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第2話 南十字(サザンクロス)の支配者(Ⅱ)

 部屋の中にあるのは上階へと繋がる螺旋階段……また階段とは一体何階まであるんだ、この建物は。

エレベーターとかは無いのだろうか……

 そして、その階段の前に立ち塞がるDOOM……と、あれは……フェイ!?

 彼等の前に誰かが倒れているのが見える。




 アイルさん……だ……




 倒れているアイルさんは……異形だ。




 両腕が……見当たらない。右肘から先と、左肩から先……腕が……無い。

 視線を逸らすと、ソード・ライフルを握り締めたままの右腕が、ただ静かに転がっていた。


「いやああああああああああああああっっっ!」


 部屋中の空気を切り裂く様なミリューさんの悲痛な叫びが辺りを凍りつかせる。アイルさんに駆け寄り、そのまま崩れ落ち泣き叫ぶミリューさんの姿に 、僕はただ言葉を失うだけだった。


「お嬢様……」


 ジェフが介抱するが、パイは至って冷静に状況を判断していた。


「ミリュー……やっぱりアイルはアインじゃない。フレイアのばーちゃんも言ってたけど、オイラも今わかった。アイルは……アインのクローンだ」


 クローン……! でも、何故パイにはわかったのだろうか。


「あいつからはアインの匂いがしなかった。でも、あのソード・ライフルからはアインの匂いがしたんだ。何かおかしいと思ってたんだけど、あのアイルを見てわかった。人間の血は赤いけど、あいつからは赤い血が流れていない」

「確かにパイちゃんの言う通りね。クローンのフェイも赤ではなく白かった。あのアイルの様にね」


 確かに辺りには乳白色の液体が飛散している。


「でもレイア、あの培養カプセルから現れたフェイの血は赤かったわよ?」


 クリスさんの疑問にシンさんが答える。


「それは多分、クローンではなくホムンクルスだからだろう。しかし、そうなるとフェイとは一体何者なんだ?」


 その問いに答えたのは、表情を変えず眼前に立つフェイ本人だった。


「俺は俺だ。あのホムンクルスどもは、俺自身の細胞から培養された只の傀儡(にんぎょう)。クローンとて同じ事だ。俺が力を手に入れるための傀儡(にんぎょう)に過ぎん」


 その言葉が引き金になったのか、四方からフェイのクローンが僕達を取り囲む。


「フェイッ! お前……なぜこんな事を……?」

「カイル……お前には失望した。お前は俺の……いや、もういい」


 この二人の胸の内に去来する物は、僕達には計り知れない。そして、今の彼等にあるのは……互いへの憎悪の念……なのだろうか。


「クックックッ……貴様らは少々深入りし過ぎた。我々の崇高なる計画を、これ以上邪魔される訳にはいかんのだ!」


 眼前に居た筈のDOOMが後方に現れる。いとも簡単にゲートを操っているのか、それともホテルの一件の様に、分身しているのか……?


「貴様らの運命はここで潰える。愚かな希望など持たぬ事だな」


 不吉な事を言い放つDOOMの眼孔は鈍く光り、僕達の僅かな希望すら呑み込もうとする。

 ここまでなのか、と諦めかけたその時、レイアさん達の言葉が僕を絶望の淵から救いだしてくれた。


「……運命ってね、最初から決まってるモンじゃ無いのよ。その時の自分自身の行動が運命を紡ぐの。その時の決断が、その後の自分自身を形成していくのよ」

「そうね……レイアの言う通りよ。アンタ達の下らない妄執には、いつまでも付き合ってらんないのよね。この世界をアンタ達の好きにはさせないんだからねっ!」


 自分の運命は自分で創り出す物。

 アイルさんは、果たしてその運命を望んでいたのだろうか。傍らで泣き叫ぶミリューさんの姿を見るのは痛ましくて、とても正視してなどいられない。

……もう、誰かが泣く姿を見るのは嫌だ。

 気付いた時には、僕はアイルさんの腕から奪い取ったソード・ライフルを片手にDOOMに向かって駆け出していた。


「うおおああぁぁぁぁっ!」

「アストッ!」

「アストっち!」

「アスト君!」


 指輪の支配者が何だと言うんだ? 僕は僕……アスト・モリサキだ!


小癪(こしゃく)な……只の人間風情に何が出来ると言うのか……」


DOOMの暗く(よど)んだ眼が僕を睨み付けるが、以前の僕なら逃げ惑っていただろう……




 だけど。




 僕は運命に負けないと決めた。

 僕は……ルードの指輪の支配者だっ!


「指輪よ、僕が支配者だと言うなら……力を貸してくれっ!」


 それは、祈りや願いと言うよりも、懇願に近かっただろうか。ソード・ライフルの切っ先がDOOMに届くまで、まだ幾分かの距離はあったが、今更引き返せない。

 あと数メートル……その時。


『貴方に希望を……』


 誰かの声が僕の脳に直接語りかけてきた様な気がした。




 そして、指輪は眩い光を放つ。

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