第6話 人外達の狂宴(Ⅱ)
エミリーの姿が先程から見当たらない。アイツがこんなトコで死ぬタマじゃ無いだろうに。と、その時だった。
豪快な破壊音と共に瓦解していく壁。そこから射し込む光。
……ん、光?
外は暗闇なのだから光など射し込むはずが無い。
目を凝らすと、そこには一機のSTが仁王立ちを決め込んでいた。
「みっなさ~ん♪ おっ待たせしました~!」
この緊張感の欠片も無い声は……
「エミリー……?」
「あ、せ~んぱ~いっ! 無事でしたぁ~?」
STの両腕をブンブン振りながら答える声は間違いなくドラスティック・ガール・エミリーだ。
「ア、アンタ、何でSTに!?」
「何か~、ヤバそうな雰囲気だったんで~、ヘリオスちゃんを呼び出しちゃいました~♪」
唖然とするアタシ達を尻目に平然と言い放つ。フェイA・Bも呆気に取られている。そりゃ、そうだわな。
「それじゃ、エミリー・エンデバー、張り切って……行っきま~す!」
全高3・14メートル、イリジウム合金のボディを持つその重量は1・2トン。
水色に彩られた機体が唸りを上げる。こんな物の巻き添えなんて喰らってたまりますかっての!
「エミリー! アタシ達は避難するから、ソイツらの足止めお願いっ!」
「ラジャーッ!」
「さっ、行くわよ!」
部屋の奥には、いかにもな雰囲気を醸し出している怪しげな扉があるが、一刻を争う今は入るか入らざるか、迷ってる暇は無い。
「ランチャー・カノン、発射!」
物騒な声が響き渡る部屋を後に、アタシ達は扉の奥へと向かう。
飛び込んだ先は、これまた異様な部屋だった。
無数の透明な球状のカプセルの様な物の中には、まるで培養されているかの様に漂う……あれは胎児……なのか?
いや、胎児だけでは無い。
男性や女性の形をしたモノもいる。
だが、そのどれもが異様だ。
両腕の無い者、頭部の無い者、片足の無い者、両足の無い者、皮膚の無い者、様々な出来損ないがカプセルの中を漂う。
……今、アタシはこれらを出来損ないと?
……一体、何の出来損ないと思ったのだろうか?
……人……間……?
そう……人間だ。そう認識した途端、おぞましい程の寒気が全身を駆け抜ける。
「な、何よ……ここ? レイア……ねぇ……何なのよ?」
「ア、アタシに聞かれてもわかんないわよ……」
襲い来る目眩と悪寒に苛まれていると、しんがりを務めていたジェフが口を開く。
「ここは恐らく、ホムンクルスの精製所ではないでしょうか?」
「ジェフ、あなたは何か知っているのですか?」
「お嬢様……私は以前、フレイア様より聞き及んでた事があります。それは、正に悪魔の如き禁術でした。それが、今この眼前に広がる風景と酷似していますね」
「ちょっと待って! ジェフはもしかして、ここでアンドロイドに?」
「いえ……ここではありません。が、確かに、ここと酷似している気がしますね」
フレイアは、ホムンクルスが失敗作であり、その過程にあるアンドロイドこそが完成品だと言うようなニュアンスの事を言っていた。
つまり、ここにいるジェフこそが完成形であり、このカプセルの中にいる者達は失敗作。しかし、アンドロイドの先に居る者こそが、ホムンクルス?
……何だろうか、このパラドックスは?
「そもそも、ホムンクルスとは一体何なの?」
思わず声に出してしまった。
「知りたくば教えてやろう」
「誰っ!?」
またもや声に出してしまう。
部屋の奥から現れた人物……見忘れるハズが無い。
漆黒のマントに身を包み、禍々しいばかりのオーラを放つ男。
「DOOM……会いたかったわよ、アンタに」




