第1話 カルナバル・ソワレ(Ⅲ)
仄明るい中、煌々と灯る松明の灯りに導かれるまま村へ足を踏み入れると、まぁアジケナイ程のド田舎風景が眼前に飛び込んで来た。そんな風景を目の当たりにした所でアタシはふと重大な事を思い出した。
確か、夕闇の国と常夜の国は、先に目覚ましい発展を遂げていたってジェフが言っていた。なのに、これはどうだ?
発展どころか途上にも無いくらい田舎丸出しだ。この風景のどこをどう見れば?
「一体この国のどこが目覚ましい発展を遂げたっての? 自然に充ち溢れ、空港も無いからシン達はその辺に着陸したワケだし、町じゃなくて村だしさぁ」
アタシがぶちまけた疑問にジェフが答える。
「この国は、文字通り本当に何も無かったのです。村はおろか、田畑もあの森も。それどころか辺りに生い茂る草木でさえ、元は荒廃した大地だったのです」
想像出来ない。アタシは今のこの長閑な風景がデフォルトだとばかり思ってた。それは多分、この惑星に来る際に乗ったシャトルから見下ろした、明星の国のあの風景を見たからだろう。
それと対比して、君臨する高層ビル群とのアンバランスなコントラストが余計にそう思わせたのかも知れない。
一口に発展と言っても、その度合いは千差万別と言う事か。確かに、元が荒廃した大地だと言うのなら、今のこの風景が目覚ましい発展、と言うのも頷ける話か。
「それに、この国の人口は多くないからね。ボクが見た限りは、だけど」
「それってDOOMに拐われたからじゃないんですか?」
明星の国の人達は、何らかの手段を持ってDOOMにラチられた。それと同じ事がこの国でもあったのだろうか? アストもアタシと同じ見解に辿りついた様だが、今の時点ではその結論に達するのが普通だろう。
……が。
「DOOMに拐われたっていうのは少し違うね」
シンとクリスは実情を知っているのか? アストは尚も食い下がってシンに問い質すが、シンは言葉を濁す。
「う~ん、それはボクに聞くよりも、この村の村長に聞いた方が早いかもね」
そう言い残すと、タバコをくわえてアタシ達から距離を取る。クリスもダンマリを決め込み、こちらの質問を完全シャットアウトしている。
じゃ、チャッチャと村長の爺さんに会いに行きましょうかね。
考えが甘かった事を先にお詫びしよう。
思い返してみても、確かにシンは村長としか言ってなかった。爺さんとは一言も言ってなかった。
いや。考えが甘かったのでは無い。先入観に囚われ過ぎていたのだ。
……爺さんじゃなく、婆さんだったのか。
「おや? お前さん方は、この間来た人達ぢゃね? 今度はまた、えらく大人数で来たぢゃないかい? それに……こりゃあまぁ! バルガスんとこの嬢ちゃんかえ? 婆の事を覚えておるかえ?」
夕闇の国。その村で出会った村長は、どうやらミリューとは顔見知りだった。しわくちゃの顔を更に破顔させ、真っさらな白いローブを翻し、杖をつきながらミリューの下へ歩み寄る。しかし、当の本人は記憶に無いのか、首を傾げる。それどころか……
「バルガスとは、私のお祖父様の事でしょうか?」
お祖父様? 確か村長はバルガスんとこの嬢ちゃんと言った筈。嬢ちゃんって事はつまり、娘って事だよね? あれ? でもバルガスって人はミリューのお祖父様で? あれへ?
……ヤバい。
頭の中がクエスチョンだらけだわ。こんなんじゃ本当にジャーナリスト失格……?
「村長、こちらはバルガス様のお孫様で、ミリュー様と申します。村長が仰ったのは、ミリュー様の母君様のヴィヴィアン様ですね?」
どうやら、ここはジェフに任せた方が良策みたいね。あ、でも良い機会だからジェフにあの事を聞いてみようかしら?
「ねえ、ジェフ。あなたは一体いつからミリューに、ううん、明星の国の王室に仕えているの?」
「そうですねぇ……私がアンドロイドになったのが、かれこれ200年程前ですから、180年前といった頃でしょうか」
にわかには信じられない話だ。200年前には既にアンドロイド製造技術があったのか。
……いや、待てよ。
今、ジェフは何と言った? 確か、アンドロイドに『なった』って言わなかったか?
どうやらアタシ達は、思いもよらない場所で、思いもよらない人物の核心に迫る事になってしまったようだ。
そして、祭りはどうなった?




