第1話 カルナバル・ソワレ(Ⅰ)
目の前に居るのは……誰……?
何故……アタシを見ているの……?
いやっ! 来ないで……やめて……
誰か……助けて……
そして、光の粒子が拡散していく……
「ん……ぅん……ここは……?」
ゲートの中は、さながら光の通り道の様で、アタシ達はまるで空を飛んでいる感覚だった。そのゲートを通る時に包まれたあの光の中、僅か数十秒の間だと思うけど、何だか夢を見ていたみたいだった。
それが何であったかは……忘れちゃった。
でも、とても懐かしい風景を見ていた様な気がする。
それがどこで、いくつの頃に見た景色なのかは定かじゃない。
遠い記憶。
懐かしい景色。
そして……二度と思い出したくもない記憶。
出来る事なら永遠に封印しておきたい記憶。黒歴史なんてモノじゃ無く、単純に消し去りたい過去。
誰にだって一つや二つくらい、人に言いたくない過去とかってあるじゃない? アタシの場合はそれが、他人よりもちょびキツめだってだけの事。
それに、ミステリアスな女ってカッコいいじゃない? 最近のマイブームがカッコいい女なのよね。
それは良いとして。
「ここが夕闇の国かしら?」
辺りを見渡すと、確かに薄暗い。そして、明星の国と決定的に違うのは、ザ・ド田舎であると言う事。
辺り一面に広がる長閑過ぎる田園風景に豊か過ぎる森に、軽くデジャヴを覚える。更には、舗装された道路など何処にも無く、アストの一言が全てを物語っていた。
「見事に何にも無いトコですね」
「オイラは久しぶりに来たけど、やっぱり落ち着くトコだなぁ」
パイちゃんって野生の世界で生まれたのかしら?
「私も何度か訪れた事がありますな」
食材調達とかかしら。だったらサツマイモフルコース以外にもあったのではないだろうか。今度作ってもらおう。
「それでしたら、ここから先の道案内はジェフにお願いしてもいいでしょうか?」
「かしこまりました、お嬢様。それでは、ここからは不肖私めが皆様の先導役を引き受けましょう。そう言えば、お二方はここにシャトルで着陸なさっていたのでは?」
そう言えばそうだ。シンとクリスは元々自前のシャトルで夕闇の国へと降り立ったのだった。帰りは一緒に乗せてって貰おう。
「シンとクリスはこの国について何か情報を得たの?」
「それがさぁ、聞いてくれるぅ? この国の人達ってさぁ……」
「ボクには到底理解出来ない」
コイツに理解出来ない事って、案外フツーの事だったりするんだけど。
「まぁ、異常な光景だったわね、アレは」
埒が明かない。何なのよ一体?
「ジェフ、どーゆー事?」
「毎日お祭りをしているのです。私が以前訪れた際にもお祭りをしておりました。あの時は確か、獅子座を祝う祭りだったかと記憶しております」
……駄目だ。全く意味が解らない。獅子座を祝う? 何で星座を祝うのかしら?
ってゆーか……
この国には人が居る。つまり、DOOMはこの国には手を出していない? でも、DOOMはこの国に居たのよね? それなのに何故、明星の国の人達が?
「あのお方がいたからよ!」
アタシの疑問に対してクリスが何故か目を輝かせながら答える。
コイツがこーゆー目をする時は決まっている。アタシとおなじくカワイイ物を見つけた時か、もしくは、イケメンを見つけた時だ。この場合は……うん、イケメンだな。
「で、あのお方って誰よ? アンタのお眼鏡にかなうイケメンはどんな人なワケ?」
「それなんだけどね、残念ながらハッキリと顔を見た訳じゃないんだけどさぁ……ワタシ達がこの惑星に降り立った時、ジャストタイミングでDOOM達がこの国を襲撃してて、それに巻き込まれたのよね。その時に助けてくれたんだけど、確か名前は……そう、アイルって名乗ってたわ。後ろ姿がもうカッコいいったら。あ~ん、もぉ~」
両腕で自らの身体を抱きしめくるくる回り出す。あ、クリスの目が逝っちゃってるわ。
「彼が持っていたソード・ライフルが少し形状が変わっていて興味深かったのを覚えているよ。あれは研究してみたかったなぁ」
こっちも違う意味でイッちゃってるなぁ。
「そのソード・ライフルはどんな形でしたか!?」
シンの話に意外にもミリューがどえらい剣幕で食い付いてきた。
「どんなって、う~ん……しっかり確認した訳じゃないけど、そういえば通常のソード・ライフルよりも刀身が若干長かったような気がしたなぁ」
「まさか! でも、その方はアイルと名乗られたのですね?」
「ええ、そうよ。嗚呼……アイル様ぁ~……」
そう言って再び恍惚モードに入るクリス。
しかし、ミリューの様子はクリスとは違うみたいだ。ミリューだけじゃない。ジェフとパイちゃんの様子もどこか不自然だ。
「お嬢様、もしや?」
「そのアイルってお前の?」
「兄様……?」




