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第4話 おぺら座のファントム(Ⅰ)

「シンさ~ん! プロジェクターの位置、ここでいいですかぁっ?」

「オッケー! それじゃ、そろそろ始めよっか」


 レイアさん達が女子会なるものを開いて、DOOMの襲来によって傷付いたであろう女性達の心のケアをするならば、僕達は子供達の心のケアをするんだ。そして、ミリューさん達のチームは美味しい物を作って、胃袋のケアをして貰う。

 ……それが、僕達がこの村の人達にしてあげられる事だ。


「それじゃアスト君! 子供達を会場に入れていいよ!」


 上映会場は言うなれば村の集会場の様な建物の中だ。公民館みたいな建物、だとは思うのだが、その入口には何故か『おぺら座』と書かれた看板が掲げられていた。

 僕達が準備をしている間、子供達はミリューさんとジェフさんとパイが切り盛りする屋台で美味しい物をたくさん食べながら過ごしていた。

 いいなぁ……僕も食べたい。

 屋台で配られた、たこ焼きやお好み焼きやかき氷や綿菓子を片手に、ゲッタンガーZを食い入る様に見入る子供達を見て、僕達は安堵すると同時にこのイベントをやって本当に良かったと心から思えた。

 だが、一つだけ不安が残る。それは、村長から言われた一言だった。


「会場におぺら座を使いたいとな? ふ~む、まぁ、大丈夫ぢゃとは思うが。いや、しかしのぅ」


 村長は何やら(いぶか)しげに意味深な事を言ったのだ。


「どうされました村長? 何か気になる事でもあるんですか?」

「……」


 村長は黙して語らず。それが余計に気になるんだけどなぁ。


「と、取り敢えず、使用許可を頂けたのなら、早速準備に取り掛かりたいのですけど」


 うぅ、村長の怪訝(けげん)な眼差しが痛い。


「シンさ~ん……」


思わずシンさんに助けを求めるも……


「うん……実はボクもこの建物にはちょっと嫌な感じを覚えていたんだけどね」

「ぅえっ!?」


 なんともまぁ、あけっらかんと言う。


「お主は感付いておったのか?」

「よくは分かりませんが、妙な胸騒ぎはしますね」


 2人はもしかして……『アレ』の事を言っているのだろうか?


「実はのぅ……DOOMの奴が来て以来、この建物には何かが居るのぢゃ」

「な、何か、とおっしゃられますると?」


 自慢じゃないけど、僕はそーゆー(たぐい)の話はハッキリ言って苦手だ。そもそも非科学的だ。科学で証明出来ない物は信じない。これ、自然の摂理。




 なのに、だ。




 何故、科学の信徒とでも言うべき存在のシンさんが、こんなオカルトまがいを信じる様な事を言うのだろうか? と思っていたが……


「ボクが言う嫌な感じってのは、いわゆる心霊的な物じゃ無くて、う~ん……何て言うか、もう少し詳しく調べてみないと何とも言えないんだけどね」


 良かった。やっぱりシンさんはシンさんだった。

 とは言うものの、詳しく調べる時間など有る訳も無く、屋台を満喫しながら待っている子供達の為にも、一刻も早く準備を進めなければならない僕達は、村長からの使用許可を得たおぺら座の中へ、必要な機材を運び込んだ。




 おぺら座の中は意外と広く、ちょっとしたスポーツなら余裕で出来るくらいだ。明かりが入り込みそうな隙間や窓に暗幕を張り、完全に光をシャットアウトさせ、プロジェクターを設置する。現時点では不審な所は見られない。

 何でこんなに不安と隣り合わせで作業しなきゃなんないんだろう?

 今頃レイアさん達は、楽しく女子会を満喫してるんだろうなぁ。

 そして今、ゲッタンガーZの上映会は始まり、子供達は皆一様に楽しんでいる。しかし、僕にはどうしてもゲッタンガーZを楽しむ余裕なんて無かった。




 このおぺら座には何かが居る。




 そう思うだけで空恐ろしい気分になる。

シンさんは霊的な物では無いと言うが、村長の口振りでは、やぶさかではない。何せ、村長の年齢は果たして幾つなのやら……

 昔から亀の甲より年の功と言うし、年配の方の言う事には一日の長があるのではないだろうか?

しかしシンさんは、僕も尊敬する人だし、何より純然たる科学の信徒だ。僕も科学の力を信じたい。どちらを信じれば良いのだろうか? こんな時、レイアさんならどう答えを導き出すのだろうか?

 などと考えている内にゲッタンガーZのストーリーも佳境に入った頃だった。




 ……そいつは現れた。




 ガタッ……




 最初は空耳だとか気のせいだと思った。でも、その音は確かに聞こえた。




 ……天井から。




「ネズミか何かだよな、きっと」


ネズミはともかく、何かとは何だ? と、軽く自分自身にツッコミを入れてみる。


「シンさん、今の音って、何ですかね?」

「ん? 空調が変わったのかな? まぁ、良くある事だよ」


 子供達はアニメに夢中で気付いていない事が唯一の救いか。気のせいだと思い込んで、僕も子供達と一緒になってゲッタンガーZに見入る。

  う~ん、やっぱり何度見てもアツイ! そして、ゲッタンガーZに乗り込んだ時のライは更に激アツだ!

 僕の隣では、シンさんも同様に食い入って見ている。友情、努力、勝利。アツくさせるために必要な物。これはいつの時代も不変の三種の神器だと、僕は信じてやまない。その三種の神器が、このゲッタンガーZには余すところなく詰まっている。




 ゴトッ……




 また聞こえた。しかも良い場面でっ! ああぁ! このまま聞こえないフリをしていたい。てゆーか、心霊現象とかじゃありませんよーにっ!


「……ネズミかなぁ? ちょっと見てくるよ」

「ぅあっ!? ぼ、僕も行きますぅ!」


 咄嗟に言ったものの、誰がプロジェクターを管理するのか? と気付きあたふたしてしまい、ただただシンさんをすがるように見つめるしか無かった。


「……うん、ボク一人で大丈夫だから」


 僕の表情を綺麗に読み取ってくれたシンさんの一言で、プロジェクター管理を一手に引き受ける事になってしまった。




 それよりも遥かに、この場に一人取り残される事の方が数倍嫌なのだが……

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