第2話 これがサツマイモの底力ぁぁぁ!(Ⅰ)
トラベラーズ・ゲートは思いもよらない場所にあった。ってゆーか、反則?
「ここって……ミリューさんのお店、ですよね?」
アストが半ば絶句しながら言う。まぁ、気持ちは解らなくもない。アタシも言葉が出ないのだから。
正確には、お店がある場所の路地裏にあたる。案内して、とは言ったが殆ど移動してないじゃない!
「実は私、トラベラーズ・ゲートの運行管理も行っておりまして。まぁ、今となっては誰も利用者がいないのですけど」
そう自嘲気味に話すものの、アタシ達としては肩透かしを食らった気分だ。
やはりこういうモノは、どこぞかに隠し通路的な物があり、その奥にひっそりと隠されてる、みたいなイメージがある。それなのに、こうもあっさりと出てくるなんてさぁ……肩透かしもいいトコだ。
「まぁいいわ。何だか腑に落ちない気もするけど。とりあえずここを通れば常夜の国、じゃなくって、夕闇の国へ行けるのね?」
アタシ達の眼前にそびえ立つ門。これがトラベラーズ・ゲートなのか……
見た目は、どっかのセレブのお屋敷の玄関にあるような仰々しい感じで、あちこちに様々な動物を模したレリーフ装飾が施されている。門の奥には扉が見え、やはり扉にも絢爛豪華な装飾が施されている。
……何で?
何でこんなにハデなの? ハデにする意味、有る? 成金趣味ってヤツかしら? 隣では、アストが緊張しているのか、妙にそわそわと落ち着きが無い。そのせいか、アタシまで緊張してしまう。
「レイアさん。この門の向こうに、あるんですね」
「そうね。よし、善は急げのタイム・イズ……」
「マネーだ!」
アタシ達の緊張をパイちゃんが和ませてくれた。
うむうむ、愛い奴ぢゃ。
意気揚々と一歩を踏み出そうとした矢先、アストの一言で転機を迎える事となった。
「あ、ちょっと待って下さい! ホテルのチェックアウトが済んでいません。チェックアウトを済ませないと!」
「ホテルを取っていらしたんですね? それなら、チェックアウトをしておいた方が良いと思います。しばらくは帰って来れないと思いますから」
むぅ、チェックアウトかぁ。やっぱ、しなきゃダメかな? ま、ミリューもこう言ってるしなぁ。少しメンドいけど、一旦ホテルに戻りますか。
「オイラ、一度ホテルってトコに行ってみたかったんだよね」
そんな大層なモンでも無いと思うんだけど、この子からしたら未知の世界なのかも。
これからアタシ達が向かう常夜の国も未知の世界なのだから、アタシ達もパイも同じ穴のナントカなのかな?
「ホッテル♪ ホッテル♪」
何で小躍りしてんだろ? でも、やっぱカワイイなぁ、コイツめ。
「レイアさん、何ニヤニヤしてんですか?」
うるさい。
ホテルは幸い(?)にも近くだったので、そう時間も掛からず戻ってこれた。つーか、この惑星に来てからというものの、行動範囲が異常に狭くない?
そして、サックリとチェックアウトを済ませて、再びトラベラーズ・ゲートまで戻って来る……ハズだった。
「オイラ、こんなフッカフカのベッド、初めてだぞ~っ♪」
「私も久しぶ……いえ、初めて、です……」
ん? 今ミリューさん、何か言いかけた?
ま、それよりも。
「あ~~~っ! 何か部屋に戻ってきたらまた外に出るのがしんどくなってきた~っ!」
こーゆー事ってよくあるわよね? アタシだけかしら? それにお腹空いた~~~っ!
「レイアさん。提案なんですけど、常夜の国へ行くの、明日にしません?」
そう言うアストのお腹から情けない音が聞こえてくる。
アタシに聞かれたのが恥ずかしかったのか、少しバツが悪そうだ。お前は乙女かっ!
「オイラもハラへったー!」
「私も、そう言えば今日は朝食を食べてないのでした」
アンタ達もかい……かく言うアタシもカフェオレを飲んだっきりだわ。
全員ハングリー状態……腹が減っては何とやら。メシ食ってリキ入れて気張っていきましょかね。アストの言う通り、明日出発でもいいかな? 今から外に出るのもメンドいし。
「ねえ、ミリューさん。出発するのは明日にしない?」
と、口にしたところで、ふと思い出した。
そう言えばこの国では夜という概念が無いのだから、明日という概念も無いのでは? しかし、そんな思いはただの杞憂に終わった。
「そうですね。ご飯を食べて、一休みしてから行きましょう。兄ならきっと大丈夫です。兄ならきっと。それに、パイがここを気に入ってしまってますし」
そのパイに目をやると、嬉しそうにベッドの上を跳ね回っていた。
「フッカフカだーっ♪」
あああ……アタシの寝床がぁぁぁ……くそう……カワイイから許す!
アタシの心は血の涙を流した。