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第1話 フードとサングラス(Ⅱ)

 僕は目を奪われた。フードの下にかくされていたその顔は、隠すのが勿体無い程の美少女だったからだ。いや、それもあるのだけれど、本当に目を奪われたのは、その瞳の色だった。

 燃えるような朱色シナバーの瞳・アイ。

 今までに見た事の無い色だった。レイアさんの瞳の色はスカイブルーで、僕は少し茶色がかった黒。ロイス編集長は、いつもサングラスを掛けているから良く知らないけど、レイアさんの話では普通に茶色らしい。

 整った顔立ちと、黒髪のショートヘアー、そしてシナバー・アイに見惚れる訳では無いけれど、何故だか目が離せなかった。それはただ単純に物珍しさから、なのかも知れないけれど、やっぱり見惚れていただけなのかも知れない。


「アスト、口を閉じな」


 レイアさんに言われてハッとする。口が開きっぱなしだったとは……恥ずかしい。


「綺麗な朱色シナバー・アイね。珍しいけど、この惑星の人達はみんなその色なのかしら?」

「いえ、私と兄だけです。この瞳の事は誰にも言わないで下さい!」


 突然の懇願に僕達は面食らった。


「どうして? 綺麗な色じゃない。アタシは好きよ、その瞳」

「ぼ、僕も……好きですよ……なんとゆーか……ずっと見ていたい気持ちになりました」


 言葉が上手く出てこないから、何と言えば良いのか分からない。でも、一つだけ確実に言えるのは、ミリューさんの朱色シナバーの瞳・アイが綺麗だと言う事だ。

 言葉を考えていると、隣のレイアさんが何事か呟いたのだが、小声だったためはっきりと聞き取る事は出来なかったけど。


「……天然ジゴロ……」

「この惑星では朱色シナバー・アイは魔族の瞳と言われて、昔から忌み嫌われてきたんだ。ミリューのひいばぁちゃんもそうだった」


 パイの声のトーンもどこか物悲しげな感じだ。

 文化や環境が異なるだけで、こんなにも捉え方が違うものなのか? でも、そんな事は僕達にとってはそんなに関係が無いんじゃないだろうか? 関係が無いと言うには少し語弊が有るかもしれないけど、それでも……


「それが何だって言うんです? この惑星の住人じゃない僕達からすれば魔族の瞳とか、そんなの関係無いですよ」

「そうね、アストの言う通りよ」


 僕の言葉にレイアさんも同調してくれる。何故か腕組み仁王立ちだが。


朱色シナバー・アイが魔族の瞳? それが何だっての? じゃあ、アタシのこの青い瞳は何? 瞳の色で全てを決めて欲しくないわね。世の中には瞳の色はおろか、肌の色が違う人もいる。髪の色だってそう。大事なのは、その人間の中身よ。イイ奴か、そうでない奴か、そんなのは外見だけでは決して判断出来ない事だわ」


 胸の奥から熱いモノが込み上げてくる……

 ふとミリューさんを見ると、その瞳の端から一筋の雫がこぼれ落ちる。その雫は彼女の胸元から顔を出しているパイ(羨ましい……)の頭へと落ち、振り払うように小刻みにプルプルと震えている。


「お前、イイ人間だなぁ! よしっ! ミリュー、この人間達と一緒に行こう!」


 振り払っていたと思っていたが、どうやらパイもレイアさんの言葉にうち震えていたようだった。ってゆーか……そんな簡単に決めていいのか?


「パイ、本当に良いの?」

「オイラは、このおねーさん達ならだいじょーぶだと思う」


 そう言って、ミリューさんの胸元からピョコンと飛び出してきたパイは僕の元へ、は来ず、レイアさんの胸元へと潜り込み、モソモソと動きながら体勢を整え、再び顔を出した。僕もドラゴンになりたい。レイアさんも、そんなパイを迷惑がるどころか、逆に歓迎しているようで嬉しそうに頭を撫でている。


「幸運を呼ぶホワイト・ドラゴンも味方に付いた事だし、いざ行きますか!」


 あ~、やっぱり行くのか。仕方ない! 僕も腹を決めて気合いを入れますか!


「じゃ、ミリューさん。ゲートまでの道案内、ヨロシクね♪」


 そんな軽いノリでいいのだろうか?


「はい、分かりました。今からもう出発なさいますか?」

「もっちろん! 善は急げのタイム・イズ・マネーよ♪」

「マネーだーっ♪」


 レイアさんとパイのよく分からないシュプレヒコールが辺りに響き渡ったが、多分、パイは意味も解らず言ってるんだろうなぁ。こーゆートコがガキと言うか、とても僕より長く生きてるとは思えないんだけど。

 何だかよく分からない決起集会(?)が終わったと同時に、僕のモバイルに着信が届いた。画面を確認すると、口元がにやけたサングラスのオッサンの顔がどアップで映し出されて一瞬怯んだが、よく見れば我がロイス・ジャーナルの編集長兼社長のロイス氏であった。

 僕は慌てて近くの壁にモバイルからプロジェクター投影した。


「アスト、誰から?」

「編集長ですよ!」

「うげっ!」

『ちょっと、ちょっと~! いきなり『うげっ』は無いでしょ~?』


 壁にはサングラスを掛けた、どこからどう見ても怪しいオッサンが映し出されている。


「あっちゃ~……聞こえてたか~」

『ばっちり聞こえちゃったよ~、レイアちゃ~ん。アスト君も元気してるかね~?』

「はぁ、まぁ、お陰様で」

『なっかなか連絡が来ないから~、お父さん心配になっちゃって連絡しちゃったよ~』

「誰が誰のお父さんよっ!」


 相変わらず調子の狂う人だ。でも、レイアさん曰く『サングラスの奥の目は、微塵も笑っちゃいない』そうだ。


『おや~? レイアちゃんとアスト君はもちろん見た事はあるけれど、一人見かけない子がいるねぇ~? そ~れと~、お? ホワイト・ドラゴンかな~? こりゃ~珍しいねぇ~!』


 やっぱりパイの事をホワイト・ドラゴンだって分かるんだ。分かんなかったのは僕だけ?


「ところで編集長。一体何の用? アタシ達、これでも急いでんだけど?」

『おいおい、つれない事を言うもんじゃないよ~? これでも心配してるんだからぁ~。大体、レイアちゃんが定時報告をくれないからいけないんじゃな~い?』

「あ、それはゴメン。アタシもしようとは思ってたんだけど、なんやかんやで時間が取れなくてね」


 レイアさんとロイス編集長は、仲が良いのか悪いのか、僕にはよく分からないが、上司と部下という感じはしない。かと言って、親密なパートナーという感じでもなく、ビジネスパートナー、と言うにも少し違う感じだ。友達感覚、と言うのが一番しっくり来るような気がする。まぁ、実際のところは上司と部下なのだけど。


『ところで、今の惑星ロキはどんな感じだい?』

「どんな感じって、まぁいいや。ついでだから定時報告しとくわ」


 レイアさんがこれまでの事を編集長に報告している間に、僕は僕なりに考えをまとめてみる事にした。

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