第2話 神話と役所と秘密結社の因果律(Ⅳ)
お役所と共同戦線を張る、ってのも貴重な経験よね。お役所の人間って、イマイチ信用出来なかったんだけど、この人達なら信用に値する。
一度、腹を割って話せばマブダチよね♪ んふ♪
と、自分の世界に浸っていると、クリスに後頭部を豪快にどつかれ、我に返る。
「そう言えばレイア。夕闇の国のフレイア様が聖地アアルとか言ってたわよね? ワタシ思い出した事があるんだけど」
髪をかき上げ、メッシュの入っている金髪部分を束ね、指先で絡める仕草は、同性ながらグッと来る物がある。
アタシがクリスに負けてるトコってこの色気、くらいかなぁ? あ、このマニア知識も負けてるわ。
「何? クリスのマニア知識にヒットした?」
「確か、聖地アアルって超古代の地球のエジプト神話に出てくる、オシリス神が支配する楽園の名よ」「聖地アアル、聞いた事があるな」
リック課長様は博識でいらっしゃる。
「あら? じゃあ真実の羽根の事は御存知かしら、課長サン?」
何を挑発してんだか、この女。課長も課長で、その挑発にしっかり応戦するし。部下の皆さんが呆れてますよー! ……エミリー以外は。
「頑張れ~♪ かっちょ~♪」
何の声援だ、それは?
「実は私も多少は古代神話に興味がありましてね。真実の羽根と心臓を天秤に掛け、釣り合いが取れた者が辿り着く先が聖地アアル、でしたね」
「ブラボ~♪ 正解よ。流石はアンドロメダ銀河役所の課長サンね。見直したわ」
ウインクをしつつ、投げキッスを送る。
こーゆー事を平然とこなす所がアタシに足りない部分かしら? いや、アタシには必要無い所作ね。
それよりも。
「それって、つまりどういう事?」
「聖地アアルに辿り着けるのは選ばれし魂だけ。天秤の釣り合いが取れなかった魂は、番人であるアメミットに食べられちゃうっていう伝承なんだけど」
魂が向かう楽園アアル。それはDOOMの住まう聖地アアルそのものなのだろう。
ジャーナリストたる者、想像や空想で物事を図るなんて御法度なのだが、ここまでのキーワードが合致してくると、嫌でも符合せずにはいられなくなる。そして、おそらくそれは大筋で合っているのだろう。
……そうなると、だ。
アタシの想像……空想? いや、妄想に近いか? ……は、恐ろしく突飛な答えを導き出した。
DOOMは自らをオシリス神と見立て、この世界の支配者として君臨しようとしている。そして、聖地の番人アメミット。その役割を担うのは……フェイ。
近い内に相見える事になるだろう。
「我々の任務は、その二名の捕縛だ。本来なら守秘義務があるのだが、善良な民間の協力者として御助力頂きたい」
「オッケーよん♪」
何でクリスが言うのだ。
アタシ達の顔を見渡し、ルミが先程から抱いていたと言う疑問を投げ掛けてくる。
「夕闇の国でお会いした時はもっと人数がいたと思うのですが、他の方は一体どうされたのですか?」
置いてきた、とか言ったらダメだろうなぁ。
「あ~、そうね……ちょっと事情があってね。アイツらとは、今は別行動を取っているわ」
無事でいてくれるとは思うけど。
ポケットから取り出したモバイルへの着信は……無かった。




