第4話 おぺら座のファントム(Ⅲ)
モバイルの向こうのレイアさんは何故か上機嫌だった。クリスさんが上手くやってくれたのだろうか? まぁ、レイアさんの機嫌が良いなら話も早いと言う事で、事の顛末を伝えた。
『あぁ、何かでっかい音がしたと思ったらアンタんトコだったんだ? んで、その生き残りの彼ってのはそこに居るのね?』
「ええ。でも、残念ながらアイルについての情報はこれと言って真新しい物は得られませんでしたが、DOOMを追って行ったそうなので、おそらくは常夜の国へと向かったのではないでしょうか?」
『まぁ、そう考えるのが妥当ね。ミリューが聞いたらどう言うか、想像に難くないけど。ま、取り敢えず、皆と合流してからそっちに向かうわ。詳しい話はそれからね』
モバイルを切り、ふぅっと軽く息を吐いた。と言うよりも、溜め息に近い感じだった。それは、これからの事を想像したからなのだが、それ以上に、何故だか分からないけど、レイアさんとモバイルで話をするのは緊張してしまうのだ。
普通に顔を見て会話するのは平気なのに。
仕事上のパートナーだから?
……それは少し違う気がする。でも、直属の上司なのだから、モバイルでの報告がかしこまってしまうのは仕方ない事だと思う。
あれ? でも、モバイルじゃない時は意外と普通に話しているなぁ?
う~ん、考えても分かんないや。やめやめ。
そう言えば、あの時聞いた声。彼の物じゃないとすると、一体何だったのだろうか? ただの幻聴だったのか? その時だった。
『暗い……ここは……どこだ……』
まただ! あの声だ!
「アスト君、今何か言ったかい?」
シンさんにも聞こえた? やはり幻聴なんかじゃないのか!?
「シンさん! 聞きましたか!? 今の声こそ僕がさっき聞いた声なんです!」
「声?」
「あぁ、さっきアンタが俺に言った事かい?」
「そうです! あの、天井裏には貴方しか居なかったのですか?」
「う~ん、あのアイルって人に助けて貰ったのは俺だけじゃないから、もしかしたら他にも誰かいるかも知れないけど……」
その人だ。その人がおぺら座のファントムの正体に違いない! レイアさん達を待っている余裕も無さそうだ。
「シンさん! もうすぐここにレイアさん達が来る事になってるんですが、僕はどうしてもあの声の主が気になるんです。だから、その声の主……おぺら座のファントムを探しに行こうと思います」
「うん、話は大体解ったけど、そのおぺら座のファントムってのは一体?」
「え? だって、村長が言ってたじゃないですか。このおぺら座には何かが居るって」
そう言うと、シンさんはやれやれ、といった顔で僕の顔に人差し指を突き付けながら言い放つ。
「いいかい、アスト君。この世界には科学で解明、証明出来ない物は何一つ無いんだ。君が言うおぺら座のファントムとやらは、君が思うような存在じゃない」
僕が思う存在……つまり、幽霊なんかじゃ無いって事?
「そ、それはもちろん僕も、幽霊とかじゃ無いと思いますよ。ただ、おぺら座のファントムはやっぱり居るんじゃないかなとは思うんですよ。現に声も聞こえたし……」
「幽霊が喋る訳が無いだろう? もし幽霊が話せると言うのなら、それはつまり声帯があると言う事だ。声帯なんてモノがあるのなら、それはすなわち実体が有ると言う事だ。それは幽霊の定義に反する。我々が聞いた声は、れっきとした人間の声。つまり、アイルに助けられた人と言う事だよ」
……論破されてしまった。
そしてシンさんは暫し考え込み、意を決した様に口を開いた。
「じゃ、その、おぺら座のファントムを探しに行こうか」
シンさんも一緒に行ってくれるのなら、こんなに心強い事は無い。
「そう言う事なら、俺がここに残ってアンタ達の仲間を待っていてやるよ。ほら、誰かがここに居ないと駄目だろ? 来たら、天井裏まで案内してやらなきゃな」
彼の有難い申し出に感謝し、僕達は天井裏へと向かった。
「あ、そう言えば貴方のお名前をまだ聞いてませんでしたね?」
「あぁ、そう言えば……俺は……」




