第3話 ミリュー・シギュン・パーラ(Ⅱ)
駄目だ。
疑問が浮かんでは消えずに、頭の中をふよふよと浮遊して彷徨ってるよ。
「ところで、ミリューさんのお兄様、つまり、この国の王子様はクーデターが起こった時、何をしていたのかしら?」
「兄は、他の惑星に行っておりました」
「他の惑星?」
いつの間にかオーダーしていたカフェオレ……では無く珍しく紅茶を飲みながらレイアさんが問う。食後の紅茶を美味しそうに飲むレイアさんを見ていたら、僕も何か飲みたくなってきたので緑茶を頂く事にした。
やっぱり緑茶だよね。落ち着くよねぇ。
ミリューさんはフレッシュジュースを、パイはアイスミルクをオーダーする。程無くして、其々がオーダーした飲み物を運んで来るなり、ジェフさんが語り出す。
「お嬢様の兄上様であらせられるアイン様は当時、陛下の命で極秘の任務を遂行なされていたのです」
「極秘任務? 何故そんな事を一国の王子がしなければならないのよ?」
「アイン様は武勇に秀でておりましたし、この国でも一番のソード・ライフルの使い手でありましたから、他に任務を遂行出来る人材がいなかったのです」
ソード・ライフルとは、簡単に言えば、ライフル銃と剣が合体した武器だ。しかしながら、ソード・ライフルは扱いが極端に難しく、一般的にはソード・ガンが主流である。
ソード・ガンは、ソード・ライフルよりも扱いやすく、刃渡りも30㎝程でハンドガンサイズだ。
一応、僕もレイアさんもソード・ガンを携帯している。
対してソード・ライフルの刃渡りは70~80㎝程あり、名前の通りライフルサイズである。
今のご時世、ある程度の武器の所持は許可されており、ハンドガンクラスなら携帯可だ。ま、何が起こるか分かんない世の中だからね。それに、自分の身は自分で守らなきゃならないし。
物騒な世の中、と言われればそうなのかも知れないけれど、実際は未開の地へと赴く際の護身用の意味合いが強いのだ。
この惑星も例外ではないと思うけれど、まだまだ未開の地は多く、それに伴って未発見の生物も数多くいる。いわゆるUMAというヤツだ。
パイみたいに人畜無害なヤツもいれば、無差別に襲い掛かってくるヤツもいる。実際に、ある惑星で発見されたUMAに襲われた事例もある。
ま、UMAに遭遇した時にソード・ガン程度ではひとたまりも無いけど、気休め程度にはなるだろうか。しかし、ソード・ライフルとなると話は別だ。なにせ、扱いが難しい。そして、特別な訓練が必要になる。
僕は実際に訓練を受けた訳じゃないから詳しくは分からないけど、聞いた話では、講習――というよりは修行と言った方が良い――に一年以上掛かるらしい。それだけを聞くと「何だ、意外とラクショーじゃん」と思うかも知れないけど、これがどうやら想像以上に過酷な訓練らしい。いや、あくまで聞いた話だから、実際はどうなのかは知らない。だって、取材した事ないもん。
「んで、その極秘任務から王子様は戻ってきたんでしょ? どうなったの?」
「アイン様がお戻りになられた頃にはDOOMはこの国の全ての実権を握り、国民を全て洗脳し、ここにおられるミリュー様とパイを残して常夜の国へと去って行きました」
「ミリューさんに聞いた話と同じね」
「兄はそのままDOOMを追って常夜の国へと向かいました」
「わおっ! 何て血気盛んな王子様! ちょっと興味あるわね」
レイアさんはそういうタイプが好みなのか!
「じゃ、じゃあ、直ぐにでも後を追った方が良いんじゃないですか? ね?」
「アンタ、何焦ってんのよ? いいじゃない。ここまで来たら、今更あたふたしたってしょーがないわよ。まぁ、向こうが来てくれんなら話は別だけどさ」
さらっと恐ろしい事を言う。今来られてもどうしようも無いのに……
努めて冷静を装っていたが、ミリューさんの一言で僕の体内の血液が無くなるのではないかと思えるくらい、血の気が引いた。
「レイアさん、滅多な事を仰らないで下さい。DOOMは、時空を超えてやってきますから」
「何それ!? テレポートでも出来るっての?」
テレポートなんて出来るわけが無い。そんなのは最早、魔法だ。
「実は、トラベラーズ・ゲートを設計し設置したのはDOOMなのです」
「「DOOMが!?」」
僕とレイアさんは、ほぼ同時に声を上げた。
にわかには信じられない話だけど、まぁ、確かにあれだけの科学力を持つDOOMなら納得せざるを得ないのかも知れない。
でも、時空を超えて、って言うのは科学力なんて物じゃない。魔法か手品か。うん、手品だな。きっとトリックが有るハズだ。
「DOOMは、ゲートを自在に操作する事が出来るようなのです。詳しい原理等は私には分かりませんが」
そう言い終えた矢先、パイの様子が一変した。
「ミリュー……嫌なニオイがする……このニオイは……」
パイの尻尾がピンっと真っ直ぐに立つ。これは、威嚇……しているのか。
だとしたら一体誰に対しての威嚇なのだろうか。
「パイ、もしかして……?」
「来るぞっ!」
その刹那、僕達の目の前の空間が歪み始め、扉らしきモノが浮かび上がってきた。
「ミリューさん、これは一体何なの?」
「DOOMです。あの男が……あの男が来ました!」
マジでテレポートしてきたのだ。レイアさんが縁起でもない事を言うからだ、と、心の中で呟く。
緊張からなのか、それとも恐怖からなのか、僕の掌がジットリと汗ばむ。そして、右手は無意識にソード・ガンのグリップを握っていた。
ミリューさんもパイもジェフさんも既に臨戦態勢をとっている。
そしてレイアさんは……
椅子に座り足を組んだまま、ただジッと『ソレ』を見据えているだけだった。




