第6話 指輪の【適合者】(Ⅰ)
レイアさんの話では、フェイさんと思われる人物は暗闇に潜んでいた人物……つまりカイルさんには心当たりが無いと言った。その話が本当なら、そのフェイさんは偽者である可能性が高い。しかし、そのフェイさんは女子会に加わった三人組の事を知っていた。これは明らかに矛盾している。
もし、フェイさんがカイルさんの言う通りの人物だとするならば、危険人物以外の何者でもない、ただの極悪人だ。
「レイアさんとクリスさんも、フェイさんに会ってるんですよね? どう思われました?」
「どうって言われても、まぁ、至って普通の好青年ってイメージだったけど……」
「そうねぇ、まあまあのイケメン君だったしぃ♪」
クリスさんの言葉は無視するとして、レイアさんの素振りには何か引っ掛かるモノを感じた。
レイアさんは何かをごまかしたりするときには決まって視線を逸らす。これは本人も気付いて無い、僕だけが知っているレイアさんのクセだ。
レイアさんは何かを隠している。いや……何かを疑っているのだろうか?
きっとレイアさんは何かを確信し、何かしら考えがあるに違いない。レイアさんを信じて僕は何も聞かない事にした。
レイアさん達の話では、フェイさんは常夜の国から来たという。それはカイルさんも言っていた事だから間違いないだろう。そしてDOOMと手を組み、この夕闇の国へとDOOMを手引きした……それはおそらく侵略のため。
まさにアグレッサーと言える。
レイアさん達が出会った人物はフェイと名乗ったと言う。それはカイルさんがここで出会った人物、そして僕達が出会った人物と、おそらくは同一人物なのだろう。そうなると、いよいよもってこんな所でグズグズしている場合では無い。
カイルさんの後を追う、その時だった。
「うわっ!」
「何? 何? なんかアストっちの指が光ってる?」
「これは一体……?」
「ちょ、アスト! 何よこれ!?」
「ぼ、ぼ、ぼ、僕にも何が起こってるのか分かりませんよ!」
突然ルードの指輪から放たれた光は、ジワジワと大きくなり僕達全員を包み込んだ。しかし次の瞬間、何事も無かったかの様に光は消えてしまった。
「何だったのよ、今の?」
レイアさんの呟きに僕達は、ただ首を傾げるしか無かった。
おぺら座を出て、催事場へと戻ってきた僕達の眼前に広がる光景は、以前とは姿を変えていた。
にぎやかだった屋台やおどりの会場は見るも無惨で、まるでハリケーンでも直撃したかの様に瓦解していた。視界に飛び込んで来た光景は、ただただ衝撃的としか言い様が無い。 ミリューさん達は無事だろうか?
「レイアさん、これ……一体……」
「アタシにも理解不可能よ……」
僕とレイアさんはもちろん、シンさんとクリスさんも呆然と佇むだけだった。しかし、カイルさんの眼光は鋭さを増していた。
「アイツだ。フェイの仕業だ! やっぱりアイツはフェイだったんだ!」
人間の、しかもたった一人の仕業だとは到底思えない。人間の力でここまで出きる筈が無い。それでもなお、カイルさんはフェイさんの仕業だと言う。
「カイル、フェイは一体何者なワケ? やっぱりフェイ本人で間違いないのね?」
たまらずクリスさんが問い詰める。
「フェイは、風使いだ」
「カゼツカイ?」
この惑星に来てから聞き慣れない言葉がポンポン出てきたが、今回は更に理解に苦しむ。カゼツカイとは、どう言う事だろうか? 単純に考えれば、風を操る? と言う事だろうか? それこそ人間業とは思えない。
「この惑星のごく限られた人は、精霊と契約し、精霊の力を借りる事が出来るのさ」
カイルさんの言葉はにわかには受け入れられない物だった。とゆーか、理解不可能な物だった。精霊? 聖霊? 政令? 制令? セイレイ?
「それはいわゆるエレメンタルと解釈していいのかしら? それともスピリットかしら?」
「そうだな、エレメンタルと言った方がアンタ達には伝わるのかな。エレメンタル……精霊と契約出来た者は、精霊の力を自在に操る事が出来る。その力をどう使うかは契約者の意思次第だ」
つまりそれは、精霊の意思は度外視されると言う事だろうか。それでは精霊が余りにかわいそうだ。まぁ、それ以前に精霊に意志があるのかわからないけれど。
「カイルさんは何故そんなに詳しく知っているんですか?」
いくら従兄だからと言っても、余りにも詳しすぎるのではないだろうか。勘繰り、と言う程では無いが、この惨状を予見していたかのような物言いは、疑わざるを得ない。
「俺達の一族は風使いの家系なのさ。このエメラルドグリーンの髪と瞳の色がその証拠だ。勿論、俺も契約しているから多少は操れる。だが、アイツは別格だ」
別格とはどう言う事だろうか。僕らから見れば、精霊と契約出来る事自体が既に別格なのだが。てゆーか、サラッとカミングアウトしたなぁ……え? 家系?
「さらに言うなら、一族の血筋、いや、血そのものが関係している。フェイの家は風使い達の本家だ。俺の家は分家。その違いもあるが、アイツは本家の歴代の風使いの中でも至高の風使いと言われている。アイツもそれを自覚し、そして、ある野心を秘めていた」
「野心?」
レイアさんのネタ食指センサーが敏感に反応したようだ。
「ああ……アイツはその力を誇示する事で、全ての精霊使いの頂点に君臨しようとしたんだ。精霊は俺達の『風』の他に『炎』『水』『地』『光』『闇』の六種類の精霊が存在する。それらの精霊と契約するにはシャーマンと呼ばれる人物の力が必要になる。フェイは自らがシャーマンとなり、全ての精霊の力を手に入れようとしていたんだ」
しゃーまん……?




