第2話 アンドロイドは電気ウナギの夢を見る……のか?(Ⅰ)
この惑星に来て、どれくらいの時間が経っただろうか。
ジャーナリストという職業柄、驚く事には慣れている。
……ハズだった。
事実、この惑星に来てからも幾度かそういった事に遭遇している。しかし、それはただ驚きの連続と言うだけの事であって、実はそんなに衝撃を覚える事は少なかった。
……僕の上司がアレだから。
DOOMの襲撃を受けた事が唯一かも知れない。てゆーか、あのときは正直死んだと思った。あれ以上の衝撃はもう無いと思ってたけど、どうやら有りそうだ。
アンドロイドはあくまでも人工的に造り出された存在だと思っていた。しかし……
「ジェフ、アナタは一体? いえ、そもそも、アナタの言うアンドロイドって言うのは一体何なの?」
「それについては、この婆が答えてやろうかの」
「村長……」
この村長も謎だらけなんだよなぁ。
「アンドロイドというモノは、簡単に言ってしまえばただの実験体ぢゃよ。ホムンクルスを精製するためのな」
ホムンクルス? 聞き慣れない言葉だった。僕はともかく、ミリューさんもクリスさんもレイアさんでさえも首を傾げている。しかし、当事者であるジェフさんはもちろん、パイも知っていたようだ。そして、シンさんも。
「ホムンクルス……悪魔の錬金術。それが何故アンドロイドなんだい?」
「いやいや、ホムンクルスはアンドロイドなどではない。さっきも言ったが、アンドロイドは実験体。但し、アンドロイドこそが完成体なのぢゃよ」
「完成体?」
思わず声に出る。アンドロイドが完成体ならば、ホムンクルスとは何なのだろうか? 僕は、何故かその事を聞かずにはいられなかった。
「ホムンクルスとは、人間の出来損ないぢゃよ。ならば何故、アンドロイドが完成体か? それは、アンドロイドが人間だからぢゃよ」
僕の理解の範疇を超えている。はっきり言って全く理解が出来ない。
「レイアさん、意味、わかります?」
レイアさんは短く息を吐き出すと、ただ一言だけ「わかんないわよ」と吐き捨て、そして、こう付け加えた。
「何故ジェフがアンドロイドになったのかなんて、わかんないわよ」
僕にはレイアさんが呟いた言葉の意味も解らなかった。
「ジェフ……アナタは何故アンドロイドになったの?」
「……」
ジェフさんは答えない。いや、答えたくないのだろうか。レイアさんの視線を逸らすかのように、ただ天を仰ぐ。
「おねーさん、それ以上ジェフに聞かないで。ジェフもアンドロイドになりたくてなった訳じゃないんだから」
パイは事情を知っているのだろう。そんな事を言われたらそれ以上聞けない……僕は。でも、この人は違う。
「ゴメンね、パイちゃん。アタシはジャーナリストなの。ここまで聞いておいて、引き下がる訳にはいかないのよね。もう一度聞くわ、ジェフ。アナタは何故アンドロイドになったの?」
「おねーさんっ! それ以上言うならオイラも怒るよ?」
レイアさんの前に立ちはだかるパイ。ちっちゃいながらも、威圧感がある。一触即発のムードだったが、ジェフさんがなだめる。
「いや、もういい、パイ。ありがとう。それに、隠し事は良くない、と言ったのはパイだろう?」
「うにゅ~……確かに言ったけど」
両の前足で頭を抑え込みながら左右に振り、悩むパイ。そして、その姿を見て悶える二人の大人気ない大人の女性達。
「いや~ん、もぉ~ん」
パイを揉みくちゃにし、挙げ句の果てには奪い合っている始末。あ~あ、目を回しちゃって。パイが可哀想だ……全く、この人達は。こんなダメな大人は無視して。
「ジェフさん、レイアさんが言った様に隠していたんですか?」
「別に隠し事をしていた訳では無いのですが、話す必要も無い事だと思っていたのは事実です。しかし、どうやら話しておいた方が良いですね」
天を仰いでいたジェフさんは、やがて決心したように僕達の顔を見渡した。




