第1話 吼える魂(Ⅰ)
突如として、部屋の奥から現れたDOOM。
背後の部屋ではエミリーのSTが二人のフェイと激し過ぎるバトルを繰り広げている。
この場から逃れる術は無い。一難去ってなんとやら。でも、逃げるつもりなど毛頭無い。
絶好のインタビューチャンスを逃してなるものですか。
ジッとDOOMを見やると、奴はその口を開く。
「お前達はこのホムンクルスを精製するために必要な材料が何なのか、知っているか?」
「材料?」
ホムンクルスを精製する材料……意味が分からない。
「簡単な事。それは人間だ」
「な……」
その場の空気が凍りつく。
このカプセルの中に居るソレは人間そのものだった。
「アンタ……自分が何をしてるか……解ってんの?」
「お前達こそ、ホムンクルスを何だと思っているのだ? ホムンクルスになる事こそが、ただの人間が永遠の命を得られる唯一にして究極の術なのだ」
フレイアの言っていた事の意味がようやく理解出来た。
ある意味では、永遠の命を得るホムンクルスになる事は完成形なのだろう。しかし、それは人間としての存在意義を失う。――つまりソレは失敗作。
そして、ソレは命の砂時計を破壊する事と同じ行為なのだ。
「やはり、外道は外道……と言う事か」
アイルが呟き、その言葉にアスト達も頷く。
「アンタねぇっ! 人間を何だと思ってんのよっ!? 言いようによっちゃ許さないわよっ!」
ここまでアツく吼えるクリスを見るのは初めてかも知れない。
「こんな風にされた人達を……何とも思わないのかっ!」
「カイルの言う通りっ!」
「DOOM……貴方と言う人は……」
「お嬢様、奴は、もはや人ではありません」
「オイラも怒ったぞっ!」
みんなの怒りは既に頂点に達している……無論、アタシもだ。
「人間など、欲望にまみれ、秩序を蔑ろにし、己の利権だけを望み、己の保身だけを第一に考え、その反面、脆弱な精神と肉体を持つ、怠惰極まりない生物ではないか。そんなモノに憐れみや慈愛など微塵も感じぬ」
好き放題言っちゃってくれるわね。しかしそれは極論ではあるが、ある意味正解なのかも知れない。
「確かにアンタの言う事は間違っちゃいないのかも知れない。でもね……人間は弱いから、自分を守るの。弱いから、助け合うの。弱いから、強がるの。弱いから、愛し合うの。そして、弱いから……強くなれんのよっ! アンタに一言だけ言っておくわ。人間を……人間をナメんなよっ!!!」
アタシの怒りは一気に沸点に達し、プロミネンス爆発を起こす。それと同時に、後方の部屋でもけたたましい爆発音が轟く。
轟音に怯みつつ振り返ると、二人のクローン・フェイに気圧されるエミリーのST……と、更に二体のST。
「ちょっ! ま! どゆ事?」
果たしてどこに驚けばいいのだろうか。あのST相手に対等以上に渡り合うフェイ達にもだが、エミリー以外のSTもいる。それはつまり……
「エミリー! 右に回れっ!」
「了解です~っ! 課長!」
「ブライアンは左だっ!」
「ラジャーッ!」
やはりそうだ。彼らが合流していると言う事は、あの部屋で何かを掴んできたのだ。
「何なんだ、このロボット!? 風の刃が効かねぇだとぉ!?」
イリジウム合金恐るべし……てゆーか、クローンとは言え、生身だからね!? 生身VSロボットなんてシュール過ぎるわよ……
「コロスコロスコロスコロスコ……」
叫びながら無謀にも赤いSTへと特攻をかけるフェイBだったのだが、無惨にも高周波ブレードの餌食となりその首を宙へと吹き飛ばす。乳白色の液体を伴い、蒼白い生首が眼前を横切り、コロコロ……と足元に転がる。
「ひゃおわらばぁぁぁっ!」
「いやぁぁぁぁぁっ!」
「えげつなっ!」
ヘタレアストの反応は想定内だったが、さすがにコレは誰であっても引くわね……
「くらえっ!」
緑の機体色のSTがフェイAのどてっ腹に風穴を開ける。
「か……は……」
すかさず赤い機体色のSTはフェイAの首を撥ねあげる。
あっと言う間も無く、3体のSTは2人のクローン・フェイをえげつなく薙ぎ倒すが……そりゃ、戦力差は目に見えていたけどさ。
クローン・フェイの脅威を拭い去ったSTパイロットが降りてくるタイミングを見計らったかのように現れる一組の男女。
高シンクロ率を誇るのか、同じタイミングで擦れたメガネを直し、同じタイミングで言葉を発する。
「ミッション・コンプリートです。お疲れ様でした」
「バックアップ御苦労、ルミ君」
赤いSTのパイロット……リック課長が順次、メンバーに労いの言葉を掛けている。
「みんな、大丈夫かい?」
牛乳瓶の底メガネがこちらの安否を気遣うが、しかし、修羅場はまだ続く。
「ふん。たかがクローンを片付けただけで勝ったつもりか? クローンなど無限に精製出来る」
禍々しく黒い眼孔を光らせ、DOOMがこちらの動向を窺っているのがわかる。
「DOOM……もうこれ以上アンタに何が残ってるっての?」
内心では何かあると疑いつつ、努めて平常心を装い訊ねる。
「この部屋はクローン精製所……ヤツのクローンなぞいくらでも量産可能だ。たかが新聞屋風情に何が出来るか見せて貰おうか……クックックッ……」
イラつく捨て台詞を置き土産に、DOOMは部屋の奥へと姿を消す。
「ちょ、待ちなさいよっ!」
慌てて追いかけようとするが、アストに腕を掴まれ制止させられる。
「レイアさんっ! これ以上は危険過ぎます!」
「でもっ! ヤツを追わなきゃ!」
振りほどきDOOMを追おうとするが、それすらも制止させられる。
「彼の言う通りだ。ここから先は我々の仕事だからな、ジャーナリスト」
「アンタ達の出番はここで終わりだよ。後は任せときな」
「せ~んぱ~い♪ お疲れ様でした~♪」
ST乗り達に言われると……悔しいけど納得してしまうし……お役所なんぞにいいトコ持ってかれんのも癪だけど……
でも、まだやれる。出来る事があるハズ!
「精霊使いさん達、まだやれる?」
「カイルは分からないけど、私達ならまだ!」
ハルの言葉に続いてエルマとリサも……カイルも力強く頷く。
「風の精霊の力が、エルマとリサと……そしてハルを強くさせるなら……俺は行くぜ」
はいはい、御馳走様。でも……ちょび、カイルを見直したわ。アンタ、結構イイ男かもね。
「頼もしいわね。ミリュー、パイちゃん、ジェフはどう?」
「私の覚悟はとうに決まっています」
「オイラもとことんやるぞぉっ!」
「私の務めはお嬢様を守る事です。それに、せっかくシン様に改良して戴いたこの腕、存分に揮わなければ無駄になりますからな」
豪快に笑い飛ばすジェフ。戦う料理人の異名は伊達じゃ無いってか。
「おっけ。その言葉だけで十分よ。アスト、クリス、シン、行けるわよね?」
「うぇっ? ぼ、僕は……」
「行けるわよねぇ? アストっち?」
クリスが俯いているアストの背中を叩いて闘魂を注入する。
「……ここで引き下がっては、ロイス・ジャーナルの名折れと言う物ですよね」
顔を上げるアストのその眼からは、強い決意を感じ取れた。
「……と言う事だ。どうせボク達に決定権は無いのだろう?」
決まりね。
アスト、アンタの覚悟がどれ程の物か、見せて貰うわよ?




