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iDENTITY RAISON D’ETRE 【 アイデンティティー・レゾンデートル 】第一部  作者: 来阿頼亜
第1章 カフェ・オ・レはスクープの薫り……なんかするかぁっ!
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第4話 白い竜と呪いの指輪(Ⅰ)

 僕が購入した指輪……ルードの指輪と呼ばれるそれは、一見してそれほど価値が有るようには思えない。確かに、少し風変わりな模様──────いや、紋様と言った方が正しいか────────が見えるが、それだけで高価な品であるとは言うのは早計だろう。十字架の紋様など、風変わりだが珍しい物では無いと思うし。まぁ、歴史的な価値がある、と言われればそれまでかも知れないけど。

 てゆーか、一度買った品を返せとは……買った方が返品を申し出るってのはよく有る話だけど、売った方が返品を要求する事はそうそうある話ではない。

 てゆーか、女性だったんだ……僕が聞いた声は少年のような印象だったけど……


「本当に申し訳ありません。その指輪は、お売りする訳にはいかない品なのです!」


 呼吸を整えた彼女が強い口調で訴えかけてくる。それ程までに大切な品だという事は分かるが……


「それなら何故売り場に? と言うか、そもそもどういう事情が?」

「それは……詳しくお話する事は出来ません。とにかく、返品して頂けませんでしょうか? お代はこの通り、お返し致しますから」


 そう言って、半ば強引に僕の手を掴んで掌にお金を乗せてきた。女性に手を掴まれるなんてあまり経験が無い僕は少し緊張してしまった。顔が赤くなってたりはしないだろうか。と、そこへ、今まで静観していたレイアさんが割り込んできた。珍しく黙っているなと思っていたら、どうやらシンキングタイムに入っていたようだ。


「ちょっと待って。その指輪、よく見せてくれないかしら?」


 レイアさんが、僕の手を掴んで指輪を観察し始める。またもや女性に強引に手を捕まれた僕の顔は確実に赤くなっている筈だ。じっくりと自分の手──────正確には指輪だけど──────を見られるのがこんなに気恥ずかしいモノなのか。何故か露店商まで僕の手をまじまじと見つめている。

 いや、分かってるさ、手じゃなく指輪を見てるって事は。でも、緊張するもんはするんだよね……

 心臓が口から飛び出そうなくらい鼓動が激しくなってくる。まるで16ビートのハードロックのドラムみたいだ。

 程無くして、一つ大きく頷いたレイアさんが静かに口を開く。


「この指輪……ルードの指輪って、貴女確かに言ったわよね? 名前に聞き覚えがあって、ずっと記憶に引っ掛かってたんだけど、実物をじっくり見て思い出したわ。コレ、呪いの指輪よね?」


 急にトーンを落としたその言葉尻に、僅かに緊張の糸が走る。その言葉に僕はただ息を飲むしかなかった。いや、正確には違う。ただ声が出せなかっただけだった。あ、それが『息を飲む』って事か。

 呪いの指輪なんて現実にあるなんて思わなかったし、ましてやそれが今僕の指に嵌められているなんて。現実を見失っている間にも時間だけは無情に過ぎていく。


「何故、貴女がルードの指輪をご存知なのですか?」


 少女はレイアさんの目を捉えたまま言う。レイアさんも、その目を逸らそうとはしない。この目はジャーナリストの目だ。


「何故知っているか、ですって? 一応アタシもジャーナリストですからね。それくらいは知識として知っているわ」


 低い声のトーンは変わらない。


「ジャーナリスト……」


 少女の顔が僅かに強張る。それを見逃すレイアさんではなかった。

 鋭い視線を投げ掛ける、その眼差しは正にジャーナリストの鬼だ。


「それよりも。何故アナタがそれを知っているのかしら? そして、何故それを所持しているのか?」


 確かに、それ程の品をただの露店商が持っているのかは疑問ではある。この少女は怪しいかもしれない。てゆーか、質問に質問返しってアリですか。


「……その指輪は母の形見なんです。店頭に並べたつもりは無いのですが、何故か並んでしまっていて、と言うか、その……実はあの時、私の意識は無かった状態だったと思います」


 意識が無かったって……そんな事は絶対に有り得ない。


「そんなバカな! あの時、確かに僕と君は会話をしていたし、受け答えもハッキリしていた。何より、君の方から話かけてきたんじゃないか!」

「な~に~? 逆ナンされたのぉ~?」


 こんな場面でチャチャ入れないで欲しいなぁ。でも、しっかりと会話をしていたのは間違いない。


「それは多分、この子のせいだと思います」


 と、少女が言うと、彼女の胸元からひょっこりと小さなフェレットが顔を出してきた。


「オイラの事、呼んだ?」


 僕は思わず、うわっとのけ反ってしまったが、レイアさんは興味津々といった感じでそのフェレットに顔を近付けていく。


「やん、カワイイ~♪ ホワイト・ドラゴンの子供かしら?」


 声のトーンが普段よりも2オクターブ高いっ!?


「お? おねーさん、よくオイラがホワイト・ドラゴンだって分かったね?」


 少女の胸元からピョコンと飛び出し、レイアさんの肩に飛び乗る。フェレットじゃなくてドラゴンだったんだ……って、ドラゴン!?


「ド、ドラゴンなんて空想上の生物じゃないんですかっ!?」


 その存在は神話の時代から語り継がれている。僕の生まれた惑星にもドラゴンの伝説は数多く知られているが、それは所詮、伝説でしか無かった。

 ハズなのに……

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