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虎さんシリーズ

タイム・トラ・ベル!

作者: しまもよう

興味を持ってくれた方、ありがとうございます。

 さて、古い古い話をしよう。今では、さほど珍しくない虎人族の物語だ。え? ああ、私も虎人族だ。まぁ、見ればわかるだろうどね。


 珍しい毛並みだ? そうだね。虎人族の殆どは黄色の毛並みだものな。銀は珍しいか。


 おっと、話がそれてしまったね。ところで、私がこれから語るのはここだけに伝わる昔話だ。





虎人族のハジマリ


 昔、大陸の中心にある森の奥深くに一匹の虎がいた。毛並みは白銀で強い魔力を持っていたそうだ。

 ある日一人の人間が森へ足を踏み入れた。しかし、虎のもとへたどり着いた時はもう虫の息だった。男は虎に魔法のかかった懐中時計と鈴を託した。


 そのあと男はすぐに息を引き取った。何も告げないまま死んだので虎はとても困った。


 なぜかって? 託されたものの使い方が分からないからだよ。この虎は使えないガラクタはエサより役に立ちゃしないということを知っていたんだ。


 フンッと鼻を鳴らして、何もせずにそこを立ち去ろうとした。


「そこの虎さん。どこへいくつもりだい?」


 死んだはずの男の声がした。もしや、生き返ったのか? そう思って振り向くとそこには……幽霊がいた。足が、無かった。


ガァァ……!?


 悲鳴|(?)を上げかけて気づく。幽霊は実体がないから、恐れることはないだろうと。

 警戒しながら話す。


ガルグァ?(何だ?)


「よし、そのままじゃ話せないから人型とって。なりたい形を思い浮かべるだけでいいからさ」


 思い浮かべると体が光に包まれ、人の体になっていた。……フムフム、自らの魔力を利用する術か。服というのはこんな着心地なんだな。靴は足が守られていいな。しかし、2本足には慣れるまで時間がかかりそうだ。

 初めて四足以外で立ってみて、その不可思議さに驚いた。


「テンション上がっているトコ悪いけど、話を聞いてくれるかい?」


 あ……幽霊のこと、すっかり忘れてた。


 様子を見て、男が話し出す。

 フム、男の名はヘヴンというらしい。そして厄介事に首を突っ込んで追われていたと。

 ヘヴンの説明(ある意味遺言だな)をまとめると、


1. 遠い過去から古代人を呼び出してしまった国がある。


2. どうにかして帰す方法を見つけたら古代人の技術を狙う輩に襲われた。


3. 懸命に逃げたが、この森で死んでしまった。


4. 時計と鈴の共鳴で過去へ行けるのでその子に使ってほしい。


 ……と、まあざっくり分けるとこんな感じだ。


「おーすごいすごい。よくまとまっているねー」


 幽霊が拍手してくる。まさか、


「オレの心を読んだのか!?」


「どうやらね、幽霊って他人の考えていることを簡単に聞けるみたい」


 非常識な。


「オレのプライバシーはどうなっているんだよ!」


「プライバシーって、難しいこと知っているんだね。プライバシー? そんなの最初からないって」


「横暴だ!」


10分後


「ハア、ハア、大分話がそれたが、時計と鈴の使い方はどうなんだ?」


「おっ。やってくれるのかい?えっと、使い方はねぇ~」


 簡単にまとめると、3メートル程の円に、古代人と入り時計の長針を反時計回りに3回まわし、鈴を鳴らす。帰りは円に入り鈴を鳴らすだけらしい。


 ふと視線を感じて振り向くとヘヴンが残念な子を見る目をしてこちらを見ていた。


「な、なんだよ。文句でもあるのか」


「君ね…考えるの苦手だろ。せっかく原理も説明したのにそこだけ抜けているのは聞いてなかったからだね?」


 ヘヴンが黒い笑顔で言った。


「えぇと…それは、その……」


 その通りなので申し開きのしようもない。


「ま、いいか。このロマンは仲間(誰か)が分かってくれるはず!」


「立ち直り早っ」


 そして、オレ達は王城へ向かった。……ヘヴンの転移魔法で。幽霊でも使えるのか。幽霊だからと言って警戒を解いたのはまずかったということか。

 今さらだが、かなりハイスペックだよなこの男。


「何かほめたー?」


「どこまで聞こえているんだ オレの思いはモロばれかっ」


「今更だ、気にするな。ってことで、王城にれっつ、ごー!」


「気にするに決まっているって、何だ!? 光が……」




――王城・大広間――


 今、オレ達は兵士(騎士か?)に囲まれている。こうなったのはオレの斜め後ろで明後日の方向を向いているヘヴンのせいだ。

 よりによってこの男、国王のいる大広間へ送りやがった。しかも説明はオレに丸投げで。

 王からの問いかけに答えていると、周りにいる人々の興味はヘヴンの死に移った。


「……そうか。ヘヴンは死に、お前が代わりにやるのか。なら、頼んだぞ! 正直、余は疲れた。古代人など呼ぶものじゃないと思い知ったわ。……こっちの文明の発展をばかにしおって」


 大分精神的にきているようだな。ぶつぶつ言う姿はなんか怖い。


「それではやらせてもらいますね。…ヘヴン、中庭の方がいいか?」


「ああ、うん。そのほうがいいかな。……っていうかどうしたのその口調?気色悪い」


「なっ。これは、その…まぁ、ここは王城だろ?慣れてないが敬語の方がいいと思って」


「ぶっっ。な、なるほど。慣れない敬語ほど見苦しいものはないね!」


 くっそう。肩まで震わせて笑いやがって。似合わないのは認めるが。



――中庭にて――


 手順通りに円を描き、古代人と呼ばれている人を待った。周りには国王をはじめとする国の重鎮が集まっている。心なしか、皆疲れてみえるな。


「 ところで、古代人ってどんな人なんだ?」


「 ああ、話してなかったっけ。古代人はね、この時代よりもずっと昔に生きていた人達のことだよ。私達の技術より遥かに進んだ技術を持っているんだ。そして、技術だけでなく魔術も向こうの方がいろいろある。想像力の差だって言ってたけど、私では模倣も出来なかったな」


 ヘヴンはすごい魔法を使えるよな。それ以上の力を持っているということか?

 10分ほどして、ようやく古代人がきた。かなり気の強そうな女だった。


「やっと帰れますのね! ここも案外楽しかったですわ。スキンヘッドを隠そうとする姿は斬新でしたね。かつらについてはこちらの方が進んでいると最後に言っておきますわ」


 ……なんか、さらりと笑えるネタを聞いた気がする。つーか重鎮の一部の弱味はにぎられているんじゃないか? 挙動不審なやつもいるぞ。まあ、スキンヘッド(笑)が弱味になるならだが。

 やれやれ。


「あー、すまないが、名前を教えてもらえるか?」


 この空気をなんとかしないとな。みんな怯えているみたいだが、何したんだ?


「エリス、ですわ」


「そうか、じゃあエリス、この円の中へ入ってくれるか?」


 オレは手順通りに動き、タイムスリップした。



――古代――


 オレ達が着いたのは古代の城の中庭らしい。出発した所よりはるかに豪華だ。建物は細かい細工がしてあって、庭はみたこともない植物がある。そして、空には三角形の物体(飛行機)と幽霊。


「って、幽霊ぃぃ!?」


 ヘヴンが普通に浮いていた。どうやってきた?


「すごいねぇ。一緒に行きたいって思ったら来れちゃった。」


 さすが。ハイスペック魔術師。


「どうもどうも。それにしても、過去の文明は想像以上に進んでるね。持って帰れないかな?」


「そもそも触れないだろうが!どうやるつもりだ?」


 クスクスと笑い声がして振り向くと、エリスが笑っていた。


「ごめんなさい。おもしろくて、つい。」


 ……おもしろかったか? エリスと俺では感性が違うのだろうか。


「ふ~ん。ひょっとして、そっちが素?」


「ええ。向こうでは演技していましたの。さっさと帰りたかったので。あ、あなたは帰る前にお礼の品を受け取ってくださいませ。私のあの態度でも怒らなかったことに対するお礼です。」


 そういって、エリスはどこからかマントを取りだして渡した。


「隠密用ですわ。顔は認識されにくくなっていて、さらに壊れにくい優れものです。」


「へぇ。すごいねぇ。帰りたくなくなっちゃったよ」


「それなら、こちらにいれば良いのではないかしら。あちらでは大した補助が付きそうにありませんもの」


「そうだね。死んじゃっているし」


 エリスからの贈り物を持ってオレは帰った。ヘヴンはここで過ごしていくみたいだからお別れだ。



 今回のことのおかげで、人と共に生きる道を望む虎人族含む獣人が多くなった。国王や貴族達が彼に感謝して市民権を与えたからだ。そして、新たな種族として虎人族が認められた。実は当時は人間と獣人は互いに蛮族だと思っていたんだ。でも、話せば分かる、分かり合えると知って互いに歩み寄ることにした。


 しかし、白銀の虎はいつの間にかいなくなっていた。そして、時計と鈴の行方もわからなくなっていた。

 人々は彼こそが虎人族の始祖であり、「ハジマリの虎」だと語り継いでいる。




 そう締めくくった男は、懐中時計を取りだし時間を確かめ、


「ふぅ。ずいぶん時間をとってしまったな。聞いてくれてありがとう。」


 と言って去っていった。

 丁度差した光に浮かんだその姿に一筋の銀色が見えた。……そう、話の中のトラのような白銀。本当の色は、まさか……。


 多くの魔力を持っている生き物は長命だという。ハジマリの虎はこの話に生き、いつまでも語り継がれるだろう。


ちょっと解説



虎人族はハジマリの虎が世界中を旅する過程で魔力持ちの虎に変化の仕方を教えたことで現れた種族。虎からなり、魔力を持ってさえいれば虎人族を名乗れる。

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[良い点] キャラの個性がしっかり出されていたと思います。 短い作品ながら、スっと読むことができました。 [気になる点] !や、?の後は一字空けた方がいいですね。 [一言] 突然失礼いたしますm(_ …
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