第3話 北十字(ノーザンクロス)の戦士(Ⅰ)
DOOMの狂気を孕んだ言葉を引き金に、大量のクローンと出来損ない達が姿を現す。フェイとDOOMのクローンまで登場か……
アイルがああなってしまった以上、頼れるのは精霊使い達とST乗りのお役所チームだけ。アタシ達も心許ない装備で戦うしかない。
遠慮もなく次々と襲い来るクローン集団に、アタシ達はただただ防戦一方。戦闘のエキスパートがいれば、あるいは……
「シン君、気付いているか?」
赤いSTを駆り、クローンの首を次々と薙ぐリック課長が、レール・ガンを乱射するシンに問い掛ける。
「リック課長……やはり貴方も気付いていましたか」
「ああ。フェイとDOOMのクローンはともかく、他のホムンクルスは……やはりあの部屋で見たモノと見て間違いないだろう」
あの部屋……あの機械まみれの部屋の事か。
「シン、何を掴んできたの?」
沈痛な面持ちのままのシンの言葉を待つ。
「あの異形のホムンクルスは……この惑星の人達だ」
全身の血液を抜き取られたかのような虚脱感に襲われ、硬く握りしめていた筈のソード・ガンがするりと手を離れ、地に落ちる。
「シン……今……何て言った……?」
「あのホムンクルスは……恐らくは、明星の国の国民達だ。いや、夕闇の国や常夜の国の国民達もいるかも知れない。ボク達があの部屋で見た言葉を伝えよう。『人類再生計画』『ゲノム・コントロール』『精神転送』『アク・アケルの創造』……そして、国民の失踪……これらが何を意味するかわかるだろう……?」
これらのキーワードを繋ぎ合わせ仮説を立てるも、導き出される答えは一つしかない。
「この惑星の人達は精神転送されてホムンクルスになった……とでも言うの?」
「それだけじゃないわ。アク・アケル……アクは霊魂の相、アケルは地平線の事……多分、魂の浄化を表していると思う。超古代エジプト神話の一節に出てくるわ」
クリスの神話知識には毎回頭が下がる。
「そして人類再生計画とはつまり、DOOMにとって都合の良い手駒を創るための計画なんじゃないかしら? こんな事、考えたくもなかったけどさ」
そう言ってクリスは表情を険しくさせた。
この惑星を支配するためにそんな事を……
きっかけは宰相の地位を追われた事、そして、人間という存在に対して絶望を感じた事。
……たかがそんなつまらない理由で?
「アンタは……そんなつまらない理由で、この惑星の人達を……殺したの?」
「つまらない理由、だと? ふん。それに、殺してなどおらん。進化させてやったのだ。これは我々の崇高なる計画の一端に過ぎぬ。我々はこの惑星を足掛かりに、アンドロメダ銀河を支配し、さんかく座銀河、天の川銀河……ゆくゆくはおとめ座超銀河団を支配し、この銀河群を手中に収める。そして俺は絶対的な支配者となるのだ。フフフフ……フハハハハハ……」
規模がデカ過ぎていまいちピンと来ないが、コイツのやろうとしている事は許しちゃいけないって事だけはわかる。
「アンタは人間の命を何だと思ってんの!?」
精一杯の眼力でDOOMを睨み付ける。が、DOOMはそれすら涼しい顔で受け流す。
「知れた事。駒を創るための素材だ」
「DOOMゥゥゥッ! 貴様ーっ!」
突如、両腕を失った筈のアイルが怒声と上げてDOOMに向かって突撃していく!?
いや……あれは……アイルじゃない?
ミリューの方を見ると、両腕を失ったままのアイルを膝枕したまま、DOOMに突進して行く人物を見て口元を両手で押さえ、打ち震えている。
「……に……兄様……!」
「そのソード・ライフルを渡せっ!」
「へ? あ、はい!」
アストの手からソード・ライフルを奪うアイル……では無く正真正銘、本物のアイン、でいいのだろうか?
それにしても、アストの間抜けな返事は変わらず……か。
正当な所有者の元に戻ってきたソード・ライフルから放たれる銃弾は、正確にDOOMの身体を捉える。
「貴様……どうやって……?」
明らかに狼狽の色を隠せないDOOM。
「あんな牢屋、脱け出そうと思えばいつでも脱け出せたぜ? 俺のクローンが来れば、レダの紋章が反応する。その時を待っていたのさ」
かっこつけて言うけど、アインの紋章ってお尻にあんのよね……
「本当に……本当に兄様なのですね?」
「ミリエスタ……お前までこんな所へ……済まなかったな。俺の力が足りなかったばかりに、お前にまで苦労を掛けてしまって。ジェフ、パイ、お前達にも迷惑を掛けた……すまん」
「アイン様こそ、よくぞ御無事で……」
「相変わらず心配ばっかり掛けるよな、アインは」
感動の再会の中、ミリューは遂に懸念材料を問いただす。
「兄様……お父様は……もしかして?」
シンやリック課長達が掴んだネタが本当ならばおそらくは……
「ミリエスタ……心を強く持て。そして……恨むならこの兄を恨め。父上は……ヴェルド王は……ホムンクルスとなり果てた。そして……この俺が……斬った」
一瞬ミリューの顔が強張り、そのシナバー・アイは涙に濡れる。しかし、すぐに涙を拭き取ると真っ直ぐにアインの目を捉える。
「……やはりそうでしたか。私も覚悟はしておりました。兄様……ありがとうございました……」
「……すまん。だが、今は悲しんでいる場合ではない。奴を倒さねばならん!」
「……はい、兄様!」
さて、と。どこから驚けばいい? いや、どこからツッこめばいい?
「あのさ……言いたい事は山程あるんだけど。まず、貴方はアインさん……で良いのかしら?」
アイルと瓜二つの容姿の彼……は、DOOMとフェイに視線を向けたまま答える。
「アイルに付けていた無線LANで、君達の事は知っている。察しの通り、俺が本物のアイン・S・パーラだ。貴女がレイアさん、だね?今までありがとう。ミリエスタが……妹が世話になった。そして……アスト君、ルードの指輪の守護者よ。俺に……北十字の戦士である俺に、南十字の力を貸してくれ!」
……アタシ達はお役御免……で良いのかしら?




