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第5話 姿なき雲(Ⅱ)

「な、何よコレ!?」

「こんなの見た事無いよ?」

「私達の村には無かったわよね?」


 そりゃ、あんな長閑な村には無いだろう。フロア一面に広がるのは、美しく色彩豊かなLEDが発光する計器の様なコンピューターまみれなのだが、ともすれば銀河の星々の煌めきを思わせる幻想的な雰囲気を感じる……のだが。


「何だか、気味の悪い部屋ね」

「あ~もうっ! チカチカして目が痛くなるっ!」

「そうかい? ボクは逆に落ち着くなぁ」


 クリスさん達、女性陣には不評極まりないこの部屋も、シンさんや僕から見れば、居心地の良い部屋だ。女子にはわからない男のロマンが詰まっていると思うんだけど、やはりどこか異質な雰囲気は感じる。


「あ~っ! もうっ! こんな所でウダウダやってる暇は無いわ! さっさと上へ行くわよっ!」


 暫くこの部屋に留まっていたかったが、レイアさんのイライラMAXに気圧(けお)され、先を急ぐ事にする。しかし、やはりこの部屋が気になる人が出てくるのも理解できる。例にもれず僕もその一人だ。


「レイアさん、我々は少しここを調べてみようと思う。ただ、戦力のダウンを考慮して、エミリーとポールをそちらに付ける。代わりに……と言っては何だが、そちらの白衣の方に御助力を願いたいのだが、いかがだろうか?」


 リックさんが意外な提案を申し出て来たのだ。それに対し、レイアさんが遂に核心を突く。おそらくだが、レイアさんは頭の中でこれまでの情報で得たキーワードを組み合わせ、一つの結論を導き出そうとしているのだろう。

 そして、最後のキーワードを求めるかの様にジャーナリスト・モードへと突入する。


「リック課長。アナタ達の狙いは何? J・D・Uの調査、DOOMとフェイの捕縛、それだけじゃ無い様な気がするんだけど? つーか、シン。それにクリス。ここまで来たら隠し事もナシじゃない? アンタ達が追っかけてる本当のネタって一体何なの?」


 レイアさんのターゲットはお役所の面々だけでは無く、シンさん達もだった。

 シンさんはその表情を崩す事は無かったが、クリスさんは観念したかのように大きく溜め息をつく。


「分かった。全て話すわ。ワタシ達が追っているネタはオールトの雲よ」


 オールトの雲というとミスターが言っていたと言うアレの事か。てゆーか、シンさん達とリックさん達って繋がりがあった?


「ボク達は編集長の指示を受け、オールトの雲を追っていた。その中で出会ったアンドロメダ銀河役所の彼等も、ボク達と目的が同じだったんだよ。ただ、通信回線を通してのやり取りだけだったから、直接会うのは今回が初めてだけどね」


 白衣のポケットに両手を突っ込んだまま、レイアさんの顔を真っ直ぐに見据えたままのシンさんに対し、レイアさんもまた視線を逸らそうとしない。


「OK、話は解ったわ。んで、そのオールトの雲ってのは何なのよ?」


 言葉通りの意味ならば、太陽系を取り囲む天体群の事だ。でも、彼等の言うソレはきっと違う何かなのだろう。


「我々、銀河役所が掴んだ情報では、オールトの雲とは、超巨大な犯罪シンジゲートだ。J・D・Uもそこにくみしている」


 一瞬、我が耳を疑う。聞き間違いでなければ、リック課長は今、犯罪シンジゲート……と言った。僕達は、もしかして足を踏み入れるべきでは無い所に居るのではないだろうか?犯罪シンジゲートを相手にするなんて、余りにも突飛で馬鹿げている。それにそれは、ジャーナリストの本懐では無い筈だ。

 僕は心の底から襲い来る震えと必死に戦っていた。それでも、多分レイアさんは、そんな事は意にも介さないのだろう。『犯罪シンジゲートがナンボのもんじゃいっ!』とでも言うのだ、この人は。でも、僕はそうじゃない。臆病者と指を指され笑い者にされようと構わない。怖いモノは怖い。何より死が迫り来る恐怖に(さいな)まれ、ソレに耐えうる自信が無い。

 時々思うのだが、レイアさんは死と言う物に対して恐れを感じていない様な気がしてならないのだ。いや、ま、物怖じしない人だってのは解ってるんだけど。ソレ以上に何か……死そのものを既に受け入れている様な気さえする。


「アンタ達も、モノ好きな連中みたいね。つーか、そんなオイシイネタを何でこっちに回さないのよ、あのエロオヤジ! 犯罪シンジゲートがナンボのモンだってのよっ!」


 やっぱり。どこまでも己の信念を曲げない人だ。


「な~んか、あったま来た! こんな仕事サッサと終わらせて、ハゲオヤジをぶん殴ってやる! 行くわよっ!」


 プンスカと頭から蒸気を発しているのが解り過ぎるぐらいのお怒りモードのまま、ドスドスと足音が聞こえて来そうな勢いでレイアさんは階段を上って行く。


「あ、せんぱ~いっ! 待って下さいよ~!」

「ちょ、レイア! 落ち着きなさいよ~」


 そんなレイアさんを(なだ)めながら、女性陣が後を追う。

 一応、名誉のために言っておくと、編集長の髪はフサフサしている。エロオヤジの件は僕の口からは何も言えないけど。


「それじゃアスト君。レイアを……皆を頼むよ」


 そう言い残し、シンさんはリック課長達と共に機械まみれの部屋を探索する。


「それじゃ、俺達も行くか」


 これだけのメンバーがいれば、そうそう滅多な事は起こらないだろう。カイルさんの言葉に何度目かの覚悟を決め、先へ行く。

 いつ、どこからDOOMやフェイが襲撃してくるのか? より一層の警戒を強めながら、慎重に歩を進める。

 ここに来てからと言うものの、本来の目的が大幅に変わってきている気がするが……

 機械だらけの部屋の上階は、一転して何もない空間だった。そのど真ん中には、巨大な螺旋階段が僕達を出迎える。


「コレを上るの? しんど……」


 吹き抜けの中、果ても見えず延びて行くその螺旋を見上げる。真っ暗闇に吸い込まれていく階段をこれから上って行くのかと思うだけで目眩(めまい)が襲ってくる。クリスさんの呟きに答えたレイアさんの言葉に、僕達は一様に頷く。


「行くしか無いでしょ」

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