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第3話 女子会とは酔っ払い養成所である(Ⅲ)

 ミリューとジェフとパイちゃんは屋台で色んな美味しい物を作る。今回はサツマイモオンリーでは無いようだ。よし、後でご馳走になろう。

 アストとシンはアニメ上映会。ゲッタンガーZ……ちょび気になる。

 そうなると、アタシとクリスは何をすればいいのかしら?


「クリス、どうする?」

「決まっているでしょ? 女子会よ♪」


 ハァッ? 女子会ぃ? そんなもんやってどうするっての?

 そりゃあ確かにぃ、アタシ達の年代なら直球ド真ん中ストライクだけどさぁ。そんな事で、この陰鬱な祭りの雰囲気を一変させる事なんて出来るのか甚だ疑問だわ。


「ねぇ、大丈夫なの、ソレ?」


 アタシの不安を余所(よそ)にクリスは何故か勝利を確信したような笑顔でVサインを決めてみせる。


「フフン♪ ワタシに任せなさいっ!」

「とか言って、アンタ。単純に酒が呑みたいだけなんじゃないの?」

「ま、ソレもあるけどね」


 やっぱあんのかいっ! でも、溜め込んだストレスの捌け口くらいにはなるかも。活気付ける企画としてはアリっちゃアリね。

  大体のプランは固まった。それじゃ。


「いっちょやるかっ!」

「おおーっ!」


 薄明かりの中、所狭しとくべられた松明の灯りを背に、アタシ達は一大プロジェクト(?)を立ち上げる事になった。




 手筈通り、ジェフとミリューは屋台に出す料理の仕込みを始める。屋台の定番と言えば、ソースの焦げる匂いが香ばしい焼きそば、お好み焼き、たこ焼き。そして、アツアツでジューシィなフランクフルトに焼き鳥や串焼き肉、渇いた喉を潤すトロピカルドリンクやかき氷、シメには甘~い綿菓子やリンゴ飴etc……

 ……食べたくなってきた。

 着々と出来上がるメニューに、パイちゃんがよだれを垂らしながら、その美味しそうな匂いを堪能している。早く食べられるといいね。

 アストとシンは独自のワールドを形成しながらも準備に取り掛かる。アニメ上映会のハズなのに、何でロボットの模型があるのだろうか? つか、どこから持ってきた? まぁ、シャトルに積んであったんだろうけどさ。

 続々とシャトルから積み下ろされる荷物の殆どがゲッタンガーZの関連グッズなのだろう。二人は和気藹々(わきあいあい)、嬉々として準備を進めているが……コイツらは子供達をどうプロデュースするつもりなのか?

 そう来られると、何だかこっちも負けてらんないわね。


「クリス、アタシは何をすればいい?」


 腕まくりをして気合いを入れ、会場となる広場を見渡しながらシャトルの中へと声をかける。


「そうねぇ、取り敢えずテキトーにテーブルと椅子を並べちゃって」


 シャトルから、ありったけの酒を持ってくるクリス。あのシャトルの中はきっと四次元に違いない。

このテーブルと椅子ももしかして?


「あ、これはこの村から借りたのよ。さすがにこんなのはシャトルに積めないわよ」

「あ、そうなのかい。でも、女子会つったってさぁ、具体的に何をするワケ?」

「何って、お酒呑んで、おしゃべりして……他に何かある?」

「マヂでか。んじゃ、アタシ達は何をすんの?」

「だぁからぁ~、お酒呑んでおしゃべりしてればいいじゃない?」


 なるほど。考えてみればラクな仕事かもね。ん、やるか。




 甘かった。

 なんだよぉぉぉー!

 何で酔っ払った女共ってこんなにタチが悪いんだよほほほほぉぉぉぉっ!


「あっはっはっはっはーっ!!」


 アタシはジェフお手製のマカロンを摘まみながらカフェ・オ・レを頂き、優雅なひと時を過ごすつもりでいたのだが……この女はやはりと言うべきか。

 シャトルに積んであったであろう、ありとあらゆるお酒――ビール、ウイスキー、バーボン、テキーラ、その他カクテル等――を所狭しと並べ立て、村の女性達に豪快に振る舞ったのだ。

 そこまではまだ良かった。

 凄惨な出来事があった後でさぞ焦燥しているであろう女性達が、そんなに盛り上がる事も無いとタカを括っていたのだが、嗚呼、甘かった。

 女性というモノは、こんなにも物事の切り替えが早いのだろうか? 同性ながら驚きを超えて呆れる、いや、むしろ感心するわ。

 アタシとしては、この女子会は美味しいマカロンとカフェ・オ・レがあれば十分なんだけどね、んふ♪ などと思っていたのだが、何度も言うが甘かった。 マカロンやカフェ・オ・レや綿菓子を比較対象に出すのもはばかれる程に甘かった。

 今この場に居る女性達は、DOOMの襲来により愛しい人を亡くした女性が大半だ。そんな悲しみに暮れた雰囲気が、この村の空気を包み込んでいるのかも知れない。そりゃ、折角のお祭りだって楽しくないハズだ。

 しかし、それでも踊り――と言うより舞い?――続けるのは何か意味があるのだろうか?


「気になるかね?」

「ぅおわっ!」


 何故かテーブルの下から突然現れた村長に驚き、思わず変な声が出てしまった。


「この舞いは『魂命奇縁(こんめいきえん)の舞い』と言ってのぅ、行き場を無くした魂を呼び戻す舞いなのぢゃよ」

「魂を呼び戻す?」


 そんな事が出来る訳が無い。

 そんな事が出来るなら……


「無論、そんな事は不可能ぢゃ。ぢゃが、舞う事で生者と死者の両者が救われる事もある。奇縁……奇異なる縁は回帰する。ま、そう言う事ぢゃ」


 つまり、救いを求める為の儀式と言う事なのか?


「人は脆く、そして儚い。しかし、ぢゃからこそ美しい。そうは思わんかね?」


 それもまた真理かも知れない。でも、アタシの考えは違う。

 人は死ぬ為に生まれる訳じゃない。

 少なくともアタシは。

 こんな時代でも、生まれたからには生きた証を残して逝きたい。そう思う奴は、きっと少なからず居る筈だ。

 アタシには、村長の言葉は死を美化している様に聞こえるのだ。脆く、儚い。それは確かに美しい物だろう。だけどアタシには、どんなに泥臭くとも生きている方が美しく思えるのだ。


「ワシはのぅ、この年齢まで生きてきて、数多くの大切な人の死を目の当たりにしてきた。残された者に、深い悲しみだけを置いて逝ってしもうた。いっそ死など無ければ良いとさえ思った。しかし、ソレは誰にでも平等に訪れる。ワシはその時には……せめて美しく逝きたいと思うとる」


 村長の言葉は正論であり、非の打ち所が無いのかも知れない。それでも、アタシは真正面から賛成する事は出来ない。




 それを受け止めてしまったら……




 生きる意味が無くなる。




 そんな気がしてしまうのだ。




 はっ! いかんいかんっ! 何だかセンチメンタルな気分になっちゃった。こんなの、アタシのキャラじゃないわ。そんなアタシを見透かす様にクリスが絡んで来る。


「なぁに湿っぽくなっちゃってんのぉぉ? 一応は祭りって形を取ってんだからさぁ、たまにはワタシの酒に付き合いなさいよぉぉ?」


 そう言えばコイツ、絡み酒だった!


「ほぉらほらぁ、こぉっち来なさいよぉ! 皆で呑みましょぉ♪ んふふぅ♪」




 強引に腕を引っ張られ、アタシは女子会と言う名の地獄へと引きずり込まれていくのだった。

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