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第7話 神の器(Ⅲ)

 チラッとアストの顔を見ると、ポカ~ンと口を広げ、間抜け面のまま硬直していた。

 確かに、そんな呪いの指輪の適合者に選ばれ、そして守護者になり、いずれは支配者になるのだから、重い十字架を背負わされたといっても過言では無い。

 お前の人生OWATTANA♪ 

 ……なんて茶化してる場合じゃないわね。そりゃあ、まぁ、少しは同情するわよ?


「金髪の嬢ちゃんも険しい運命を背負っておるのぢゃから、人の事は言えんぞ?」


 村長に心を見透かされているのだろうか? てか、アタシも?


「ここに居る全員、数奇な運命を歩んできておるのぅ。しかし、ワシのこの眼にはこれからの事は何も見えん。お主らの運命はお主らが決めるのぢゃ」


 村長の言葉に一同は沈黙する。だけど、アタシにはジャーナリストとしての意地に懸けて、知らなければならない事がある。


「村長……いえ、フレイア様。確かにアナタはクィーン・シャーマンと言うべき存在だと言う事は理解できるわ。でも、アタシ達の運命を見通すなんて離れ業が出来るなんて、普通では考えられないわ。それはアナタのシャーマンとしての力なのかしら?」


 気圧されそうなプレッシャーを秘めた眼力に精一杯抗いながらもフレイアの目を見つめ返すのだが、アタシの視線を真っ向から受け止めるフレイアの視線に逆に押しつぶされそうになる。

 ……ホントにハンパでは無いプレッシャーだわ。

 額からジワリと(にじ)み出た汗が頬をつたう。これ程の緊張感を味わうのは、いつ以来だろうか?

 フレイアはアタシの目を真っ直ぐに見据え、視線を逸らそうモンなら、何をかは解らないがヤラれそうな雰囲気だ。

 冷たい空気が張り詰めているような中、静かにフレイアが語り出す。


「確かに、シャーマンの力は精霊の力を借り受け、その力を自在に操る事が出来る。しかし、嬢ちゃんの言う通り、人の運命を見るなぞ精霊の力を持ってしても不可能……勘の良い嬢ちゃんの事ぢゃ。大方の察しはつくんぢゃろう?」


 こちらの考えも読めるのかしら? 怖っ。


「そう……ね。隠し事は出来ないって事よね。ズバッと聞くわ。アナタは神器の所持者ね?」


 アタシの考えでは村長の運命を見る力は超常的な力だ。ならば、それは精霊の力を借りるか、神器の力を借りるか、だ。


「ふぇふぇふぇ、流石ぢゃの。その通りぢゃ。ワシのこの眼鏡が神器ぢゃ」


 やはりそうだったか。


「ラプラスの魔眼、イビルアイ・オブ・ラプラス……それがこの神器の名ぢゃ」


 ラプラスの魔眼……これは聞いた事がある。

 確かラプラスとは、太古の科学者の名ではなかっただろうか? 確率の解析的理論だったと記憶しているが、あくまで仮定の話だったはずだ。

 全ては仮定の話だが、概念の終着点である因果律……その全てを知るような果てしない知識を得る事が出来れば、時空を超え、過去、現在、そして未来の知識を得るという。ハイパーコンピューターをも超える存在と言えるだろう。


「ワシは全てが見える訳ではない。全てが解るのぢゃ。それはこの魔眼の力でもあり、ワシの力でもある」

「どういう事?」


 堪らずクリスが突っ込んでくるが、それに答えたのはシンだった。


「それはボクも興味深い事案だが、何となくわかる気がする。とは言え、推測の域を出ないのだけど。ラプラスの魔眼とは、膨大な知識を得る事で、これから起こるであろう事象を予見するのだろう。それも、恐ろしい程正確に……」


 それが神器の力であるのは間違いないだろう。しかし、村長は『自分の力でもある』と言った。それについて(たず)ねると「その指輪の持ち主がいずれ体現するぢゃろう」と言い放ち不敵に笑う。




 指輪の持ち主は……ただただ唖然(あぜん)と立ち尽くすだけだった。

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