第2話 神話と役所と秘密結社の因果律(Ⅲ)
緊張感漂う雰囲気の中、緊張感の欠片も感じられないエミリー。コイツは学生時代と、何ら変わっちゃいない。これでいいのか、お役所よ!?
「先輩達以外の方は~……知りませんっ!」
ドラスティックぶりは今も健在か。
「エミリー、アンタ……いや、もういいや」
コイツと論説を交わしてる時間も理由も無駄だ。
「アタシ達はある物を追って、ここに辿り着いたワケだけど、もしかしてそちらさんも同じ目的なんじゃないかしら?」
確証があった訳じゃない。カマを掛けてみたのだ。ジャーナリストとしてのテクニックだと思って頂ければ幸いだ。
「J・D・Uを追って来た、と?」
そんな風に略すのか。これは勉強になった。
「J・D・U……つまり、ジョン・ドウ・アンノウン……ね?」
一瞬、ポールの顔が青ざめる。口を滑らせたな、ざまーみろ。さっきのお返しよ。
「おい、ポールッ! それは極秘事項だと言っただろう!」
アタシの誘導にまんまと乗っかってくれた形だ。ぶいっ!
「も、申し訳ありませんっ! 課長!」
深々と頭を下げ、リックに謝罪するポールの姿を見て満足してしまった。ちょび罪悪感。
頭を垂れたままのポールの頭に、ぽんっと手を当て、リックがこちらを見る。
「流石は一流のジャーナリスト、と言ったところですかな。こうなってしまっては隠し立てする理由もありませんな。我々の目的は、そちらの御推察通りJ・D・Uです。奴等の本拠地がここに在るとの情報を得て調査にやって来た次第です」
経緯は違えど、目的は同じようね。
「アタシ達はとある物を追ってこの惑星にやって来たのだけど、色々あって辿り着いた先がココだったってワケ。それも、取材を重ねて行く内に捲き込まれて行った……って感じだけどね」
ざっくりと伝えたが、あながち間違っちゃいないだろう。しかし、そうなると彼らがどこまでのネタを掴んでいるのかが気になってくる。
「ねぇ、隊長さん?」
「隊長ではなく、課長ですが」
「っと、これは失礼」
何か雰囲気で言っちゃったけど、彼の放つオーラがそう言わせちゃうのよね。
「改めて……課長さん。こちらはある程度のネタを掴んではいるけれど、そちらもここまで来る以上は、それなりに掴んでいると見て良いのかしら?」
「DOOM……ですか」
キタコレ! ジャストビンゴッ!
「と言う事は、永久心臓の事もご存知ね?」
隊長……じゃなくて課長の顔色を窺う。なんか、ヘマやらかした平社員みたいな気分だわ。
この場で少しでも手持ちのカードを増やしたい。
切り札はいくつ持っていても良い。
そんなアタシの思惑を見抜いてか、リック課長の顔色が険しくなる。
「それだけの材料をお持ちならば、彼の事も情報の中に織り込み済みですね?」
彼とはやはり……奴の事だろう。
「フェイの事……ね?」
「彼に会ったのですかっ!?」
ブライアンが割って入ってくる。
「随分と鼻息が荒いわね。フェイどころかDOOMにも遭遇済みよ」
負けじとクリスも乱入してくる。
「その場にアナタ達も居たの?」
ルミも参入! ミリュー達を御指名だ。
「はい。こちらのジェフが経営するレストランで襲われたのです。ジェフは成り行きで捲き込まれた形ですが、私もこの子も皆さんに助けられました」
この子、とはもちろん我らがアイドル、パイちゃんの事だ。相も変わらず、我関せずを貫いてジェフの肩でウトウトしていた所、突然の御指名に少し驚いた様子で辺りをキョロキョロと見渡す。
クッソかわええなぁ、チキショウッ!
そのパイちゃんを見て、お役所の面々は一様に驚き、ポールが声を上げる。
「おわっ!? う、動いた!? 飾りじゃなかったのか?」
「カザリ? カザリって何だ? ウマいのか?」
「しゃ、喋った!?」
再び驚きの声を上げるお役所の面々。いやん、楽しい光景だわぁ。
「まさか……本物の……ホワイト・ドラゴンなのか……?」
さすがは課長さん。御存知だったようで。
「こんな所で幸運の使者に出会えるとはな……なるほど。貴女達はこのホワイト・ドラゴンの加護を受けているのですね」
「そうなのだ!」
何故かパイちゃんが胸を張る。そしてリック課長は意を決したかのように告げる。
「どうやら、我々の任務と貴女達の目的も同じようだ。ここからは協力体制を取る、と言うのはどうでしょう?」
「ちょ、課長っ!?」
「やった♪ これで先輩達と一緒に行動できますねぇ~♪」
慌てるポールと喜ぶエミリー。そして呆れ返るブライアンとルミ。
まぁ、こちらとしては断る理由も無く、二つ返事でオッケーだ。




