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第6話 指輪の【適合者】(Ⅲ)

 そう……

 

 変身出来るのは悪いドラゴンだけではなかっただろうか? 確か、闇の者とか何とか言ってた様な?

 それじゃ、パイは闇の者なのだろうか?

 ……いや、それは無いと思う。コイツが悪と言うのなら、全ての生き物が悪になるだろう。

 ……何となく釈然としないけど。

 しかし、そんな事は意にも介さずレイアさん達は、この少年パイを受け入れている。何だろう、このモヤモヤは?


「シンさん、ホワイト・ドラゴンは変身出来ないハズじゃ?」

「う~ん、ボクの解釈ではカオスの者は人間の悪意等に憑依するとは言っていたが、コスモスの者はそういった事はしないのだと思う。それは、裏を返せば憑依などしなくとも変身出来る、と言う事じゃないだろうか?」


 ん? それはつまり、パイは変身出来るって事になるだろうか?


「でも、パイは変身出来ないって言ってましたよね?」


 それについてはシンさんも首を傾げるばかりだった。

 二人であれやこれやと仮説を立てていたが、明確な答えを導き出す事が出来ず、うんうん唸っていると、両手を頭の後ろで組んだままパイがあっさりと答えを呈してくれた。


「オイラもよく分かんないんだけど、あの時、竜巻みたいなのに襲われて、ミリュー達を守んなきゃって思って、そしたら突然光に包まれて、気が付いたらこうなってたんだよね」


 ……光? それってもしかして、僕達が遭遇したルードの指輪の光と関係があるのだろうか?

 その事を伝えると、パイだけじゃなくミリューさんとジェフさんも驚いていた。


「まさか、アストさんが本当に指輪の守護者になるなんて……」

「お話は伺っていましたが、本当に守護者が……」

「あんまり信じたく無いけどね」


 な、なんか、酷い言われようじゃないか、これ?


「ねえ、指輪の守護者って言ったわよね? 確か以前は適合者じゃなかったっけ?」


 レイアさんの言う通りだ。僕はこのルードの指輪の適合者だった。それなのに、ミリューさん達は守護者と言う。

 ランクアップ……なのかな? などど勝手に解釈していると、ミリューさんが釘を指すように言う。


「指輪は適合者を選んだら、その適合者を見定めるのです。そして、指輪に認められ、所持するに相応しいと判断した時に光を放つのです」


 ふむ。つまり、僕は指輪に認められた、と。




 えぇぇぇぇぇぇぇっっっ!!??




 無理だ。何が無理なのかは分からないが、とにかく無理だ!

 レイアさんにも、まだ男として認められていないのに、ルードの指輪に認められるなんて。てゆーか、一体何を認められたのだろう?

 それに、あの光はパイの変身とも関連がある様だし……この指輪は一体何なんだろう?


「私にも詳しくは分かりません。ただ、パイは、と言うか、ホワイト・ドラゴンの一族はルードの指輪の守護者の正統な後継者を見つけ出し、指輪の支配者へと育て導くという使命を担っているようです」


 そう言うミリューさんの横で胸を張るパイ。


「取り敢えず、今んとこアストが守護者なんだから、その指輪を大事にしろよな!」


 むぅぅ……子供の姿のパイに言われると何だか腹立つな。まぁ、ドラゴンの姿のパイに言われても同じだけど。

 指輪の謎は益々深まるばかりだったが、取り敢えず一旦横に置いといて、ミリューさんを護っていた

ジェフさんとパイの他にいた三人の女性達とは一体誰だろう? ふと目をやると、カイルさんを囲んで凄んでいる三人の女性がいた。


「カイル! 今度はもう逃がさないわよ!」

「アタシ達三人の内、誰を選ぶの!?」

「さ、早く決めてよねっ!」


 なんだ、この修羅場は? これが俗に言う、モテ期という奴だろうか? でも、微塵も羨ましく感じられないのは何故だろうか。

 僕の横でレイアさんがクリスさんに耳打ちしている声が聞こえてくる。


「ねえ、クリス……カイルってそんなにイケメンかしら?」

「いや~? そこそこ、じゃない?」

「だよね?じゃ、実はああ見えてかなりの資産家、とか?」

「それも無さそうじゃない?」

「だよね」


 なんつー生々しい会話をしてんだよ。でも、レイアさん達の言う事も頷ける話だ。

 どちらかというとカッコいい部類に入るであろう容姿ながら、あのフェイよりは少しばかり見劣りする様な気がする。僕が言えた立場ではないのは重々承知しているが。

 経済力にしても裕福と言うよりかは、身なりを見ればむしろその逆だ。しかし、何かしら人を惹き付ける魅力を感じる。

 正義感が強く、行動力もある。それだけでもモテる要素は充分かも知れない。けれど、同時に美女三人から言い寄られるなんて、シチュエーション的には羨ましすぎる。しかし、現状のカイルさんを見る限りでは、その羨ましさを微塵も感じられない。

 その原因は三人の美女に有りそうだった。


「ねぇ、カイルってば! アナタの風の精霊の力は私の炎の精霊の力と合わせれば絶対に強くなれるんだから私と結婚してよ!」

「何言ってんのよっ、ハル! 私の水の精霊の力の方が風の精霊の力を最大限に引き出せるんだからね!」

「ハルもエルマも勝手な事ばっかり言って! 風の精霊と一番相性が良いのはボクの大地の精霊の力なのよ? だ・か・ら~、カイルはボクのモノなの♪」


 う~ん、カイルさんそっちのけで三人の美女達はカイルさんを取り合っている。男なら憧れるシチュエーションなのかも知れない。しかし、当の本人は浮かない顔だ。


「三人とも、いい加減にしてくれないかっ! 君達が欲しいのは俺の風の精霊の力であって、俺を好きでいる訳じゃないんだろう? 君達は俺の事を一人の男として、人間としてじゃなく、器としか見ていない。そんな人と結婚どころか、付き合える訳が無いじゃないかっ!」


 カイルさんの魂の叫びは、僕の心に痛い程に響く。僕も、レイアさんには男として見て貰えていない。カイルさんの気持ちは良く解る。

 僕の場合は、ジャーナリストとしてまだまだレイアさんの足元にも及ばないからだけど、カイルさんの場合は違う。

 彼はれっきとした精霊使いだ。その力を得んが為に近付いて来られては、男として立つ瀬が無いだろう。

 彼の言葉に三人は面食らった顔をしていたが、ハルさんが毅然とした態度で反論する。


「カイル! 馬鹿な事言わないで! 確かに精霊の力は目的の一つよ。でも、私はそれだけじゃないわ。それに、私の契約した精霊じゃ非力過ぎるもの」

「そう言えば、ハルの契約した精霊って何だっけ?」

「サラマンダーよ」

サラマンダー?

「なぁ、パイ。サラマンダーって?」

「サラマンダーは炎の精霊の中でも下級精霊だよ。ちなみに中級精霊はイフリートで、上級精霊はフェニックスだよ」


 御説明、痛み入ります。


「そんな下級精霊と契約した身分でカイルに取り入ろうとしたの? って言っても、まぁ、ボクも同じだけどね」


 そう言ってバツが悪そうにポリポリと人差し指で頭を掻いている。


「リサ……」

「ボクも、契約したのは下級精霊のノームだから、ハルの事をとやかく言えないよ」


 リサさんが沈痛な面持ちで語り出すと、エルマさんも口を開く。


「とやかく言えないのは私も同じね。私も契約したのは、2人と同じ下級精霊のウンディーネだし」


 どうやら3人、いや、4人とも契約した精霊は下級の精霊だったようだ。しかし、精霊との契約を交わしたのならば、カイルさんの精霊の力を求める意味が無いのではないだろうか? レイアさん達も同じ疑問を抱いていたらしく、レイアさんが皆を代表して意見を出す。


「ねぇ、一つ質問が有るんだけど、アナタ達はそれぞれ精霊の力を得ているんでしょ? それなのに、何でカイルの精霊の力を欲しがるワケ?」


 3人はお互いの顔を見合せ、一様に沈黙する。やはり何かしら事情が有る様だ。そんな3人を見かねてか、カイルさんが沈黙を破る。


「彼女達は、俺の精霊の力を得る事によって、自らが契約した精霊の力をより強力な物にしようとしているんだ」

「それは違うわ!」


 悲痛な叫び。それは、切なく、儚く、まさに痛みと哀しみを伴った叫び。

 その悲哀の主は、ハルさんだった。


「カイル……確かに貴方の言う通り、私達は貴方の精霊の力が欲しかった。でも……でもね、私は……私は貴方の事が……」


 ほんのりと頬を朱に染め上げながら、それでも精一杯の告白だったのだろう。




 その告白を受けたカイルさんの心の壁は、僅かだが崩れた様だ。

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