第7話 神の器(Ⅰ)
聞いているこっちが恥ずかしくなるような場面を目の当たりにしているアタシ達は、カイルの挙動を待つべく、沈黙を保っていた。
……ったく、焦れったいったら無いわ。
この沈黙の春はいつまで続くのかと思われたが、何やら決心した様にカイルは、ハルの前へと一歩ずつ、静かに歩み寄る。
「ハル。君は……俺の事を見てくれていたのか?」
あ~もう! 何だ、このむず痒い展開は? 二人揃って、爆発しそうな程に顔を真っ赤にして、全くもう。
「カイル、私はずっと、ずっとね、貴方の事が好きだったの。でも、それは多分……リサとエルマも同じだと思うの」
ありゃりゃ? 意外とカイルはモテ男だった? やっぱり、相当な資産家だったとか? いや、ここまで来てそれは無いか。しかし、そうなるとカイルも随分と罪作りな奴よねぇ。
ハルの告白にリサとエルマはと言うと、動揺した風でも無く、むしろハルの顔を見てニヤニヤしている。
コイツら……もしかして、策士か?
リサとエルマはこの二人をくっつけるために一芝居打っていたのだ。彼女達から見てもこの二人はもどかしかったのだろう。
「アンタ達がサッサとくっついてくれないと、私達の踏ん切りがつかないからね。カイル、ハルの事をちゃんと大事に出来る?」
リサの言葉に動揺しながらも、こくりと頷くカイル。その姿を見たリサとエルマはお互いの顔を見合せ、おもむろにカイルの頬に一発ずつビンタを食らわせ、ハルに抱き付く。
「ハル、幸せになんなさいよ」
「ボク達の分まで、ね」
そうか。やっぱり彼女達もまた、カイルに惹かれていたのだ。何でこんな男が? いや、もうやめとこう。彼の一生に一度のモテ期到来なのだから。
「これで二人は結ばれた訳ですね。良かった……」
ミリューが口元を両手で押さえ感慨深げに呟くが、アタシ達はその感慨にいつまでも浸っていられる訳もなく。
取り敢えずここで一つのハッピーエンドを迎え、アタシ達は先へと進まねばならないのだ。
この村にいるという、最高位のシャーマン。その人に会って、話を伺わなければならない。その最高位のシャーマン……クイーン・シャーマンとでも言うべき存在は、意外と言うべきか、やはりと言うべきか。
カイル達に紹介された彼女は、アタシ達も知る人物だった。
「ジェフは知っておった筈ぢゃが?」
「フレイア様も人が悪いですね。私にテレパシーで口止めしたのはフレイア様ですよ?」
「はて? そうぢゃったかのぅ? ふぇふぇふぇ」
なかなかどうして、食えない婆さんだわ。ま、確かにこの村長ならクイーン・シャーマンと言われても納得だけど。
「大婆様、俺は……」
「何も言わんでええ。お前はお前の思う正義を貫けば良い。フェイが許せぬと言うならば、それがお前の正義ぢゃからの」
その言葉に、何故かこの流れに無関係なはずのアストとシンが過敏な反応を示す。
「シンさん、今の村長さんの言葉って!」
「ああ、そうだね。ゲッタンガーZの第30話のマキウラ博士の台詞だね」
おぃぃぃっっ! お前らのおかげで村長の言葉が途端にサムい感じになったじゃないかっ!
オマエラアトデシバクッ!
村長の話によると、フェイは精霊の力で村を蹂躙し、自らが最高位のシャーマンとなるべく、ハル達を殺して精霊の力を得ようとしたのだそうだ。しかし、ジェフ達の力添えもあり難を逃れ、フェイは何処かへと消えていったという。
……まぁ、常夜の国へ行ったのだろうけど。
村長に言われてか、カイルは何事かを決心した様子で、アタシ達に向かってこう言った。
「アンタ達、常夜の国へ行くんだろう? ……俺も行く。アイツとのケリは……俺がつける!」
うん、想定内。アタシ達は二つ返事でオッケーを出した。
……が。
カイルが来るなら彼女も黙っちゃいない。
ハルもまた、参加表明の意思を示したのだ。
ま、これも想定内ね。
しかし……リサとエルマまで来るとは思わなかった。
「村長……いいの?」
さすがに不安に思ったのだろう、クリスが問い掛けるが、そんな心配を涼風の如く受け流した村長はただ「ふぇふぇふぇ」と笑い飛ばし、大人の余裕を見せつけるのだった。
「ワシよりも自分達の心配をしなされ。お主らには、これから想像も出来ぬ運命が待ち受けておる。ゲートを抜けたなら、心してかかるがよい」
「でも、村長。またフェイやDOOMがここに来ないとも限らないんじゃ?」
「大丈夫ぢゃ。お主らが常夜の国へ向かうのぢゃからな。奴らの狙いはワシではなく……お主達ぢゃ」
サラッと人を不安にさせる一言を言い放つわね。
「正確に言うならば、フェイはカイル、お主が狙いぢゃろう。そして、DOOMのお目当ては、姫様と金髪の嬢ちゃん……お主達ぢゃよ」
村長の言葉に面食らう。ミリューはわかるけど、金髪の嬢ちゃんって? アタシ? え? 何でアタシ?
DOOMの下に潜入してたクリスとシンでもなく、ホワイト・ドラゴンであるパイちゃんやアンドロイドであるジェフでもなく、変な指輪に取り憑かれたアストでもなく、ただの敏腕美人ジャーナリストであるアタシ?
……理由がわからない。
確かにホテルでの一件で因縁はあるけれど、それは全員にあるハズ……よね。
となるとやはり、鍵は永久心臓にありそうだ。




