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iDENTITY RAISON D’ETRE 【 アイデンティティー・レゾンデートル 】第一部  作者: 来阿頼亜
第1章 カフェ・オ・レはスクープの薫り……なんかするかぁっ!
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第2話 アスト・モリサキ(Ⅰ)

 ガサツに見えて意外ときれい好きなレイアさんのシャワータイムは長い。ならば、今の内に集められるだけの情報を得なければならないな。僕だってジャーナリストの端くれだ……と思いたい。

 しかし、永久心臓(エターナル・ハート)とは一体なんなのだろうか。ミスターの話によると心臓の元々の持ち主は、とある政治家だとかいうが……政治家や心臓にそんな力や魅力があるとは到底思えない。そりゃま、権力はあるだろうけどさ。

 てゆーか、最早オカルトやホラーの世界だよそんなの。だって、心臓でしょ。それが、ずーっと動いているなんて有り得ない。

 自分の左胸に手を当て、そんな事を独りごちながら街中を散策する。舗装された道路を暫く歩くと、やがて人の手が加えられていない道が目の前に広がり出した。


「この落差は何なんだろう? てゆーかこんな辺ぴな惑星に有るとは到底思えないんだけどなぁ」


 大体、今どきこんなネタ追っかけてるから、ウチはいつまで経っても『三流ゴシップ誌』なんて言われるんだよなぁ。

 ……まぁ、仕事だから受け入れて頑張るけど。

 そもそも、その政治家とは一体どんな人物なんだろうか。そして、今の持ち主がどんな人物なのか。

 ……考えた所で分かる(よし)も無い。とにかく今はどんな些細な情報でもキャッチしなければ。それに、我が社の命運が懸かっているなら尚更だ。特ダネを拾って講読者数を増やして、三流ゴシップ誌から脱却しなければならない。

 そしていつか……レイアさんに一人前だと認めてもらうんだ。僕だってやれば出来るってトコを見せればきっといつかは……

 と、天下の往来でガッツポーズを決めている自分が恥ずかしくなり、我に返って辺りを見回すと妙な事に気付いた。




 人がいない。




 休日だろうか。いや、それならもっと賑わっているはずだ。


「な、なんか、不気味だな……」


 陽気な青空とは裏腹に、一気に雲行きが怪しくなってきた。そして、怪しい雰囲気を眼前からヒシヒシと感じる。

 露店商だろうか……朝市やバザーだとしても他に店は見当たらない。しかも、何だかよく分からないアクセサリー──────だと思う────────が行儀よく並んでいる。

 みすぼらしいフードを目深に被っており、ゆったりとした埃まみれのローブを羽織っているため、そこに佇む店主らしき人物がロボットなのか、それとも人間なのかさえも分からない。人間ならば老人だと相場は決まっている。ただし、老夫か老婆なのかは分かりかねる。

 などと思案しつつ訝いぶかしがっていると突然声を掛けられ、飛び上がりそうになったが何とか踏ん張った。


「何か買って下さい」


 そのみすぼらしい風体や、風呂敷──────だと思うんだけどなぁ──────の上に並べられた商品から、その商人はてっきり老人だと思い込んでいたが、聞こえてきたその声は、まだ幼さの残る子供のそれだった。

 スラムの孤児だろうか。この惑星では貧富の差が激しいのか、などと思案している内に風呂敷──────だよなぁ、やっぱり──────の上には、これでもかと言うくらいのアクセサリーの山が出来上がっていた。誇張する訳ではなく、まさしく『山』だった。どこからこんなに出てきたんだよ……

 座っている店主が見えなくなるくらいにうず高く積み上がった、ブレスレットらしき物や使い道の全く分からない置物や、謎の石を散りばめた箱、どう見てもただの石、割れた手鏡、文字がかすれて読めそうもない本……うん、何を買えと言うのか。

 うやうやしく商品を眺めていると、ふとあるモノが目に留まった。

 それは一見して何の変哲も無いただの指輪だった。だけど、僕にはそれが何故か妙に懐かしく思えた。


「それは『ルードの指輪』と言います」

「ルードの指輪?」


 何だろう……聞き覚えが有るような無いようなやっぱり有るような……


「古来より伝わる魔性の指輪の一つです」


 その孤児らしき店主が淀みなくスラスラと説明してくれたが、不思議と全てが理解出来た。

 いや、正確には『知っていた』という方が正しいかも知れない。それが何故なのかは分からないけど、やはり記憶の倉庫の何処かにルードの指輪に関する知識があるようだ。


「いくらですか?」

「2500銀河ドルです」


 おそらく、幾らかはぼったくられているのだろうが、そんな事はどうでもよかった。それが手に入るならば安い買い物だ。確かにそう思った。でも多分、数日後には死ぬほど後悔するんだろう。


「結局、大した情報は得られないかぁ」


 露店を後にしてしばらく街を散策したが、店はあるものの全てオートメーション・ショップであり、人間と出会う事は無かった。収穫と言えばこれくらいか。




 この街に人はいない。




 あの孤児しかいないとでも言うのだろうか。いや、だとしたら、あんな場所に店を出す意味は無い。もう一度、あの孤児の店に行ってみようとした矢先、レイアさんのシャワータイム終了の知らせを受けた僕は、仕方なく自販機でカフェ・オ・レを買ってホテルへの帰途についた。

 それに、あの店にはレイアさんも連れて行った方がいいだろう。

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