第3話 女子会とは酔っ払い養成所である(Ⅰ)
村長は、かつて明星の国の王室に仕える教育係だった。アタシの中で混線していた糸が何本か繋がりかけた様な気がした。
ジェフと村長……フレイアさんは旧知の間柄だった。それが何を意味するのか?この謎が解ければ一気にこの煮え切らない思いにもピリオドが打てるかも知れない。
しかし、だ。
この煮え切らない思いを抱えたまま、何故ここに居るのだろう?
辺りからは録音された祭囃子の音だけがエンドレス・ループで聞こえてくる。普通ならば、それプラス人々の喧騒なりが聞こえてくるものだが。
「何だろう、賑やかなんだか賑やかじゃないんだか分からないなぁ」
ボソッと呟いたアストの言葉に、その場にいた全員が「あっ!」と顔を見合わせる。
「ワタシも何か足りないって思ってたのよねぇ」
「ボクは祭りなんて物を見るのは初めてで、話に聞くよりも寂しい物だと思っていたが、そうか、やはりおかしいのか」
「私が知っているお祭りは、もっと華やかなものでしたが、随分と規模が小さいのですね」
「いや、ソレって王宮の祝い事の感謝祭だよ、ミリュー」
珍しくパイちゃんがツッコミを入れる。これはこれで貴重なワンシーンだわ。ありがたや。
アタシを含め、ほぼ全員が同じ疑問を抱いていた。しかし、この人のベクトルは違う方向を向いていた。
「何故……何故に屋台が無いのですか!? これは許せません!」
料理人のジェフにとってはお祭り=屋台だったようだ。
「や、屋台って……まぁ、確かにお祭りに屋台は付き物だけどさぁ」
「屋台の無いお祭りなど、目玉焼きが乗っていないハンバーグと同じです! 断じて許せません!」
例えがビミョーだなぁ。まぁ、解らん事も無いかも知れないけど。
そもそもこのお祭りは一体何を祭りたて、祝っているのかしら? 理由も無くお祭りなんてやんないだろうし。不思議に思っていると、先を歩いていた村長が突然振り返り、アタシの顔を真っ直ぐに見つめながら話しかけてきた。
「この祭りには、理由も意味も目的も意義も、価値すらも無い」
本来ならば、この祭事を取り仕切る立場にある村長から発せられた言葉は、およそそれとは思えない言葉だった。
「それって、どういう事です?」
堪らずアタシは聞き返す。
「どうもこうも、お前さんが聴いた通りぢゃよ。この祭りの意義、いや、この国の存在意義すら、もう無いのかも知れんのぅ」
お祭りどころか、この国自体に存在意義が無いとは一体どういう事だろうか?
祭事場を今一度確認するべく、辺りを見渡してみた。よくよく観察すると、確かに違和感を覚える。 ……イケメン不在。じゃなくって、いや、あながち間違っちゃいないんだけど。
若い男がいない……って言うと何かアタシが男に飢えてるみたいな言い方だわ。って、そーでもなくって!
若い人はみんな女性で、他はご年配の方か子供達しかいないのだ。
それだけではない。一番はしゃぎたい盛りであろう子供達が、全く、すべからく、あにはからんや、臆面もなく、元気が無い。
更に、元気が無いのは子供達だけじゃない。ろうなくなんの……ん、んん! ろーなくなんにょ……んんん! ろーにゃくなんにょっ(言えた!)問わず全員、覇気や生気と言った物を感じられない。
「村長さん、これって一体……?」
「お前さんが感じた通りぢゃよ。この村の若い男衆は、全員DOOMの奴に……」
「連れ去られた?」
「いんや。それならどんなに良かった事か」
明星の国でも同じ様な事があった。
その時にアタシの脳裏をよぎった最悪の事態。幸いにも明星の国ではソレは免れた。しかし、どうやらこの夕闇の国ではソレが現実となったようだ。
「この村の、この国の若い男衆は……一人残らず死んだよ」




