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第1話 カルナバル・ソワレ(Ⅱ)

 ミリューの兄、つまり明星の国の王子であるアイン。そんな高貴な身分であるハズの人物が、ソード・ライフル片手にDOOM打倒の旅の途上にいる。そして、彼はこの夕闇の国にいる可能性がある。しかし、彼はアイルと名を偽っている?


「それってさぁ、王子様とは別人って可能性もあるワケでしょ? やっぱり、実際に会ってみないと分かんないわね」

「そうですね。私が皆様にお供する理由も、兄様に会う事が目的なのですから。クリスさんとシンさんが、兄様、いえ、アイル様とお会いになられた場所とはどちらなのでしょうか?」


 う、う~ん、前々から思ってはいたんだけど、この子の話し方って、舌を噛みそうな感じなのよね。  ……アタシの方が。


「ねぇ、ミリューさん。その口調、アタシ達と一緒にいる間はヤメにしない? 平たく言えば、敬語は止めて欲しいな~って」

「あ、それは僕も思ってました。ミリューさんに対してどう接していいか、正直分かんないってゆーか、距離を感じるってゆーか、いや、実際、僕らは庶民でミリューさんは王族だから距離あるのは当たり前なんだけど、なんてゆーか……」

「先に頭ン中で纏めてから話せっての。でも、アンタの言わんとする事は解るわ。ね、ミリューさん、いえ、ミリュー。アタシ達はもう仲間なんだからさ、気楽に行こっ?」

「つーかアンタの場合、『気楽』の前に『お』が付くけどね」


 横からチャチャ入れしてくるクリスと、やいのやいのとやり取りしていると、ミリューが突然、大粒の涙を溢しながら微笑む。


「え? 何? どうしたの?」

「あ、ごめんなさい。大丈夫です。その、お二方の仲の良さが羨ましくなったのと、先程レイアさんに『ミリュー』と呼び捨てで名前を呼んで頂けた事が嬉しくてつい……」


 あらやだ、も~この子ったら。


「はい、そうですね。これからは私も皆様と、では無くて、皆と対等に話しますね。だって『仲間』だから!」


 そう言って微笑んだミリューの顔は、まるで薄雲が消えた後の湿った大地を照らす太陽の様だった。

 ……ま、暫くは口調が混然としてるだろうけど。


「んで、そのソード・ライフルと王子様にはどんな関係があるワケ?」


 まさか王族御用達の武器でもあるまいし。


「特殊な形状のソード・ライフルならば、我が王室に代々伝わる物である可能性が高いのです」


 まさかキタ!


「もしもそのアイル様が、王家に伝わるソード・ライフルをお持ちであるならば、やはりその方は兄様である可能性が高いと思います」

「そっか~……じゃ、当面の目的はそのお兄様と思われるアイルを探す事ね」

「まだまだ謎はてんこ盛りですけどね」


 アストにしては珍しく意味深な事を言う。


「アスト君、てんこ盛り、と言うと?」

「そりゃあDOOMの事とか、この国で起こってる事とか」

「二つだけじゃない」

「いや、それだけじゃないですよぉ」


 アストが何か言いたげだが、取り敢えず無視する事にした。だって、メンドいんだもん。


「ま、いいや。行きましょ!」


 薄明るい中、今が何時なのか分からないけどそれなりの時間になってるだろうし、何よりお腹が空いてきたわ。ついさっき食べたと思うんだけどなぁ? こんなんじゃ女子失格かも。


「ところでシン、アンタ達が乗って来たシャトルって何処にあんの?」

「ああ、それならこの先にある村の村長さんに頼んで保管して貰ってるよ」


 村? 街でも町でもなく? う~ん、お祭りやってんのかしら? つーか、DOOMの脅威に晒された中で祭りをやるなんて、なかなか肝の据わった連中よね。


「んじゃ、その村へ行きましょ。何か手掛かりが掴めるかも知れないし」




 村への道すがら他愛の無い話をしていると、どこで仕入れたネタなのか、シンがとんでもない事を言い出した。


「ところでパイ君。確かホワイト・ドラゴンは変身出来る、と、ある伝承で聞いた事があるのだが、それは本当なのかい?」


 何ですと!?


「シンさん、それって本当なんですか?」

「いや、ボクも聞いた事がある程度だし、丁度、目の前に本物がいるんだから、伝承は本当なのか検証してみようかと思ってね」


 平然と言い放ちながら、眼鏡のブリッジを中指で押し上げるシン。この仕草、なかなかイラッと来るわね。

 当事者であるパイちゃんは小首を傾げながら細長いふわふわ尻尾をふりふりしている。ぐふぅぅ……悶え死にしてしまいそうだ……


「検証ってシンさん……まぁ、何があってもおかしくない時代だし、僕も今更驚きゃしませんけどね」


 アストの言う通り、何が起こってもおかしくない世の中、不思議な事はまだまだ山盛りてんこ盛りだ。ま、その恩恵に預かってアタシ達みたいな職業が成り立つんだけど。


「で、パイちゃん。実際のトコどうなの? 変身なんて出来るの? イケメンに変身出来る?」


 余計な一言を付け加えたクリスの問いに困惑の色を隠せないパイ、とミリューとジェフ。


「私はパイが変身出来るなんて聞いた事も無いですね。ジェフは何か知っていますか?」

「いえ、私も長年生きていますが、パイが、と言うよりもホワイト・ドラゴンが変身するなどとは聞き覚えがありませんね。しかし、闇の者が人間に擬態する、と言う話は聞いた事がありますな」


 貫禄たっぷりに腕組みをしたまま答えるジェフ。

浅黒い肌が似合うような似合わないような……ジェフって一体何歳なのかしら? 機会があったら聞いてみよっと。

 それよりも……


「闇の者、って?」


 いわゆる魔族とかって輩の事かしら?


「オイラ達は光の者とかコスモスとかって言われてるけど、闇の者、カオスとも言われてる奴らは、人間なら誰でも持ってる悪意とか憎悪とか罪の意識とか、そう言うダークサイドに潜り込み、憑依して、人格を破壊して生まれるんだよ。闇の者の中でもファヴニルって奴は一番危険なドラゴンだよ」


 え? ドラゴンに悪い奴がいる?

 アタシが知る限りでは、元々人類の祖はドラゴンである、と言う説がある事だ。まぁ、それは諸説紛々。何が正しくて、どれが本当なのかなんて誰にも分からない。

 当然、アタシは興味が無い。今、こうして生きている事がアタシの全てなのだ。先祖だか子孫だか知ったこっちゃない。でも、善悪の判断くらいはアタシにでもつく。アストやクリスにシン、ミリューもジェフも、パイちゃんが善だって分かってる。

 結論。パイちゃんは変身出来ない。変身出来るのは悪い奴だけ、って事かな。


「オイラ、変身は出来ないけど、おっきくなる事は出来るよ。でも、疲れるからやんないけど」


 前言撤回。おっきくなるって、十分変身じゃない? まぁ、害は無さそうだから良しとするか。

などと実のある(?)話をしつつ、長閑過ぎる風景を楽しみつつ、雑草がのさばり放題の道をてくてくと歩き、足が棒になる前には件の村へと辿り着いた。辺りが薄暗い道中、アストは会話に出てきた魔族に襲われやしないかとビクついていたが、日頃の行いが良いお陰でそんな事は無かった。




 ま、アタシ達を襲う奴らなんて、そうそういないと思うけどね。

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