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第2話 南十字(サザンクロス)の支配者(Ⅲ)

 脳に直接語りかけてきた様な声は……指輪の声、なのか?


『プログラム解析開始。アスト・モリサキ……マイ・マスター。インプット完了。南十字(サザンクロス)モード発動』


 サザン、クロス……モード? 何だ……? 何が起こるんだ?

 得体の知れない感覚に、僅かながら恐怖を覚え、僕は思わずレイアさん達に救いの手を伸ばそうとしたが……何だ?

 辺りを見渡して見ても、誰一人としてその時を進める者はいない。全員がまるでマネキンの様に固まっている。




 時が固着した……のか……?




 何、なんだ、これは……何が起こってるんだ?


『マイ・マスター。サザンクロスモードが発動しています。今はマスターが【時】の支配者なのです』


 ――時の……支配者……だって?


『時の支配者なれば、全てはマスターの思いのままです』


 ――これが……神器の力……


『その通りです、マイ・マスター』


 普段の僕なら理解不可能な出来事なのに、何故か今は理解出来た。

 だったら、今の僕がやるべき事は唯一つ。

 DOOMとフェイを倒す……それだけだ!

 僕は迷うこと無くソード・ライフルを構え、飛び出した。




 ――その時。




「待って、アストッ!」


 DOOMの胸元にソード・ライフルの切っ先が届くまであと数センチ、という所でレイアさんの声が聞こえた。


「レ、レイアさん!? 何故……?」


 誰も動けないハズでは無かったのか?


「ごめん、アスト。アタシはまだソイツから何も情報を聞き出せていないの。それに……アタシ達はジャーナリスト。アサシンでもなければ正義の味方でもないのよ」

「それは……僕もわかっているつもりです。でも、このままじゃ僕やレイアさんや皆が……」

「そうね。もしかしたらアンタがやろうとしている事は間違っちゃいないのかも知れない。でも、アタシは知りたいの。神器の事、J・D・Uの事、オールトの雲の事、そして、永久心臓の事を」


 それは僕も知りたい。僕だってジャーナリストの端くれだ。レイアさんの言う事は理解出来る。


『マイ・マスター? どうされました?』


 ――解除してくれ。


『ラジャー、マイ・マスター』


 指輪は静かに輝きを失い、途端に全ての時が歩みを取り戻す。


「何っ? き、貴様、いつの間に!?」


 目の前のDOOMが僕を睨む。一瞬怯んだ僕は咄嗟に飛び退き、皆の元に逃げ込む。


「アスト君、いつの間にあんなところまで行ったんだい?」

「テレポートでも出来るの? アストっち?」


 あ、そうか。皆から見ればそうなるのか。


「アスト……サンキュ」


 あの時、何故レイアさんだけが動けたのか……? いや、そんな事は今はどうでもいい。


「レイアさん……後は、お願いしますよ?」


 その表情を見ればわかる。こんな場面でもレイアさんは、ジャーナリストとしての本懐を遂げようとしているのだ。


「任せなさいな。さってと……ようやくゆっくり話が出来るわね、DOOM。アンタには山程聞きたい事が有るんだけど、いいかしら?」


 レイアさんが両手を腰に当て、DOOMの前に立ちはだかる。これほど仁王立ちが様になる女性(ひと)はレイアさん以外にはいないのではないだろうか。


「アンタはこの惑星ほしを……いえ、この宇宙(せかい)をどうプロデュースするつもりなの? アンタがJ・D・Uのトップなんでしょ? オールトの雲との繋がりは? そして……永久心臓とは一体何なの? アタシ達はただそれを知りたいだけなの」

「それらを知ってどうする? 知った所で我々を止める事など不可能だ」

「そうね。でも、アタシの質問には答えて貰いたいわね」

「答える必要は無い」


 秒殺即答だった。 さすがのレイアさんもこれにはカチンと来たようで、DOOMへと人差し指を突き立てる。


「アンタねぇ……いい加減にしなさいよっ! 人の話はちゃんと聞くっ! そう教わって来なかったのっ?」

「答える必要は無い、と言ったはずだ」


 冷静そのもののDOOMの不敵な物腰に、一瞬レイアさんのこめかみに青筋が見えたが、直ぐに襟を正す。


「OK、分かったわ。質問を変えましょう。アンタは……何を憂いているの?」


 レイアさんの意図が読めない。何故、そんな事を聞くのだろう。この質問の意図はクリスさんもシンさんも、リック課長達も……誰も読めない。


「……何が言いたい?」

「アンタの持つ技術力、科学力……それは素晴らしくもあり、恐ろしくもある。何故、それだけの力を有効活用しなかったの? それはアンタの野心? アンタを突き動かすモノは何?」


 レイアさんの問いに、DOOMは語気を荒げる。


「有効活用したからこそ、この惑星がここまで発展したのだ! 発展を望んだのは奴等の方だ。俺はここを拠点とし、アンドロメダ銀河を支配し、全ての銀河を支配下に置くつもりだったがな。それを見抜いたヴェルドは俺を追放しようとした。そこのアンドロイドとミリュー王女は知っていよう。愚かな人間が支配する国など先は知れている……だが、国民はそんな愚かな王を支持するではないか。あの国を……この惑星ほしを進化させたのは誰だ? ……下らぬ人間の愚かさに絶望した。それだけだ」


 DOOMの言葉を受けたレイアさんはその表情を一変させる。


「アンタは……アンタは根本的に間違っている! 必要な事は対立じゃない、対話でもない、本当に必要な事は会話よ! 対立は争いしか生み出さない。対話も度を越せば争いの火種に発展しかねない」

「会話とて同じ事だろう」

「違うわ。会話は争いを生まない。会話から生まれるイザコザなんてただの小さなケンカよ。でもね、そこから絆が生まれるの。争いから絆は決して生まれない!」

「ふん、話にならんな」


 DOOMは一方的にインタビューを切り上げる。


「遊びは終わりだ。これ以上語る舌は持たん……死ね」

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