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竜は今日も少し引く

タイトル統一しようとしたのは失敗だった

無理

 騎手、というのは、つまりアレか。

 乗る、訳だな? この巨体の首の付け根に跨るという訳だな?

【……何の、為に】

【お前に興味がある、と言ったろう。こちらとしても一生ものの契約だが、目が覚めて最初に目に付いた人間だ。問題はない】

 刷り込み……。

 ちょっと理由が心外である。

 が、一つ聞き逃せない科白があった。

【一生もの? どういう意味だ?】

【そのままの意味だ。一度契約した相手とは死ぬまで離れられん】

 あまりに重かった。――流石に、腰が引ける内容である。

 ある意味、生涯の伴侶になる訳だ。……いや、ある意味もクソもない。生涯連れ添わねばならない契約だ。

【お友達から……】

【ん?】

【いや、冗談だよ】

【ふむ】

 それはさて置き、魅力的な提案ではある。竜と言えば、誰もが一度は憧れるファンタジーの定番だ。それの相棒になれる、というのである。

 ――無論、そんな短絡的な思考で一生を棒に振れる訳もない。

【それをした時、俺に何か不利益はあるのか?】

【ない】

 こうも言い切られると、むしろ怪しい。

【強いて言えば、我々寄りの存在になることだが……これは、利益と表裏一体の部分があるからな】

【……どういうことだ?】

【寿命が延び、筋力が増し、魔力が増える。五感が強化され、勘が働くようになる】

 ……ふむ。しかし、こう聞くと悪いことなどないように聞こえる。

【――と、いうか、お前には拒否する権利はないぞ】

【は?】

【私がそう決めたのだ】

 それだけ言って――果たして口に出していないのを『言った』と表現していいものか――、竜は俺の身体をうつ伏せへとひっくり返した。

「ぎっ――!!」

 痛い。歯を食いしばる俺に構わず、竜は俺の背をそのざらりとした真っ赤な舌で舐めた。

 ――ジュウッ、と、何か蒸気が吹き上がるような音がした。

 直後に走る、これまでとは比べ物にならない程の耐え難い痛み。

「――――!!」

 声を上げることすら出来ない。意識を手放すことすら出来ない。びくんびくんと無様にのたうち、転々する俺の身体が強引に押さえつけられた。口に、何か熱い――煮えたぎる液体が流し込まれる。抵抗すら出来ず、飲み下した。食道が焼けている気がした。

 身体を内外から灼かれている錯覚に陥る。

 永遠のような、一瞬のような、そんな気が狂うような時が過ぎ、痛みが嘘のように引いていく。


 ――安堵と共に、意識を手放す。



 …………。

 ……。


「――夢」

 かと思って、周囲を見渡す。

 岩場、森、竜。

 どうやら、現実だったらしい。落胆と安堵が半々くらいの割合で、溜め息を吐き出す。《心の糸》を竜へ伸ばした。

【契約、ってのは、済んだのか? 俺はどのくらい寝てた?】

【済んだ。万事問題ない。寝ていたのは二時間というところだ】

 そうか。俺は軽く目を瞑った。

 ……?

 違和感に気付く。

 背中が、痛くない。思わず身を起こし、右肩から肩甲骨にかけて走った痛みに顔をしかめ、背中から倒れ込む。

 ――が、気を失う前のような凄絶な痛みはない。

【契約に使った傷は治るのだ。背中を縦断していた深い傷だったから、丁度よかったと言える】

【……そいつはどーも】

 可能な限り右腕を動かさないようにしながら起き上がり(それでも痛みはあったが)、少し離れた場所に打ち捨てられた弓の残骸を拾い上げる。ぼろ布同然になったシャツを脱ぎ、歯と左手で引き裂いた。弓の残骸を添え木にしてシャツで簡易的な三角巾を作り、右腕と右肩を固定する。随分強く打ち付けたらしく、骨が折れるか砕けるかしているようだ。

【ひとまず、村に帰らないと。――暫く、この山に隠れていてくれ】

【……麓まで送ろう】

 それは、早速乗せてくれるということだろうか。期待と不安に胸を膨らませて――膨らんでも大した大きさにはならない――竜を見る。

【乗せるのは無理だ】

 素気ない反応であった。ならば、あの大口にくわえられていくのだろう。

【片腕が仕えない状態では、まず間違いなく落ちる。よしんば落ちなかったとしてもだ。鞍も着けずに乗ってみろ、鱗で下半身がずたずたになるぞ。】

 なるほど、納得せざるを得ない。確かに、言われてみれば、竜の全身を覆う藍色の鱗は見るからに硬く、更に先端が鋭利だ。

【かと言って、くわえられるのも危ないのでは?】

 竜の吐息はかなり熱い。一度だけならば「熱っ」となるだけで済むが、何度も浴びせられると考えるとぞっとする。

【くわえるのではない。掴むのだ】

 ……鉤爪を見ると、そちらの方がよっぽど危ない気が。

 まあ、どうせ今の俺では体力的にも体調的にも無事に下山するなど無理もいいとこだ。運んで貰う方が可能性が高い。

【くれぐれも、安全に頼む】

【つい先程は『死にたい』だのと言っていた癖にな】

【流石に初めての飛行体験で死にたいと思うほど浪漫を捨てたつもりはないさ】

 竜は返事をしなかったが、そっと前足を差し出した。俺は鉤爪に足がひっかからないようにして乗り、前腕部を掴む。

 ばさり、ばさりと翼が動いて――身体が浮いた。


感想・評価、首を竜より長くして待っています。


矛盾点が見つかったので直しました。

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