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iDENTITY RAISON D’ETRE 【 アイデンティティー・レゾンデートル 】第一部  作者: 来阿頼亜
第1章 カフェ・オ・レはスクープの薫り……なんかするかぁっ!
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第2話 アスト・モリサキ(Ⅱ)

 大した情報を得られなかった僕は、ホテルの部屋に戻るや否や、冷水シャワーの如くレイアさんからの冷たい視線を浴びる事になる。


「で、なーんも収穫ナシな訳?」


 鼻息を荒げ、情報を集めてくるとは言ったものの、収穫と言えばこの指輪くらいなものか。

 いや、大事な事が一つあった。


「僕の思い過ごし、とはとても思えないんですけど、人がいないんですよ。いや、ま、時間的な問題なのかも知れませんけど」

「はぁ? 人がいないってどーゆー事よ、それ?」


 シャワーの後のカフェ・オ・レを嬉しそうに飲みながらも、レイアさんの目はジャーナリストの目付きに変わっていた。てゆーか……


「とりあえず……その……レイアさん。な、なんか服……着て下さいよ」


 なんでこの人は下着姿で首からバスタオルを掛けて、ってオッサンか。いや、それよりも僕の目のやり場に困る。

 一応、バスタオルで胸は隠れているものの、少しでも動けば見えてしまいそうだ。


「だーってぇ、シャワーの後なんだから仕方ないじゃない?」

「一応、僕は男なんですから、少しは恥じらいというか……」

「アンタを男としては見ていない!」


 ピシャリと一言、僕の顔に向けて人差し指を突き付ける。


「ひどっ! 僕の事を何だと思ってるんですか!?」

「うーん、そうねぇ……犬?」


 小首を傾げて言うその仕草に、僕は不覚にもドキッとしてしまった。


「犬って……ちょっ、それ、酷くないですか!?」

「ま、それは冗談として、アタシに付いてないモンが付いてる。それだけよ」


 もっと酷い。


「セクハラ発言ッスよ、それ!」


 反論した直後しまった、と思ってもアフターカーニバル。


「だったらアタシよりも良い記事を書きな! アタシにアンタの事を男だと認めて欲しいんだったら、アタシを追い越してみなっ!」


 ぐうの音も出なかった。悔しいけど、確かにレイアさんの言う通り、今の僕には何もかもが足りない。レイアさんの足元にも及ばないのだ。今は自分が出来る事を必死でやるだけ。ただ、それだけだ。

 でも、それはそれとして。


「とにかく、服を着て下さい」

「はいはいはいはい、分かったわよ」

「はい、は一回だけで良いですよ」


 ここぞとばかりに言ってみたが、言うべきでは無かった。僕の顔面に、湿り気を含んだ丸められたタオルが飛んで来たからだ。

 ……ちょっといい匂いが鼻腔をくすぐったが、思い切り投げつけられたもんだから、痛みの方が刺激的だった。




 着替え終わったレイアさんは、カフェ・オ・レを飲みながら話を再開させる。


「んで、人がいないって話だったわね。時間的にアンタが外に出たのが八時過ぎってトコか。まぁ、人がいないのは不自然っちゃ不自然ね」


 左手の人差し指を額に当てて考え事をするのはレイアさんの癖だ。カフェ・オ・レを飲みつつ、暫しのシンキングタイム。そう言えばカフェ・オ・レの代金は僕の自腹なのかな……


「アスト、今何時?」

「今ですか? 十時ちょっと過ぎですけど?」

「じゃなくて朝の十時? それとも夜の十時?」


 いきなり何を言い出すのか。太陽が出ているのだから答えは決まっている。


「やだなあ、レイアさん。窓の外を見て下さいよ? 朝に決まって……」


 るじゃないですか、と最後まで言わせて貰えず、食い気味にとんでもない事を言い出した。


「三連太陽系」

「へ?」

「聞いた事ない? 三連太陽系って」

 三連太陽系……簡単に言えば太陽が三つ存在する太陽系である。


「でもレイアさん、それってただのお伽噺とぎばなしなんじゃないんですか?」


 子供の頃に聞いた事がある。でも、それは遥か昔から言い伝えられているお伽噺。都市伝説にもならないレベルの言い伝えだ。


「そうね。でも、『擬似』三連太陽系なら存在するわ」


 なるほど……擬似か。


「まさかこの惑星が?」

「その可能性はあるわ」

「もしそうだとすると、今は朝の十時ではなく夜の十時ですか?」

「バカね。太陽は三つ在るのよ? 今は夕方の六時か朝の六時かだと思うけど、アンタの話を聞く限りじゃおそらく、朝の六時ね」


 今が朝の六時と言う事は、僕が街へ出かけたのは早朝の四時頃という事になる。確かにその時間帯なら人がいない事にも納得出来る。

 しかし、それならば何故あの露店商はあんな時間に店を開いていたのだろう。まさかコンビニ……な訳ないか。とりあえずレイアさんにその事を話しておく。


「なーるほどねぇ。確かに不自然……っつーかむしろアヤしいわね」


 あの露店商──────おそらく十五歳から十七歳と言ったところか──────が、何故あんな時間にいたのだろうか。人通りの少ない時間帯に店を開いていても客なんて来ないだろうし、ましてや一人でいるなんて危険すぎる。あ、太陽が出ているから大して危険ではないのかな。ありゃ、何だかワケが分からなくなってきたなぁ。


「アスト、取り敢えずそこに案内して。行ってみましょ」

「ほへ? あ、はい……」


 僕は慌てて支度を整える事にした。

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