第1話 吼える魂(Ⅱ)
皆の覚悟は見せて貰った。後は……
「残念だけど課長さん。アタシ達はこのまま引き下がるつもりは無いわ」
リックはアタシ達の顔を二度ほど見渡してから一つ大きな溜め息を吐く。
「どうなっても知らんぞ?」
「元より承知。覚悟は出来てるわ」
全員の顔を確認するが……あれ? 一人足んない。そー言えばアイルは?
気付いた時にはアイルの姿は無かった。まさか、DOOMを追って行った? つーか、また?
だったら、尚更ここで引き返す訳には行かないじゃない!
「課長さん、緊急事態発生よ! 問題児がまたDOOMを追って先に行っちゃったみたいよ!?」
……かどうかは知らないけど多分そうじゃない? みたいな? そもそも、いつ居なくなったのかさえ分からない。気配消し過ぎだっつーの。
「むぅ……民間人の捜索が先決か。レイアさん、これは我々の仕事だ。それ以外の事は我々の預かり知らぬ所で勝手にするがいい」
「オッケー♪」
「ちょ、課長! いいんですか?」
「知らん。我々の任務は先に進んだと思われる民間人の捜索だ。行くぞ」
も~……素直じゃないんだから、課長サン。
部屋の奥、これ見よがしに開かれた扉の向こうへと、お役所チームが進み出す。その時だった。
辺りの培養カプセルの幾つかが突如として弾け出す。勢い良く、けたたましい破裂音が、あちらこちらと派手に鳴り響き、割れたカプセルの中から次々と現れるクローン達。それは、奴の言葉を証明する者達だった。
「フェイッ!?」
ひぃふぅみぃ……うおっ! 5人も居る? マジか!? これはかなり厳しいわ……流石は量産可能と言うだけあるわね。
「ジェフ!」
「御意!」
ミリューの言葉に素早く反応するジェフが両腕のアタッチメントを交換し、ビームガンを放つが、ビームは奇妙な角度で屈折しあらぬ方向へと弾け跳んで行き、培養カプセルを破壊していく。
「なっ!?」
「変な角度になったぞ?」
目を凝らしてみると、ビームが屈折した箇所の空間が僅かに歪んでいる気がする。
「風の力を甘く見るなよっ!」
フェイの声だ。
「キヒヒッ! 風のバリアを幾重にも張り巡らせれば、空間の歪曲くらい出来るのさ」
最早、科学の力では太刀打ち出来ないのか。
いや、そんなハズは無い。
アタシ達の後方から、けたたましい機械音の唸りを上げ、三機のSTがフェイ達へと突撃して行く。
「おぉぉぉぉぉあぁぁぁぁぁっ!」
赤いSTが高周波剣を振りかざしながら雄叫びを上げる。
「援護しますっ!」
すかさず緑のSTがランチャー・カノンをぶっ放す。アタシら、何処に逃げればいいのー!?
「せんぱ~い! こっちこっち~! こっちに来て下さ~いっ!」
水色のSTが手招きする。
「エミリー!」
水色のST(ヘリオスって言ったか?)の後ろに逃げ込み、ST隊VSフェイ軍団の戦いを見守る事にする。
5人のフェイによる風の刃ラッシュをものともせず、3機のST隊は巧みな連係プレーを見せる。これは楽勝か? しかし、事はすんなりとは行かず。
「課長っ! こいつら、一向に下がる気配が無いですよっ!」
「構わん! 民間人の安全確保を最優先するんだっ!」
再び赤いSTが雄叫びと共に二人のフェイの首を撥ね飛ばす。
「クローンの動きを止めるには首を撥ねるしかない。迷わずやれ!」
「了解っ!」
見ていて気分の良い物では決して無いが、やらなければこちらがやられてしまう。自己防衛の手段なのだ。
……アタシにはそれが痛い程わかる。
「エミリーはジャーナリスト達を守れ」
「わっかりました~!」
敬礼ポーズを取りながらアタシ達の護衛を引き受ける。
何だろう、何故かコイツに護られるのって、屈辱的だわ。でも、人外の脅威から自己を守るには、同じく人外の力でしか護れないのだ。生身の人間のなんと無力な事だろうか……
2機のSTは多少の苦戦を強いられたものの、クローン・フェイ達を殲滅させていった。
「ミッション・コンプリートです。お疲れ様でした」
業務連絡宜しく、ルミがST乗り達を労う。
「ブライアン、ご苦労だった。エミリーもよく護ってくれた」
そう言やポールって係長だったっけ。伊達にイケメンでは無かったか。
「さて、と。脅威も去った事だし。課長さん、やっぱりアタシ達も先に進むわ。アイツが言う新聞屋の魂ってモンを見せてやろうじゃないのさっ!」
この奥に待つのは冥府、冥府の主DOOMと対峙し、またここに戻って来れるのだろうか?
危険は百も千も承知。でも、死ぬつもりなど毛頭無い。
アタシの命の砂時計を……こんな所で終わらせる訳にはいかない。




