第3話 女子会とは酔っ払い養成所である(Ⅳ)
そこは、まるでカオスな修羅場と化していた。
「皆、呑んで忘れたい事が有るって事よん♪」
ジョッキを一気に煽るクリス。
「呑んだって忘れられない事だってあるわよ。皆、忘れたくても忘れられない現実を目の当たりにした訳だし」
「だったら完全に忘れるまで呑むまでよん♪」
そう言って、もう何本目なのか分からないビールをジョッキに並々と注ぎ足す。
「なぁんかねぇ、この人達ぃ、浮気されてたみたいなのよねぇ?」
「浮気ぃ?」
よくある痴話喧嘩か。でも、相手は故人なのよねぇ。気持ちのぶつけ先が無いのも困りものね。
事の顛末はこうだ。クリスを含め、そのテーブルには4人いた。
上質なシルク生地の民族衣装の様な服を纏い、テーブルに着く若い女性。
絹糸はここでは手軽に入手出来るという。
それを特産品にしろよっ!!
それはさておき。その中の一人、燃える様な赤髪と瞳の女性、ハルが恋人をDOOMに殺されたと告白し、泣きながら中ジョッキのビールを一気に煽る。その恋人の名前はカイルという。問題はここからだ。
その男の名前を耳にした途端、他の二人、水色の髪と瞳の女性、エルマと、黄土色の髪と瞳の女性、リサの、それまで、慰め、ともすれば涙を浮かべていた表情が一変する。
「ちょっと待って。カイルって二丁目のカイルの事? あの人は私の恋人よ!?」
トリガーはエルマのこの一言だった。
「はぁ? 何言ってるの! 私のよ!」
「二人とも誰の事を言ってるの? もしかしてボクのカイルの事を言ってるの?」
そして話を更にややこしくしたのはリサのこの言葉だ。
「ボクのカイルって何よっ! カイルは私のモノなのよ!」
「私のよっ!」
「ボクのだっ!」
そして今に至る。
何だかどんどんヤバい空気になってきている様な気がする。しかし、そんなアタシを余所にクリスは相変わらずビールを手酌でかっくらっている。ホント、アルコールが入るとオッサン化するなぁ。
「ちょっと、クリス! これ、大丈夫なの? 何かヤバくない?」
「だぁいじょぉぶよぉ♪ アンタは心配し過ぎなの。普段は強気のくせに、こぉゆぅ色恋沙汰になったら途端に弱気になるんだからぁ♪」
「んぐ……」
返す言葉も無い。そりゃ確かにアタシは恋愛関係には疎いけどもさぁ。つーか、アタシもそろそろ結婚適齢期? でも、結婚どころか恋愛経験も……って、そんな事はどーでもいい話ね。余計な御世話よ。
「あれ? 三人ともカイルが恋人って事はさぁ……アイツ、私達三人と付き合ってたって事?」
「あれ? そう言う事になんのかな?」
「そうね……そうなるわね。とゆー事は、あの野郎!」
「私達、アイツに騙されてたのね!?」
「許せない!」
どうやら件の男はここに居る三人同時進行で付き合ってたようだ。いわゆる三マタってヤツであり、女性の敵である。
まぁ、アタシに言わせれば、どっちもどっちだが当人達からすれば許すまじ存在となるか。
「ね、大丈夫でしょお?」
クリスがアルコール臭を漂わせながら近寄ってくる。近っ! 近すぎるわっ! 思わずクリスの顔を手のひらで遠のける。
「な、何が大丈夫なのよっ! てゆーか、どの辺が大丈夫?」
「その辺が」
そう言って指差した先には、件の三人がいた。
「いやいやいやっ! だからこの三人がヒートアップしてるからヤバいって言ってる……」
と言いながら彼女達に目を向けると、まさに取っ組み合いの喧嘩を始めているかと思いきや、何故か三人はグラスを合わせて笑い合っていた。
「そっかそっかぁ~。私達、皆アイツに騙されてたんだぁ~」
「故人に言うべき事じゃないのは解ってるけど、自業自得よね」
「あ~あ、どっかにイケメンいないかなぁ?」
思わず絶句する。アタシも人の事はどうこう言えないけど、女ってこうも切り替えが早いものか、とつくづく思うわ。
カフェオレをちびりと飲みながらそんな事を思っていると、再びアルコールに浸かったクリスが顔を近付けてくる。だから、近いってば。
「ね、上手くいってるでしょ、この企画。突然の別れで負った心の傷を癒すには、その相手を地獄へと叩き落とす感じでいけば簡単に癒せるのよ」
事も無げにサラッと言い放つ。
「アンタ、悪魔より怖いわ。地獄の使い、いや、地獄の女王ね」
「この世には綺麗事だけじゃ片付けられない事だって有るのよ? まぁ、深情けはダメって事よ」
そう呟いたクリスは静かに目を伏せる。そうか、コイツにも複雑な過去が有るって事か……
それは多分、クリスだけじゃなく、ここに居る三人もそうだ。皆、様々な過去を背負って今が有る。そして今を生きているのだ。
命あるものは、いつかはそれを終える時が来る。生まれた瞬間から、砂時計の砂は静かにサラサラと落ち始める。
DOOMに襲われ、果敢に戦いを挑み、儚く散っていった命達は、いわば砂時計を壊された様なものだ。
アタシ達はこういう仕事上、壊された砂時計にいちいち同情していられない。ごく僅かだが、中には同情するに値しないものもある。
件のカイル君がどちらなのかは詮索しないでおこう。
過去を乗り越え、今を生きているから、砂時計を壊された人の分まで生きなければならないとか、そんな事を言うつもりは更々無い。
……それこそ綺麗事だ。
過去を乗り越え、今を生きるなら、砂時計の砂が落ちきる最後の一瞬まで、全力で生き抜くだけだ。
そして、今現在。
アタシとクリスは女子会を開き、そしてお互いの相棒はと言うと……




