシもビビった。

 フェイの背中には漆黒の翼が生えており、反転しながら華麗に着地する。


「この俺こそが、シャーマン・ロードに相応しい。お前もそう思うだろうっ! そう思えっ! カイルゥゥゥ!」


 再び天井近くまで舞い上がり、無数に繰り出した風の刃と共にカイル目掛けて急襲していく。


「カイルッ!!」


 ハルの声に再びカイルの様子が一変する。よくよく見ると、カイルの瞳は金色に輝いている。


「風の刃! 炎の弾丸!」


 風の刃は炎を纏いフェイを迎撃する。え? 炎?


「シャーマン・ロードの力……」


 エルマとリサが力強く頷く姿を見て、クリスが疑問をぶつける。


「貴女達はアレが何なのか知ってるワケ?」

「今のカイルは、私達が契約した精霊を使役する事が出来るハズ。大婆様と同じ事、ううん、それ以上の事をやってのけているわ」


 さすがは手綱を握る女……いや、それとも愛の力だろうか。ハル達にはカイルの身に起きている事がわかるのだろう。

 今のカイルはハルやエルマやリサが使役する精霊の力をも操れる力を持っている。これこそがシャーマン・ロードと呼ばれる存在なのだろう。

 それは、フェイが欲してやまない力。

 それは、精霊使いとしての高みに達した力。

 そしてそれは、神器の力無くしては得ることのない力なのだろうか?


「カイル……お前も神器の力に目覚めたな?」


 フェイの言葉に応えるかの様に、カイルの背中にも翼が生える。それは、汚れなき純白の翼だった。


「フェイ。確かにお前は俺よりも遥かに強い。だが俺には、神器よりも……精霊の力よりも大切な物がある。お前がさっき言った様に、彼女達は俺にとって大切な存在だ。だが、お前の様に力を求めるだけじゃダメなんだ。力は奪う物じゃ無い! 想いが……お互いを繋ぐ想いが力になるんだ!」


 2人の神器の支配者は白と黒の翼をはためかせ、仄明るい闇の宙を静かに舞っていた。

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