第4話 悪意の存在理由(Ⅰ)
来た。
アイツが、来た。
アタシが探し求めていたアイツが。
心の奥底から、一刻も早くこの場から逃げ出したいと思うのだけれど。
心の奥底のさらに奥底では……
アイツに逢いたいと切に願うアタシがいる。
ん? アタシは一体何を? 今、何かす~~~っごいアホな事、考えてなかった?
短く息を吐いて、ざわつく鼓動を静めると、ちょび冷静になれた。
「アスト……カメラ……OK?」
「カメラ……忘れました」
ゴクリ、とアストが息を呑む音が聞こえる……って、何だと?
「オイゴルァァァァ! こんな大スクープを目の前にして、お前は何をさらしとんぢゃあぁぁぁぁ~~~!」
「す、すいません~~~! ご飯食べるだけだから部屋に置いてきちゃいました~!」
このタワケめ! ま、しゃーないか。
それにしても、さっきのアタシは一体何だったのだろう?
まるでアタシの中にもう一人のアタシがいるようなって、んな訳あるか! アタシはアタシだっての。大体、こんなのがもう一人いてたまるかっての。
そんなアタシ達をさて置いて、ゲートはジワジワと大きくなり、最早逃げ出すタイミングを失ってしまった。
「……さっさと逃げれば良かったですね」
アストの言葉に一同が頷く。全く間抜けな話だ。でも、スクープ写真を逃した方がよほど間抜けだわ。
ゲートは完全に姿を現し、そして、どこからともなく声が響いてくる。
「クックックッ、そんな所にいらっしゃいましたか、ミリュー姫」
低く籠った声……コイツがDOOM……?
漆黒のマントを纏い、ってのはお決まりのパターンの姿。目も白眼なんか無くて、黒眼オンリーってのもありがち。一目見ただけで分かる。『あ、この人、悪い人』って。
「DOOM! キサマよくもっ!」
ジェフが左手のアタッチメントをビームガンに交換する。めっちゃカッコいい……
DOOMが姿を現すや否や、ジェフのビームガンが火を噴く! 豪快な爆発音を轟かせ、DOOMにヒットする。が……
「今のオレは残留思念を具現化した状態。そんなオモチャは通じぬ」
「御本人登場、ってワケじゃないってか。残念ね、直接インタビューしたかったわ」
残留思念とは言え、禍々しいオーラみたいな物は感じる。
「レイアさん、コイツは危険です!」
アストもどうやら感じているらしい。
「DOOM! 貴方は何故、こんな事をするのですかっ!」
ミリューが怯む事無く言ってのける。王女様の片鱗が垣間見えるわね。
「オマエ、絶対に許さないかんなっ!」
パイちゃんも果敢に吠える。う~ん、ぷりちぃ。
「お嬢様、危険ですからお下がりください」
「フン、今はお前らに用は無い」
そう言い放ったDOOM(残留思念体)は、ゆっくりとアタシの方を向く。え、何? アタシ?
「お前の中には、何がある?」
「はぁ? 何寝惚けた事言ってんの? アンタにはアタシがどう見えてんのよ?」
初対面のレディに向かって何言ってくれちゃってんのかしら? アタシの中に何がある、ですって?何も無いわよ。アタシの中にはアタシがあるだけ。以上。
「それよりも、アンタには聞きたい事が山程あるのよね。取材を申し込んでも良いかしら?」
相手が誰であろうと取材にはアポを取る。これ、アタシのポリシーね。
「ちょ、レイアさん! こんな時に何でまた?」
「シャーラップ! こんな時もガンモドキも無いでしょ! アタシ達はジャーナリストなのよ? 今、眼の前にスクープが転がってんのよ? 取材するしかないでしょーが!」
「でも、危険過ぎます!」
「危険を恐れてちゃ、ジャーナリストなんて出来ないわよ!」
アタシとアストの会話はミリュー達を完全に置き去りにしている。しかし、この男だけは違っていた。
「ジャーナリスト……だと? フン、そうか。では、あの二人とも顔見知りという事か」
「あの二人? それってもしかして……」
「クリスさんとシンさんですかね?」
あの二人、既にDOOMと接触していたのか? しかし編集長の話では連中は違うネタを追っているハズ……いや、待てよ。確か、こんな感じの事も言っていたハズだ。
『DOOMにはキナ臭い噂がある』と。
二人はそれを調べているのか?
キナ臭い噂ってのが気になるけど。でも、アタシ達はアタシ達の仕事をするだけね。
「あの二人の仲間なら、ここで消しておくべきかも知れんな」
アイツら、何やらかしたのよ?




