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少女は今日も妄想する

待ってました下ネタ回。


 浮上した意識に従って目を開くと、視界の隅で何か大きな塊が動いた気がした。

 しかし、それに目を向ける前に、背中と右腕に走った激痛に歯を食いしばる。

「ふ、ぐ――!」

 悶えたいくらいだ。だが、それをしたら、きっともっと痛くなる。

 左手で右肩を抑えながら、仰向けの姿勢で痛みに耐える。

 動けないほどの激痛が収まるのを待って、ゆっくり息を吐き出しながら視線だけを巡らせる。

 なんか、いる。

 それは、高さだけで俺の倍以上あるでかい生き物で、首が長くて、胴体は割合ずんぐりむっくりしていて、膜の張った翼を持っていた。全身は鱗に覆われていて、鼻面から背中にかけて突起――角のようなものが生えていた。手足は大きく、その鉤爪は俺の身体など絹ごし豆腐のように簡単に裂いてしまいそうだ。

 その姿は、誰しもが一度は聞いたことのある生き物によく似ていた。すなわち、伝説上の怪物――(ドラゴン)である。

 ――話に聞くような、小高い丘ほどもあるというそれと比べれば、些か小さすぎるような気もするが。

 鱗の色は深い群青、藍色と言うのが近いだろうか、そんな色である。黒に近いようで、違う。好きな色だな、と思った。

 などと暢気に考えていたのだが、この生き物は俺のことを食らうのではないだろうか。

 まあ、いいか。

 死ねるなら、死んでしまおう。

【強がるな、人間】

 ――は?

 どこから声が聞こえたのか、誰がそれを言ったのか、どういう意味の言葉なのか。さっぱり分からなかった。

「今、誰、が……?」

【私だ】

 まただ。聞こえる声に反応して視線を巡らせても、見えるのは例のドラゴン――こっちを見ているようだ――と、八割方白骨化したドーガだけだ。

 え?

「私の、獲物……!」

 慌てて身を起こそうとして、また走った激痛にあっさり挫折する。出来る限り身体が動かないようにしながら、再び声を出す。

「あなた、は、一体誰……? どうして、ドーガが」

【私が食った。些か物足りなかったが、なかなかうまかったぞ。――そして私は私だ。先程からお前の目の前にいるだろう】

 ちょうどその時、目の前にいた(、、、、、、)ドラゴンが、グルルルル――と鼻から息吹を吐き出す。あたかも憤慨したかのように。

 は、まさかな。

【私だと言っているだろう。食い殺すぞ人間】

「え――」

 マジで、ドラゴンが話しかけてきているの、か?

 俺は戦慄を感じて目を剥いた。この世界に生まれてからこっち、伝説でドラゴンというものの存在を聞いたことはあれど、それと会話をしたという話は一切なかった。実在するだけで驚きだが、こんなファンタジー世界だ、そっちはまあある程度の想定内ではある。だが、それと会話したのは、俺が初めてだというのか?

【そんなはずはなかろう。竜と会話した人間はことごとくその直後に食い殺されているというだけの話だ】

 ――そう、か。じゃあ俺も死ぬんだな?

【まあ、このまま行けばな】

 ――あれ?

 そういえば、俺、声に、出したっけ? さっきも、今も。

【出していない。お前の表層意識に接続しているのだ。わからないのか?】

 わかるかっ。

 ……とはいえ、声を出さなくていいというのは楽でいい。先程から、声を発するたびに背骨のあたりがギシギシ軋むような痛みがするのだ。このまま吐く息もゆっくりできればいいのだが。

 大きく息を吸い込むと、右手の先に何か木片のようなものがあたったのを感じた。

 不意に嫌な予感に襲われ、そちらに目を向ける。

 俺の愛弓があった。見るも無残な姿で。

「ああ、くそ……」

 思わずつぶやく。何となくそんな気はしていたが、実際に目の当たりにするとキツいものがある。

【ふむ、とりあえず、私にお前を食う気は――それほど――ない。お前には供物を貰ったからな】

 別に捧げたつもりはないが、結果的に俺の仕留めた獲物が俺の命を救うことになったらしい。

 海老で鯛を釣る、という懐かしい言葉が頭に浮かんだ。

【む、面白いことを言う】

 言ってねえ。二重の意味で。

【――と、言うか、いい加減お前の表層意識に接続するのも飽きた。絡めろ】

 カラメロ? それはあれか、白くて丸い謎の生き物か?

 ……しかししばらく待っても返事がない。

「絡めるって……何を?」

 しばしの間。竜は苛立ったように鼻息を吐きながら首を振った。生暖かいというには温度が高すぎる空気が俺の顔面を直撃し、慌てて目を閉じて顔を背ける。背中に痛みが走って少々堪えた。

【これだから人間は無知で困る。餌にもならん。――《心の糸》だ。伸ばしてみろ】

 無理。と、いうか、《心の糸》って何スか。

 ――いや、まあ、やってみるか。

 ファンタジー世界のお約束、その一。イメージすればなんとかなる気がする。多分その二から先はない。

 自分の心があると想像して、そこから出る、なんだか白っぽい、うねうねした――触手?

【雑念を排せ、馬鹿め】

 そういえば、今は俺、女でした。触手があっても絡め取られるのは俺だ。

 ヌルヌル、溶ける服、ソコハラメェ、ラリった目、ガンギマリ、アヘ顔。そしてエンディングのダブルピース。

 色々想像駆け巡った末に、一旦落ち着こうと深呼吸。

【……随分、その、なんというか――淫乱なんだな?】

 迷った末に直球で来るのはやめて欲しい。

 気遣いのできるドラゴンとかちょっと気持ち悪かった。

【噛み殺すぞ】

 目の前でガチンガチンと牙が鳴った。今の俺はまさに俎上の鯉である。初恋もまだな清らかな女の子が、鯉をしまし――もとい、鯉になりました。うまくない。つまらない。申し訳ない。

 益体もなかった。くそったれめ。

 ――それで、《心の糸》ってどうやって出すんだ?

【自分の内部に、球体のようなものがあるのはわかるか?】

 ……黙って目を瞑る。今まで考えたことはなかったが、もしかしたらあるのかもしれない。信じて考える事、しばし。

「あ……」

 これか? なんだか、球体というより、出来損ないのモン○ャラのような触手が生えた気持ち悪いアレなんだが。

【それは私の《心の糸》だ。今から外す。こっちに伸ばしてみろ】

 モン○ャラが丸裸になって、球体が綺麗になった。気がする。

 そこから、糸が伸びているイメージだ。

 やっぱり俺のは竜のものと比べて数段増して触手っぽい。吸盤付き、先端はキノコのように傘が付き、微妙に粘液滴る特別製である。

【その汚らしい物を仕舞え!!】

 失礼。鼻からちろちろと漏れ出るオレンジ色の炎を見て、流石に少しやりすぎたかな、と反省。腹の底まで響く唸り声は、中々傷にクる。

 イメージで見た目も変わるらしい。今度は清純派の触手を伸ばし――イメージも慣れた気がする――、目の前の竜の《心の糸》と先端を絡めあう。

【ふむ、接続は出来たようだな。何か伝えてみろ】

【――あー、テステス、マイクテス。通っていますか?】

【何を言っているかわからんが、通っている】

 どうやら成功らしい。

 これで、俺と竜の意思疎通は先ほどよりも確かなものになったわけだ。

【それで、俺――いや、私はこれからどうすれば?】

【先程から思っていたのだが、お前、随分と男らしい思考の持ち主なのだな】

 ――やはり、か。

 言われる気はしていた。が、返す言葉がない。

 しばらくの間黙っていると、竜はくつくつと喉の奥を鳴らすようにして笑った。やはり吐息があっつい。

【まあいい。あっさりと《心の糸》を出したことも含め、お前には興味が湧いた】

【……そいつはどーも】

【ふん、そう警戒するな。お前を私の騎手にしてやろうと言っているのだ】


 ――は?


ストック切れ。

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