第3話 相剋の救世主(Ⅲ)
カイルさんの口から発せられた言葉。
アイル? アイン、じゃなくて?
いや、そうか。やはりアイルさん=アインさんなのだ。
「アイル……? そうカ、貴様ガ……邪魔立テするなラ貴様かラ殺ス!」
殺意の矛先は、リサさんからアイルさんへとシフトチェンジされた。そんなフェイを真っ向から受けて立つ様子のアイルさんは、どこか不敵な笑みを浮かべている。
「そいつは好都合。俺を殺すつもりなら……全力で来いっ!」
そう言い放ち、あろう事か自ら突進していく。
そして、僕はただオロオロするだけ……
情けない事だけど、僕には何も出来ない。そんな僕を置き去りのまま、闘いは更に熱を帯びてゆく。
「カイルッ! 精霊の声が聞こえたのなら、お前はもう立派な精霊使いだっ! 俺と共に戦えっ!」
しかし、カイルさんはまだ戸惑っている様子で沈黙を貫き、激しいバトルを繰り広げているアイルさんの声に応えようとしない。
「カイル! お願い! あの人と一緒に戦って!」
「ハル……」
「さっきの威勢は何処へ行ったんだい?」
シンさんも静かに檄を飛ばす。
「……駄目だな、俺は。いざとなると足がすくんでしまう……」
「カイルがやらないのなら私がっ!」
業を煮やしたエルマさんが飛び出し、強烈な水流を繰り出すが、それはいとも簡単に跳ね返される。
「そんナ下級精霊の力なド効かネェなァァ!」
「だったらこっちはどう?」
何処からともなく、大量の石の飛礫がフェイ目掛けて飛んで行く。
振り返ると、先程フェイに吹き飛ばされたリサさんが、片膝をついた態勢で両手をフェイに向けていた。
「ぐぅッ! テメェ!」
不意を突かれたフェイがよろめく。
「ハルッ!」
「任せてっ!」
間髪入れずハルさんが松明の炎を精霊の力で増大させ、一直線に火柱を疾らせる。
「こ、こノ程度でくたばっテたまるかァァァ!」
「カイルッ! 今よ!」
「分かった、やってみる!」
何事かを呟いたカイルさんの胸の辺りに小さな旋風が巻き起こる。
「いけっ!」
小さな旋風は鋭い刃と化し、更に火柱の炎を纏い炎の旋風となりフェイ目掛けて疾り抜ける。
「ぬぅゥぅぁァぁァぁァァぁぁぁァァぁッ!」
やった……のか?
「まだだっ! アスト君っ! ソード・ガンを撃つんだ!」
シンさんの声に僕は躊躇った。
人に向けて撃つなんて、僕には出来ない。例え相手がどんなに凶悪な犯罪者であっても、だ。
それは、自分自身が殺人を犯す事になるから、と言う事も理由の一つだが、それ以上に……ジャーナリストの武器はペンである、と言う事が最大の理由だからだ。
しかし、シンさんはそんな僕を慮ってか、綺麗に気持ちを汲み取り、続けてこう言ってくれた。
「アスト君! 威嚇射撃でいい。この場を離れるためにも撃つんだっ!」
ためらう理由は無くなった。僕とシンさんはフェイの近くにあるランプを撃ち抜く。
弾け飛んだランプから溢れ出た炎は激しい火柱を立て、辺りを炎の海へと変貌させる。
「行くぞっ!」
アイルさんの声に従い、僕達は振り返ることなく階段を駆け上った。
「フザケンナヨ……コロス……コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス」




