第3話 相剋の救世主(Ⅱ)
いよいよ、と言うか、やっと、と言うべきか。僕達は決戦の地へと遅参したのだ。
格好はつかないが、ヒーローは最後に現れるって事で。
「この扉の向こうには何が待ち受けているか分からない。皆、十分に気を付けて」
そう言ってシンさんが巨大教会の扉を開ける。こんな風にリーダーシップを取れないから僕はまだまだ半人前なんだろうなぁ。
教会の中は外観からの想像通り、いや、想像以上の広さだった。アンティーク調のランプや松明の灯りのお陰で比較的明るい。
広い、と言ったが、むしろ、がらんとした空洞と言った表現の方がしっくり来るかも知れない。
そう、何も無いのだ。
中央には上層階へと続く階段があり、その手摺の両端には口から絶え間無く水を吐き出すライオンの頭と魚の様な胴体を持つ石像が陣取っていた。いわゆるキメラと言う奴だろうか。
どうやらレイアさん達は既に上に行ったのだろう、ここには誰も居ない様だ。
「僕達も上へ行きましょう! 早くレイアさん達と合流しなくちゃ!」
階段を駆け上がろうと足を踏み出した時だった。
「危ないっ!」
突然カイルさんが叫び、僕達を突き飛ばす。
「うわったっ! な、何するんですか!?」
したたかにフロアへと頭を打ち付けた僕は、後頭部を擦りながらカイルさんを恨めしそうに見上げる。だが、当の本人はある一点をじっと見据えたまま僕達に告げる。
「アンタ達は早く上へ行くんだ」
「な、何を?」
「早く行けっ! 奴だ……フェイが居る!」
辺りを見渡してみても人の気配なんて感じない。
「何でそんな事が分かるんですか?」
フェイと言う名前を聞いただけで掌がじわりと汗ばむ。
「あの天井裏で感じた気配と同じだ、と精霊が教えてくれたよ」
カイルさんの言葉に反応したのだろうか、何処からともなく冷たい風が吹いてくる。
「へぇ~、ようやくお前も精霊の声を聞ける様になったのかァ」
その声の主は、間違いなくあの男だ。
あ、しまった。逃げそびれた。
「また逢ったねェ~、君達ィ~?」
フェイの眼は、明らかに狂気を孕んでいる。
「ボク達は別にアンタに逢いたくなかったんだけどさぁ、いずれ決着つけなきゃなんないってんなら、今ここでつけましょ」
リサさんの言葉はフェイの癇に障ったらしく、憎悪の眼を彼女に投げつける。
「だったラ……お前かラ殺シてやろうカ?」
口元を奇妙に歪めながら、固く握った右手をゆっくりと広げリサさんへと向ける。
「キャアァァッ!」
勢いよくリサさんの身体が後方へと吹き飛んで行く。まずいっ!
「リサッ!」
「いやぁぁぁっ!」
壁に激突するその瞬間、一陣の影が彼女の身体をキャッチする。
「誰ダ!?」
フェイが言わなければ僕達の内の誰かが言っていただろう。
その影の主は、背中の鞘から通常よりも刀身の長いソード・ライフルをおもむろに抜き、フェイに向き直り構える。
「君達の後をつけて来た事を先に詫びよう。しかし、詳しい話は後にしようか。まずは奴を何とかしないとな」
松明とランプの灯りに照らし出されたその姿に僕は見覚えなど無かったが、その鳶色の髪に良く映える朱色の瞳には見覚えがあった。
そして、あの特殊とも言える長さのソード・ライフル……恐らく彼が……
「カイルさん、シンさん。もしかしてあの人が?」
「また助けられたな……アイル」
……ヒーローは最後に現れた。




