第2話 アンドロイドは電気ウナギの夢を見る……のか?(Ⅲ)
シンさんの傍若無人な論破により、ジェフさんは永久心臓の所持者では無いと言う事が証明された。それと同時に、永久心臓は人工的に作り出された物では無いという可能性が高くなってきた。そして、永久心臓とは何なのかと言う謎をさらに深める事となった。
「結局さぁ、永久心臓って何なの?」
クリスさんの疑問は良くわかる。僕も同じ疑問をずっと抱いていたからだ。まぁ、それを求めてここに来た訳なんだけど。
「さて、ぼちぼち話して貰える? クリスとシンは一体どんなネタを追ってここに来たの?」
レイアさんはどうやらここで、二人が握っているであろうネタを拾うつもりだ。
「それは、レイアも編集長から聞いてるでしょ? お互いの守秘義務もあるし、いくらレイアの頼みでも言えないわね」
「じゃ、一個だけ教えて。二人は永久心臓について何かネタを掴んでる?」
物凄い悪戯っ子的な笑顔を浮かべているレイアさんは本当に怖い。こういう時のレイアさんは必ずと言っていいほど何かを企んでいるのだ。そしてそれは多分、僕よりも付き合いが長いクリスさんにはわかっているようだ。
「アンタの考えなんてわかるっつーの。でも、ま、いいわ。昼行灯には悪いけど教えたげる。さっきシンも言った通り、ワタシ達は永久心臓の事なんてこれっぽっちも掴んじゃいないわ。ただ、永久心臓が何なのかってのはワタシ達も調べていたわ」
「取材を進めていく内に、ボク達はDOOMの存在に辿り着いた。さっきの考察の結果、DOOMが永久心臓の所持者である事には、ほぼ間違い無いだろうね。しかし、どうやら奴はそれ以上に厄介な『何か』を隠しているようだ」
「ま、結局それ以上は分からず仕舞い。ワタシ達の方でもなーんにも掴めて無いのよね。ってゆーか、レイア達の方はどうなのよ?」
僕達も、ほぼほぼクリスさん達と同じ様な感じなのだが。
「ソレについては、も一回DOOMに会って確かめるしか無いというわね。今度はちゃ~んとアポ取ってね」
アポって。そんなのが通用する相手じゃ無いでしょうが。
しかし、会わなきゃならない相手とは言え、出来る事なら二度と会いたくない相手だ。
正直……あんな恐ろしい思いをするのは御免こうむりたい。でも、またああなるんだろうなぁ、きっと。
ジェフさんには、夕闇の国への道案内という名目で僕達に付き合って貰っている訳だが、このままだと、DOOMの待つ常夜の国までまっしぐらになるんじゃないだろうか? そうなった時、ジェフさんはどうするのだろう?
出来る事なら、このまま御同伴願いたいものだ。戦力としてはもちろん、本職であるシェフとしての腕前に期待しているからだ。あのサツマイモオンリーのフルコースは思い出すだけでも口の中が唾液で一杯になる。どうしても気になった僕はその事をジェフさんに聞いてみたが……
「勿論、お嬢様が行かれるならば、私も同行するまでです。その間の食事に関しては御安心を。私はシェフですから」
一安心だ。
僕達もクリスさん達も、有益な情報は掴めて無い事だけは分かった。情けない事だけど。しかし、戦力だけは着々と整いつつある。って、別に戦うためにこの惑星に来た訳じゃ無いんだけど。
しかし、永久心臓ってホントに何なんだろう? 遥か昔からその存在は確認されているが、それが何なのか誰も知らない謎の存在。
レイアさんもクリスさんもシンさんも、最早お手上げ状態、かと思われたが、何やらレイアさんの表情が怪しい。この表情は何かを閃いた顔だ。
「レイアさん、何か思い付いたんですか?」
「ん? ちょっと、ね♪」
悪戯っぽく微笑むレイアさんの顔が、僕は好きだ。
そしてレイアさんは、木の幹に腰を掛けていた村長の元へと歩いて行く。村長が何かを知っているのだろうか?
「そう言えば村長さん。アナタはミリューのお祖父様の事も御存知な様子ですが、お知り合いなのですか?」
木の幹に腰掛け、ウトウトしかけていた村長が「ふぇ?」とレイアさんを見上げる。
「バルガスの事かえ? 婆が面倒見てやったのぅ。懐かしいわい。ふぇっふぇっふぇ」
面倒って、まぁ、少し年上のお姉ちゃんって感じだったのかな? 確かにそれなら納得かも。
「婆は王室の教育係ぢゃったからのぅ」
教育係? そうなると年齢的におかしくなってきやしないだろうか? 思わず僕は問い質した。
「村長さんが教育係を務めていたのはバルガスさんがいくつの頃ですか?」
「そうさのぅ、シェイン王が戴冠した頃ぢゃからのぅ、かれこれ200年前くらいかのぅ?」
200年!? 想像の遥か斜め上を行った!
「シェイン王! 私が王室に仕え始めた頃の王がまさにそうでした。すると貴女は!」
ジェフさんがうろたえる。てゆーか、もう理解不可能な話だよ……
「ふぇっふぇっふぇ、そうぢゃよ。ジェフや、久しいのぅ。ワシぢゃよ」
「……フレイア様、お久しゅうございます」
そう言ってジェフさんは村長に跪く。
「DOOMの事は知っておるし、お主らの目的もわかっておる。ぢゃが、今はこの国の祭りを見て行くがよい。ふぇっふぇっふぇ」
忘れていた。そう言えばこの国は祭りの真っ最中だったのだ。
終わりの無い祭りの……




