第7話 神の器(Ⅱ)
永久心臓……未だに謎のままのキーワード……
それとなく村長に聞いてみよう。この人からなら何かしらの情報を引き出す事が出来そうだ。
「……DOOMがそれを持っている、とな?」
「村長はソレについて何かご存知ないかしら?」
しばし考え込んだ後、彼女は静かに口を開く。
「ふーむ……そんな波動はあやつからは感じられんかったがのぅ? ところで……永久心臓について、お主らはどこまで存じておるのぢゃ?」
「どこまでって……そうねぇ、その名称と存在と……うん、ほとんど知らないわね」
全員と顔を見合わせても、誰一人『知ってる、知ってるぅ!』とは言わず、ただただ、ふるふると首を横に振るだけだった。
確かに、アタシ達がこの惑星に来てからと言うものの、記事に書けそうなネタは何一つ掴んでいないに等しい。
「それならば、永久心臓の本当の名も知らぬのぢゃな?」
本当の名? 永久心臓は永久心臓じゃないの?
「やはり知らぬか。ならば神器の存在も知らぬと言う事ぢゃな?」
「え? 何それ?」
ここに来て新たなワードが現れたわね。
『神器』
これも気になるけど、永久心臓の本当の名って一体? アタシは村長に取材を申し込む。一応、ジャーナリストとしての体裁を保たなくちゃね。
まずは、何よりも気になっている永久心臓の本当の名を聞いてみる。
「イヴ・オブ・アヌビス……それが永久心臓と呼ばれる物ぢゃ。そして、それ以外にも神器は存在する」
「イヴ・オブ・アヌビス……」
思わず村長の言葉を反芻する。
その言葉の意味を求め、記憶の深層へとダイヴする。
アヌビスの心臓……
そんな意味合いだったと思う。
アヌビスって、どこぞかの神話に出てくる神様だったかしら? 確か、死者の心臓と何かよく分からん羽根だかを秤に乗せて自己満足に浸るって奴じゃなかったっけ? でも、それってただの神話・伝承の類いよね?
……そんなモノが本当に存在するのかしら?
もし存在するとすれば、神話や伝承も事実だと言う証明になるのではないだろうか? これはスクープの予感だわっ!
「レイア、これってお宝なんじゃない?」
クリスも同じ事を思ったようだが、どうもニュアンスが違うような? 気のせいかな?
アストにメモを取らせ、はやる気持ちを抑えきれないアタシは次の質問へと進む。
先程、村長は気になる言葉を発していた。
それ以外にも神器は存在する、と。つまり、永久心臓以外にもソレに匹敵する何かがあると言う事だろう。
「村長、先程おっしゃった『永久心臓以外の神器』とは一体何を指しているのですか?」
あれこれ思案している隙を突かれ、クリスが先に質問する。
こうなったら共同作戦ね。
シンはマイクレコーダーで録音、アストは書記、アタシとクリスでインタビュアーを務める。
「お主達はソレを知ってどうするのぢゃ?」
村長の目が、片眼鏡の奥から鋭く光るようにアタシ達を睨み付けてくる。その視線に微かに戦慄を覚えたのはアタシだけだろうか。
「どうって……アタシ達はただ真実を知り、それを伝えたいだけよ」
「ばーちゃん、このおねーさん達は信頼出来る人間達だから大丈夫だよ!」
パイちゃんがすかさずフォローに入ってくれる。助かるし、カワイイわぁ~♪
「ほほぅ……ホワイト・ドラゴンに認められとるとはのぅ。成る程。確かにワシの眼にもそう映っておるわい。そっちの嬢ちゃんも純粋な心を持っておるが、純粋ゆえに危うさも孕んでおる。そっちの眼鏡の坊は……ふむ、過酷な運命を背負っておるのぅ。ぢゃが、これまでと同じように仲間を信じておれば良い。友に恵まれておるわい。さて、問題はお主ぢゃ」
クィーン・シャーマンの御指名を受けたのは書記係のアストだった。当の本人は、メモを取るのに必死だったようで、アタシ達や村長の言葉を一字一句漏らさぬように書き留めていた。後でシンが録音した音声を拾えばいいのに。ま、それは内緒にしておこう。
これも彼が成長するための試練なのだ。
そんなアストをじっと見つめる村長は、左目にかけられた片眼鏡をクイッと直し、改めてまじまじと見る。
「お主はルードの守護者であったな。引き返すなら今しかないぞ?」
その言葉にメモを取る手を止めるアスト。
「それって、どういう意味ですか?」
「先程、そこの嬢ちゃんが聞いた永久心臓以外の神器の事ぢゃが、その指輪がまさにそうぢゃよ。リング・オブ・ルード……それが、その神器の名ぢゃ。ちなみにルードとは十字架という意味ぢゃ。お主はその重い十字架を背負ったのぢゃよ」




