兄は今日も激昂する
短い!!
「――もう、四日だ」
誰かが、ぼそりと呟いた。それは暗に、もう諦めた方がいいと告げていて。それはどう考えても、『懸命な判断』という奴で。ディンは頭が煮えるのを自覚した。
「ふざっ――けるな!」
激情を吐き出して、目の前に立つ男たちを、これでもかと睨みつける。村一番の狩人の睥睨に、村人たちは揃って目を逸らす。
ユリスがバインスに入ってから六日、ディンが村に戻り、ユリスが戻ってこないことが問題視され初めてから、四日が経過していた。村人たちは何度もバインス山脈に入り、ユリスの捜索をしている。だが四日前に確認された大規模な地響きのこともあり、村人たちは消極的だった。ディン以外は経験が少なく、そこまで奥深くへは行けないということもある。
「で、でもよ」
ディンに顔を向けて声を発したのは、鍛冶屋の息子のドリスである。彼は泣きそうな顔をしながらも、しっかりとディンに意見した。
「お、俺たちにだって生活がある。ユリスちゃんの為に、それらを全部放り出すわけには行かない。そうだろ?」
「お前――!」
冷静な意見。冷酷とも言える。ディンは自分を抑えられなかった。
ドリスの襟首を掴み、締め上げる。泡を食って引き剥がそうとする村人たちに構わず、「ぐぇ」と声を上げるドリスに鼻がくっつきそうなほど顔を寄せて歯を剥いた。
「今度巫山戯たこと言ってみろ、前歯を全部叩き折ってやる!」
半歩下がったドリスはしかし、引き剥がされて羽交い締めにされたディンに向かって、精一杯の虚勢を張って言い返した。
「お、俺は間違ったことは言ってねえ。ユリスちゃんは心配だが、どう考えても四日前の地響きでどっかに落ちちまったとしか思えねえ。だって、あそこでぱったり手がかりが途絶えてるんだろ?」
地響きの現場と思われる場所は、木がごっそりと抉れ、岩が砕けて、その時の破壊の凄まじさを物語っている。その手前の森の中で、ユリスの矢筒が見つかっているが、彼女がその後どこへ行ったのかは分かっていない。――が、岩場のすぐ近くに谷があり、その底にも姿は見えなかったことから、生存は絶望的だった。
「……く、それは、そうだけど」
曲がりようのない事実を突きつけられ、ディンは消沈した。羽交い締めが外される。
「――ま、まあ、捜索はもうしばらく続けよう。俺たちは現場までは付いて行けないけどよ……協力するから」
ドリスは、露骨に落ち込んだディンに、気まずくなってそう告げる。「すまない。ありがとう」と小さく呟いて、ディンは自分の家に戻った。今日はもう暗くなる。捜索は、また明日だ。
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