第3話 北十字(ノーザンクロス)の戦士(Ⅲ)
この空間で今、自由を得ているのはアタシを含め4人。アストとアイン、そしてフェイ。
神器を持つ者、と言うよりは、神器に選ばれ、神器の支配者となった者だけが神器の影響を受けないと言う事になるだろうか。
となると、アストはともかく、アインとフェイとアタシは?
「しかし、DOOMも馬鹿な奴だ。あんなオモチャを神器などと……ふっははははは……」
「高笑いもいいけど、そろそろアタシの拘束を解いてもらおうかしら?」
いつまでも馴れ馴れしく腕を掴まれてんのも腹立つし。
「これは失礼。失礼ついでに一言。君の神器は、そのソード・ガンかな? そして、北十字の戦士……君の神器はそのソード・ライフル……ぬぅっ!? それは……まさか『クラウ・ソラス』かっ!?」
フェイの顔が歪む。まるで忌々しい物でも見るかのように。
「やはりわかるか。『ウイング・オブ・ボレアス』を持つ貴様には」
二人の会話にアタシの目は先程から点になっている事だろう。確かハンドバッグの中に手鏡があったハズ……あ、あった。
鏡に映るアタシの目は……うん、点だ。もー! 意味わかんない、わかんないーっ! 何なのよ、さっきからーっ!
「ちょっとぉ! 何さっきからアンタ達だけで盛り上がっちゃってんのよ!? 神器、神器、神器……それが何だってのよ! アタシは神器よりも永久心臓の謎を解き明かしたいの!」
爆発したアタシの不満をアインが丁寧に汲み取ってくれた。
「レイアさん、永久心臓を知る前に、神器の事を知っておいた方がいいだろう。俺の持つ神器『クラウ・ソラス』は光の剣と呼ばれる。フレイア様も言っていたと思うが、神の加護を受けた器、それが神器だ。それに、永久心臓も神器だ」
あ、そう言えば。
「コホン。神器、そう、神器よね。で、神器の支配者になった者は、この時が止まった中でも普段と何ら変わる事無く動ける、と?」
アタシの疑問にフェイが答える。アンタには聞いてないんだけど。
「それは少し解釈が違うねぇ。神器の支配者は他の神器の支配者の力の影響を受け付けなくなるんだよ。相互不干渉というヤツだ。つまり、君は神器の支配者と言うことになる」
それはつまり、神器の力はそれぞれ異なる、と言う事、か?
そう言えば、フレイアの神器の力は恐ろしいまでに正確な予見能力だった。アストのルードの指輪の力は時の歩みを止める。
んで、アインの神器は……なんつったっけ?
シンやクリスだったら知ってんだろうなぁ。んと、クラ……クライ……クラウ……あ、そだ! クラウ・ソラスだ! クラウ・ソラス……記憶の深層にダイヴしてみてもヒットしないなぁ。くっそぅ……アイツらの知識が欲しいわぁ。
「そう言うけど、アタシは本当に神器なんて持ってないわよ? このソード・ガンだって会社の支給品だし、ハンドバッグの中にだって必要最低限の物しか入ってないし。てゆーか、アインの神器の力って何なのよ?」
突然の指名にも慌てる事無く、つらつらと説明を始めるアインの大人の対応に感心しつつ、クローンとはやはり違う事が窺い知れた。
「俺の神器の力は、光を照らし、全ての秘密を暴く事が出来る。レイアさん、貴女は確かに神器を所持していない。クラウ・ソラスが教えてくれた」
全ての秘密を? では、アタシの過去もアインにはわかると言うのか?
……そりゃまた随分と趣味の悪い神器ね。だが、嫌な気分ではない。アインの言葉からはクローンとは違う、人間の暖かさを感じ取る事が出来たからだ。
アストも先程のコンビ無双で何かを感じ取ったのだろう、すっかり安心しきった顔でアインに問い掛ける。
「じゃあ、神器の支配者ではないレイアさんが何故この空間で動けるのか、アインさんは知っているのですか?」
「ああ。彼女は……特異点だ」
特異点? アタシが?
「成程。特異点ですか。神器の力の影響を受けないのも頷ける話だ。だが、そうと分かったからには、貴女を生かしてはおけないな……死ね」
言うなりアタシを突き飛ばしたフェイは、風の刃を繰り出す。これは避け切れないか? 覚悟を決めようとしたその矢先。
「レイアさんっ!」
「アストッ!?」
アタシの前に飛び込んで来たアストが、風の刃をその背中にモロに受ける。
「ぐぅあぁぁぁっ!」
「バカアストッ! 何やってんのよ!?」
「だ……大……丈夫……ですか?」
アタシの声には応えず、弱々しい笑みを向けるアストの背中には、鋭利な刃物で付けられたかのような大きな裂傷の痕が見受けられ、そこから夥しい鮮血が吹き出している。
アストを抱き抱える日が来るなんて思ってもみなかったわ。それもこんな形でなんて……
「ア、アンタの方こそ……大丈夫なの?」
苦悶の表情を浮かべるアストを見ればわかるけど、そう言わずにはいられない。
「そりゃ……痛い……ですよ……でも……レイア……さんが無事なら……平気……です」
平気な訳無いじゃないの……何でアタシなんか庇うのよ……
「馬鹿……馬鹿……馬鹿……」
アストの意識が混濁したのだろう、ルードの指輪が効力を失い、再び時間が進み出す。
アストの惨状を目の当たりにしたクリスとシンは一瞬目を見開くと、すぐさま駆け寄ってくる。
「アストっち? どうしたの!?」
「アスト君、しっかりするんだっ!」
精霊使いチームはフェイへ、お役所チームはDOOMへとそれぞれ対峙する。
「フェイッ! お前……何故こうなった!? 何がお前を変えたんだ!? 俺よりも遥かに強く風の精霊の加護を受けたお前が何故……?」
「カイル……お前には心底失望したよ。俺にはお前が必要だった。お前は気付いていないだろうが、シャーマン・ロードはお前なのだ。俺はお前の力が欲しかった」




