第1話 フードとサングラス(Ⅰ)
あの太陽が疑似太陽だという事は、あの場所にずっと止まっている、と言う事。となると、今が何時だとかはそう大した問題ではないのだろうか? う~ん、僕のアタマじゃ考えたって分かんないや。
レイアさんに至っては、常夜の国に行く気満々だし。てゆーか、そもそもどうやって行くんだろう? レイアさんも同じ事を考えていたようで、ミリューさんに問い掛ける。手っ取り早く飛行機や船でもあればいいんだけど。
「ここから常夜の国へ行く手段は、残念ながらありません」
「う~ん、そう来たか。いや、ちびっとはその可能性を考えてたのよね。でも、ま、手段が無いなら作るしかないか」
この人の考えはいつも僕の上を行く。たまに斜め上だけど……でも、だからこそ僕はこの人についていこうと思えるのかも知れない。この人に追い付いて、追い越せる日は果たして来るのだろうか?それは今は考えないでおこう。
「常夜の国へ行く手段はありませんが、夕闇の国へなら行けますよ」
「あら、そうなの?」
夕闇の国へ行く手段が有るのなら、常夜の国へ行く手段も有るのでは? 普通に考えたら、誰だってそう結論付けるのではないだろうか。
「ミリューさん、夕闇の国へ行く手段って一体何ですか?」
いや、分かってるよ? 普通に考えて船か飛行機だろうって。でもねぇ、なんか僕の中の常識が通用しないんじゃないかなぁ~って思うんだよね。こんな時、決まって僕の目の前にいる上司サマに言われるんだよなぁ。
「アスト、常識に捉われちゃダメよ。この世の中、常識じゃ計り知れない事なんて掃いて捨てる程あるんだからね」
ホラ、やっぱり言われた。
「じゃあ、レイアさんはどう考えてるんですか?」
「そうねぇ。例えば、ワープみたいな?」
みたいな? じゃないでしょうに。流石にそれは無い……
「よくお分かりですね! もしかして御存知でしたか?」
あんのかよっ!
「トラベラーズ・ゲートという物がありまして、そこを通れば夕闇の国へ行く事が出来ます」
事も無げにミリューさんが説明してくれたが、よく分からない。何が分からないって、何が分からないのかが分からない。あ、トンネルみたいな物かな? うん、そうだ、それなら、や、ワープって言ってたよな。ワープ? え? どゆこと?
「え~っと、よく分からない事だらけなんですケド……?」
「行けば解るわよ」
「行けば解ると思います」
「迷わず行けよ!」
三人、もとい、二人と一匹から同時に言われてしまった。
「って、昔の偉人がそんな名言を残してるわよ、アスト」
偉人の名言を引き合いに出されてもなぁ。先行きに不安しか見えないよ。
「んで、そのトラベラーズ・ゲートってのはどこにあるのかしら?」
うわ、火が付いてるよ、この人。
「本当に行かれるのですか?」
不安そうに、と言うよりは、決意を確認するかのようにミリューさんが言うけれど、僕には不安しか無い……しかし、そんな僕達の不安をよそにレイアさんは間髪入れず言い放った。
「ええ、行くわよ。当然じゃない」
さも当たり前のように言うなあ。この人は不安とか恐怖と言った言葉を知らないのだろうか?
「分かりました。では、ご案内いたします」
その言葉に反応したのは、レイアさんでも僕でもなく、パイだった。
「ちょ、ちょっと待てよ、ミリュー! 本当にコイツらを連れていくのか?」
ミリューさんの肩から飛び降り、僕達3人の前に立ちはだかるパイに対し、ミリューさんはしゃがみこみながらパイと対峙する。
何故かパイの後方でレイアさんが、ふかふか尻尾を恍惚の表情で眺めていた。
「連れて行くと言うより、私達がお供するって言う方が正しいかも知れないわ」
「お供って、どういう事ですか?」
暫しばし俯いたまま、何かしら考え込んでいたが、やがてそのままの姿勢で話し始めた。
「兄が、私の兄が常夜の国にいるはずなんです。私は兄を探さなければなりません。お願いです! 私達を一緒に常夜の国まで連れて行って貰えませんか?」
さらに深々と頭を下げ、そして勢いよく頭を上げた瞬間、目深に被っていたフードがその反動で捲り上がった。
「あっ……」