第5話 phantom crisis(Ⅱ)
彼が語った言葉を反芻してみる。アタシは聞いた事を反芻する事で、自らの記憶にその言葉を刻みこむ。
「なるほどね。フェイって言ったっけ? アナタは偶然この村に帰省していた所、DOOMの襲撃に見舞われたのね? そして、そこをアイルに救われた、と」
「ああ。あの時は本当に死ぬかと思ったよ」
「そして、アナタの他にアイルに救われて人がいるのね?」
「多分、そうだと思う」
「そしてその人物がこのおぺら座の天井裏に潜んでいるかも知れない、と。その人物に心当たりは?」
「それが残念ながら……」
ふむ。で、アストとシンはその人物を探しに行ってるって訳ね。
「ね、フェイ。何でこの村に帰ってきたの?」
エルマの質問はアタシも興味深い事で、何だったらアタシが聞いてみようと思っていたところだ。
「あぁ、従兄に会いに来たんだよ。俺は常夜の国にいたんだが、色々と怪しくなってきたものだから、その事を伝えに来たって訳さ」
「常夜の国!?」
意外な言葉が出てきた物だから思わず声を張り上げてしまった。ちょっと恥ずかすぃ。
「常夜の国って事は、貴方はまさかDOOMの下にいたんじゃ……?」
「ああ……いたよ。俺はそこから何とか逃げ延びてきた。そして、さっき言った怪しい雲行きってのは、DOOMの軍勢がどうやら本格的に動き出す様なんだ」
意外とあっさり言う。これは信用していいのか?
「動き出す……って、侵攻するってことかしら?」
「ああ、おそらく。DOOMは常夜の国だけでなく、この夕闇の国を、そして明星の国をも制圧するつもりだ」
フェイの言葉に過敏に反応を示したのは、当然ながらミリューとジェフだった。
「あのっ! 常夜の国でヴェルドと言う人は見掛けませんでしたでしょうか!?」
興奮し過ぎて言葉使いがおかしくなってるぞ?
「ヴェルド……? 確か……DOOMの側近にそんな人が居たような気がするけど……?」
「側近ですと! 馬鹿な!?」
憤慨するジェフ。そして、絶望に打ちひしがれた様にミリューはその場に膝から崩れ落ちた。
「ちょ、ちょっと、大丈夫!? しっかりして! ねぇ、ジェフ。そのヴェルドっていうのは誰なの?」
項垂れているミリューにはとても聞けそうには無い。フォローはパイちゃんとクリスに任せるわ。
「ヴェルド様は明星の国の国王陛下で、ミリュー様とアイン様の父君であらせられるのです」
「え? ちょっと待って! 何で国王がDOOMの側近なワケ?」
DOOMの洗脳、だろうか? だとしても、何故側近に?
「それは俺にも分からないけど、多分、常夜の国へ行けば分かるんじゃないか? まぁ、行かないとは思うけど」
「いえ、行くわよ」
「は? マジで言ってんの? ……まぁ、アンタ達にも事情が有るみたいだし、止めはしないけどね。しっかし、驚いたなぁ。まさか明星の国の王女様だったとはねぇ」
未だ項垂れるミリューを見るフェイの表情が、何かを画策しているように見えたのはアタシの思い過ごしだろうか……?
どうにか立ち直ったミリューは、少し風にあたるとの事でパイちゃんとジェフに連れられて近くの木陰へと歩いていく。ふらつく足取りが何とも痛々しい。
しかし、アタシ達にもやるべき事がある。この場は彼らに任せて……
「んじゃ、中に入りますか。クリス、ぼちぼち行けそう?」
酔っ払いからほろ酔いにクラスチェンジしたであろうクリスに声を掛けてみる。
「んん~? なぁにぃ?」
目を向けると、あろう事かビール瓶からラッパ呑みしているクリスの姿があった。
酔っ払いからへべれけにランクアップしてんじゃねぇかっ、このアマッ!
……駄目だ。何でアタシの周りにはこんな奴らしかいないんだよほぉぉぉぉぉっ!
フェイは三人組と談笑してるし、やっぱりこの酔っ払いを連れてくしか無いかなぁ? あ、それともここに置いてくか? アタシ一人でも何とかなるかも知れないし。でも、コイツをここに置きっぱ、ってのも何だか気が引けるんだよなぁ。
「ちょっとぉ! クリスってばぁ、しっかりしてよね!」
呼び掛けるものの、相変わらず返事は「らいじょ~ぶ、らいじょ~ぶ」の一点張り。どこをどう見れば大丈夫なんだか。しかし、クリスのその言葉にはちゃんと根拠があったのだった。
「実はねぇ~、シンからねぇ~、体内のアルコールをか瞬時に消す薬を貰っちゃってんろよねぇ~、ンフフ~♪」
「そんな薬、売ってたっけ?」
「シンが作ったろよぉ♪ そんら良い物があるんらったら~使わなきゃソンじゃらぁい?」
それっていわゆる新薬実験の被験者なんじゃ?
「まさにぃ~夢の薬よねぇ~♪ いくら呑んれもアルコールが残ららいらんてねぇ~♪」
まぁ、本人が満足してるならいいか。
「んじゃ、その薬を飲んじゃって。おぺら座の天井裏へ乗り込むわよ。大丈夫とは思っていても、やっぱりアスト達が心配だし」
天井裏に潜んでいるソイツが狂人では無いと言う確証は無い。願わくば、アイルに救われた善良な村人Aであらん事を。
クリスが懐から取り出したその錠剤タイプの薬には、一体どんな成分が含まれているのだろうか?
シンに聞いてみないと分からないけど、ちょっと興味深い。
「一回三錠、ね。あ、水が無い……ビールでいっか」
アルコールを消す薬をアルコールで流し込みやがったよ、この女……
良い子は真似しないでね。ダメ、ゼッタイ。
「よ~~っしゃ~っ! 復活ぅぅぅ!」
あんな薬の飲み方でどうにかなるとは、コイツ自体がどうにかなってるとしか思えない。プラシーボもいいトコだ。
「さ、早く行くわよ! 何をモタモタしてんのよ、レイア!」
お前が言うなっつーの。
おぺら座の天井裏へと赴くと、まぁ予想通り、中は真っ暗だった。
「クリス、ペンライトみたいなモン、持ってる?」
「何? レイアも持ってないの?」
お前も持って無いんかいっ! まぁ、人の事は言えないけど。
「仕方ない。モバイルのバックライトの明かりだけで行くか。あ、この階段を昇って行けばいいのね? クリス、先に行くわよ?」
と言ったは良いが、コイツがちゃんとついてきているか甚だ疑問だわ。
「ちょっと、レイア! 早く行きなさいよ!」
「ひゃんっ!」
バカクリスめっ! アタシのぷりちー・ひっぷを叩きながら言うもんだから、変な声が出ちゃったじゃない!
「何すんのよっ!」
天井裏に辿り着いた時、お返しとばかりに、そのムダにでかいチチを掴んでやった。
……しこたま殴られたのは内緒だ。




