第2話 神話と役所と秘密結社の因果律(Ⅱ)
建物の中へと足を進めたアタシ達。
「失礼致します……」
ミリューが律儀に挨拶する。
「誰もいないみたいね」
「レイア、あれ見てっ!」
クリスが指差す先にあった物は……
「何かの像? あれは?」
「ホルス神ね」
間髪入れずに答える。
「後ろに見える大きな眼は、ウジャトの眼ね。超古代の地球のエジプト神話の神の名よ」
でた! クリスの超古代神話マニアトーク!
クリスは何故か地球の超古代神話に興味を抱き、エジプト神話だけでなく、ギリシャ神話や北欧神話、果ては架空の神話にまで造詣が深く、その深さにはシンでさえも舌を巻く程だ。
「その、ウジャトの眼があると言う事が、この建物と何か関係があるのでしょうか?」
「オイラ、なーんか見覚えがある様な気がするんだけどなぁ……」
いつの間にか少年の姿から元のドラゴンの姿に戻っているパイちゃんが、先程疑問を投げ掛けたジェフの右肩に乗っかったまま前足で頭を抱え唸っている。つられてジェフも唸る。
ミリューもアタシも皆目見当が付かない。
神話に詳しいクリスも「おそらく」という前置きをした上での推測でしか語れなかった。
「ホルス神の像がある以上、ここは教会なのかも知れないわね。とは言うものの、気になるのはやっぱりあのウジャトの眼ね。 ホルス神……ウジャトの眼……まさかっ!?」
突然叫ぶクリス。何か閃いたようだ。
「ここは秘密結社のアジトなのかも知れないわ!」
秘密結社……何だか大事になって来た感じね。アタシ達ジャーナリストの好物ぢゃないのさ。
しかし、そうなるとアタシの頭の中で一つの符号が交差する。
DOOMは秘密結社のメンバーなのでは?
古くから存在する組織で最も有名なのは、フリー・メイソンやイルミナティだろう。しかし、最近ではそれらも廃れ、新興勢力として知られるのはジョン・ドウ・アンノウンだろうか。
誰も知らない名無しの権兵衛、と言う意味を持つその組織は、その名の示す通り実態は全く知らされていない。それどころか、存在するのかさえも解らない。しかし、その名称だけはまことしやかに囁かれている。
いわゆる都市伝説と言うヤツだ。
アタシの直感でしかないのだが、その事を皆に伝える。まぁ、予想通りのリアクションをしてくれるわ。
パイちゃんやミリューなんか、ぽかーんと口を開けちゃってるし、ジェフは必死に記憶の糸を手繰ってるし、唯一クリスだけが賛同してくれたが、それも一応の体を成すだけだ。
「ちょっと飛躍してる感はあるけど、その考えもアリっちゃアリね」
やっぱり無理があったか。しかし、そんなアタシの考察を肯定してくれたのは、思いもよらない人物だった。
突然、ドアを開けやって来た闖入者達。
見覚えのある、そして、出来る事なら再会したくなかった人物達。そう。アンドロメダ銀河役所銀河民生活安全課の面々だ。
「はぁ……やはり貴女達もここを突き止めてしまったのか」
「あぁ~っ! 先輩達だぁ~っ♪」
「貴女達とは、何かと御縁が有るようですね」
「民間人は直ぐに立ち去れっ!」
「全く……困ったものね」
矢継ぎ早に五人が話す様は中々に滑稽で見物だったわ、などと言おうもんなら、彼らが手にしているアサルト・ライフルで、あっという間にあの世行きにされていただろうか? って、んな訳ないか。
「何でアンタ達がここに?」
「それはこちらのセリフだ! 立ち去れと言ったのが聞こえなかったのか!?」
ナカナカのイケメン――確かポールと言ったかしら――が、こちらを威嚇するように怒鳴る。ちょびマイナスイメージね。
「やめろ、ポール。我々は銀河民の安全を第一に考えなければならんのだ」
「ポール係長、先ずは彼女達から話を伺いましょうよ」
ダークブラウンの長髪を後ろで束ねた長身の男がポールをたしなめる。
「ブライアンの言う通りね。エミリー、貴女は彼女とお知り合いの様だけど、どうなの?」
ブロンドショートボブの美人系お姉さん。うわ、見惚れるわ~。
「もっちろんですよ~、ルミさ~ん♪ こちらのレイア・ルシールさんと、クリスティーナ・サクラノさんは、エミリーの学生時代の先輩です~♪」
何故か無意味に一回転してみせながらツインテールをなびかせ、アタシ達を紹介してくれるのだが……
つーか、こんな後輩、要らなかったんですけど。




