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第5話 姿なき雲(Ⅰ)

 フェイは多分、生きている。あの程度で死ぬとは思えない。

 カイルさんのその言葉はおそらく、間違いないだろう。

 今は一刻も早く上階へと進み、レイアさん達と合流しなくちゃ。急ぎ足で階段を上ると、何者かの足音が聞こえてきた。


「誰か下りてくる?」


 咄嗟に警戒態勢を取る。


「誰かいるのか?」


 聞こえてきた声には聞き覚えがあった。


「え? その声は、もしかしてアンドロメダ銀河役所の? 」


 どうしてここに彼等がいるのだろうか?

 上階から下りてきた三人、リック課長とブライアンさんとエミリーさんに階下での出来事を伝え、お互いに情報を交換する。


「そうなんですか。じゃあ、レイアさん達は無事なんですね?」

「ああ。今頃は更に先へと進んでいるだろう」

「せ~んぱい達、無茶してなければい~んですけどねぇ~……」

「お前が言うかよ」


 ブライアンさんのツッコミは言い得て妙だ。もしかしたらこの二人は良いコンビなのかも知れない。

 二人を尻目に、(いぶか)しそうにこちらを見るリック課長。


「ところで、そちらの方は?」


 チラチラと眼で追っている、鳶色の髪と朱色(シナバー)(・アイ)の彼が気になる様子だ。そんな空気を察してか、彼は僕の前に立つ。


「これは礼を失した。俺はアイル・スパイアー。貴殿と同じく、DOOMとフェイを追っている者だ」


 階下でフェイと戦い、その最中(さなか)に助けて貰った事を説明した。


「フェイの奴が居たと言う事は、ここがJ・D・Uのアジトと見て間違いないですかね、課長?」


 両腕を組み、右手を顎に添えたブライアンさんが課長に進言する。


「うむ、そう見るのが賢明だろう」


 ブライアンさんと全く同じポーズのまま答える。

 何故か、エミリーさんも同じポーズを取り、うんうんと頷いていた。

 フェイとJ・D・Uの関係性とは一体何なのだろうか?


「アイルさんは何か御存知無いですか?」


 アイルさんならもしかしたら、と思ったが、「いや、知らないな」の一言で一蹴されてしまった。

 絶対に知ってると思ったんだけどなぁ。何かを隠してる様な気もするけど、今はそれ以上の詮索をする事はやめる事にした。




 階段を駆け上がると、開かれた扉を見つけた。きっとレイアさん達は此処から先へと向かって行ったに違いない。扉を抜けると、上へと向かう階段を見つけた。所々が損壊しているのが気になるが、構わず僕達は上へと向かう。




 そして……




「レイアさんっ!」


 ようやく追い付いた。数時間ぶりに会えた。僕は安堵に胸を撫で下ろした。


「アンタ達、遅いわよ。こっちはフェイと一戦交えたってのにさぁ」


 数時間ぶりのハズなのに、何故か懐かしい声だ。

って、え? 今、何て?


「レイア、ボク達も階下でフェイと戦っていたんだが?」

「アイツは確かにフェイだった。なぁ、アイル?」

「あぁ……どこか異質で(いびつ)で異形ではあったが……ソレは間違いないだろうな」


 アイルさんの物言いは、奥歯に何かが挟まった言い方だ。そして、やはりと言うべきか、レイアさんがすかさず突っ込む。


「随分と奥歯にイカの足でも詰まった様な言い方をするわね。ま、それは一旦置いといて。ようやく会えたわね、アイルさん。アナタに会わせたい人がいるんだけど……ミリュー?」


 レイアさんに促され、ミリューさんとパイとジェフさんが、おずおずとアイルさんの前に姿を現す。

 ミリューさんの表情の変化は一目瞭然だったが、パイとジェフさんはその表情を崩さない。


「に、兄様……?」


確かに、アイルさんのその朱色(シナバー)(・アイ)はミリューさんのそれと同じだ。しかし、アイルさんの反応は余りにも希薄過ぎた。


「俺は君の兄では無い。例えそうだったとしても、やるべき事を果たしていない今は、そんな事を喜んでいる場合では無い筈だ」


 ミリューさんはさすがに落胆の顔を隠せずにいる。

 チラッとレイアさんの顔を見やると案の定、狐につままれた様な表情だった。そして、ふっと我に返り、おもむろに僕の耳を摘まみ寄せる。


「イタタタタッ! な、何ですか!?」

「何ですか、じゃないわよっ! 話が違うじゃない! アイルはミリューの兄キじゃ無いの!?」

「僕だってそうだと思ってましたよっ! でも……何だか違う雰囲気ですね」


 今はまだ正体を明かせない、何か事情があるのかも知れない。しかし、彼の言う通り、本当に別人なのかも知れない。


「ま、いいわ。それよりも、アンタ達もフェイと戦ったってどういう事よ? アタシ達が戦ったアイツは一体、何なのよ? それに、アイル……さん? アナタの言い方も、何か含みを持たせているわよね?」


 アイルさんは表情を変えない。


「俺に聞くより、先に行って自分の目で確かめた方が確実だろう。さ、行くぞ」


 そう言い残し、スタスタと歩き出す。


「兄……様……」


 アイルさんを目で追うしか出来ないミリューさんが呟く。


「お嬢様、あの方は本当にアイン様なのでしょうか?」

「分かりません。でも、そうだと信じたいです。パイはどう思う?」

「オイラからは、まだ何とも言えないよ」


 そう言い残し、パイはもぞもぞとミリューさんの胸元へと潜り込んでしまった。

 相変わらず羨ましい限りだ、と思いながらも先に行ってしまったアイルさんの後を追い、階段を上る。その先で僕達を待っていたのは、あまりにも異形と思える部屋だった。

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